真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「性欲過多症 たまらない人妻たち」(1997『不倫狂ひの人妻たち』の2008年旧作改題版/製作:フィルムハウス/提供:Xces Film/脚本・監督:上田良津/企画:稲山悌二《エクセスフィルム》/プロデューサー:伍代俊介/撮影:創優和/照明:藤塚正行/編集:金子尚樹《フィルムクラフト》/助監督:諸星満門戸/制作担当:真弓学/監督助手:豊田明弘/撮影助手:大塚雅信/照明助手:米久田由美/ヘアメイク:大塚春江/スチール:西本敦夫/録音:シネキャビン/効果:東京スクリーンサービス/現像:東映化学/出演:坂上みすず・杉本まこと・葉月螢・吉田祐健・林由美香・白都翔一・大原猛司《友情出演》)。主演の坂上みすずが、ポスターには坂本みすず。何れの名前でも活動の痕跡を俄かには追ひ難く、もうどちらが仕出かしたのか判らない。それとカメオの大原猛司は、本篇クレジットのみ。
 見るからな連れ込み感清々しいホテル「マリオン」での、山下直美(林)と三谷健一(杉本)の不倫の逢瀬。事後直美は、母の意向で実家に帰り造り酒屋の一人息子と見合することになつた旨、自ら綺麗な別れを切り出す。その頃三谷家では、健一の帰りを待ち呆けた良枝(坂上)が、戯れにテレクラを利用したテレフォン・セックスに興じる、絶頂に達したところでタイトル・イン。漸く帰宅した健一を求めるも疲れてゐると無下に断られた直美は、男(多分白都翔一)に手荒く抱かれる幻想を見る。
 新版ポスターでは略字の葉月螢は、街行く良枝に声をかける、女子高時代のテニス部先輩・原田美由紀。美由紀はOB会にも顔を出してゐないといふので、アバンのテレクラに於ける二十二歳といふ自己紹介に良枝が鯖を読んでゐなければ、良枝とは四年ぶりの再会となる。何でそんなにセレブなのかよく判らないが、美由紀が連れる、そこそこハンサムな若い運転手役は誰なのか全く不明。現在は互ひに既婚だが、当時、美由紀と良枝は美由紀主導で百合の花香る関係にあつた。何故か手には怪我をして妙にオドオドした吉田祐健は、美由紀の夫で脚本家の義彦。美由紀が良枝を伴ひ帰宅すると、夕方締め切りの仕事は終つてゐるのかゐないのか、姿を消すやうに飼ひ犬・ロッキーの散歩と称して一旦退場する。白都翔一は、後に白昼堂々美由紀が自宅に連れ込む間男・佐久間。美由紀と佐久間の、女王様プレイは絶品、作中唯一。佐久間の「美由紀様・・・!」といふ哀願に対し美由紀は、といふか要は葉月螢が、「美由紀・・・?そんな名前知らないねえ、アタシは女王様だよ」。何だこの台詞、

 ドリフの神様コントかよ。

 大原猛司は、身長180センチ、トム・クルーズ似の二十五歳とテレクラでは偽つたものの、実際に会つてみると背丈は良枝とさして変らず、加へて小太りの三十男で待ち合はせた良枝をポップに憤慨させる木村。容姿と歳は兎も角、本物のトム・クルーズ(公称ですら170)も180はなからう、そこは許してやれよ。
 “姿を消した関根プロの新星”(候補)上田良津第四作。大蔵映画(現:オーピー映画)に転戦しての、第五作「不倫告白 ふしだらな人妻」(1998/脚本・監督:上田良津/主演:広瀬真紀)と、第七作にして現時点での最終作「発情乱れ妻」(1999/脚本・監督:上田良津/主演:夢乃)―何れもプロデューサーは関根和美で、製作は関根プロダクション―の二作に関しては、ウッスラとではあれ、硬質で見応へのある印象が残つてゐた。そのため、今回遠征の予定に組み込んだものであつたのだが、結論から述べると、今作の咎でエクセスから放逐されたのかと勘繰りたくなるほどの、正しく何処から突つ込めばいいのか判らない盛大な木端微塵。正直、激しく予想外であつた。
 何から手を着ければよいものやら本当に途方に暮れるので思ひつくまゝに筆を滑らせると、逆サバは考へ辛いゆゑ、最低でも四年ぶりの再会の割に、何時の間に美由紀が良枝のテレクラ狂ひを知つてゐたのかがてんで判らない。美由紀の車に良枝が同乗したところで幕を開ける、高校時代の良枝と美由紀のレズ濡れ場の回想が、てつきり良枝のものかと思つてゐたら美由紀のものであつた点にも面喰はされたが、それ以前に、過去の回想中に、その過去時制よりは現在に近い、別の回想を更に捻じ込む、などといふ画期的にアヴァンギャルドな編集には頭を抱へさせられた。何をいつてゐるのかよくお判り頂けないやも知れないが、何をやつてゐるのだかサッパリ判らない映画につきもう仕方がない。美由紀のアドバイスを受け、日々の生活に刺激をと帰宅した健一を良枝が裸エプロンで出迎へるところまでは百万歩譲つて―普通の夫ならば、理由はどうあれ妻が錯乱したと思ふに違ひない―ひとまづ兎も角とするにせよ、そこからの夫婦生活が、現実なのかさうではないのかも微妙に不鮮明な、唐突な処理も消化不良を伴なふ疑念のほかには何物も生み出さない。木村を袖に再び良枝が原田家を訪れて以降は、美由紀と佐久間の濡れ場で笑かせて呉れる以外は最早支離滅裂。開巻に於いて、さりげなくクローズ・アップされるところまでは手堅かつた筈の、マリオンの紙マッチ。ところが、良枝がそれをたとへば夫の上着から見つけるカットは綺麗に素通りしておいて、二度目の健一と直美の絡み。そもそも何をそんなに怒つてゐるのか、その時点では未だ不明な健一の暴力による尋問に屈しての藪から棒な直美の、しかも不十分な告白を通過した上で漸く、紙マッチを良枝と健一が二人写るフォトスタンドの脇に置いておいたところで一体何がしたいのか。加へて、へべれけなジャンプ・カットを経ての直美のお見合に関しても、直美から健一に別れを告げた時点での既定事項ではなかつたか、物語が一切繋がらない。ここまで映画がグチャグチャだと、上田良津が何も考へずに映画を撮つてゐるとは考へ難いとするならば、何を考へてゐるのだか全く判らない。原田家にて、美由紀に操られた義彦に良枝が陵辱されるところまでは、事の是非をさて措けばピンク映画の展開としては頷けるにせよ、その後三谷家で健一からの電話に出ぬ良枝が、佐久間にも犯されてゐるカットで助走をつけた意味不明は、空前絶後に訳の判らないラスト・シーンで、明後日の彼方の斜め上に飛び抜け、そして映画の底は完全に抜ける。いふまでもなく、それどころではないといふ騒ぎでそもそも軸なんて存在しない以上、良枝・美由紀・直美。三人の女の内、一対誰が主人公であるのかといふのも、実は判然としない。観客を釈然とはさせないこと、その一点に、全てを注いだとでも曲解しないととてもやつてゐられないある意味問題作。正直をいふと、途中で寝落ちてしまつたため渋々二周した上で、改めて愕然とさせられた。
  空前絶後に訳の判らないラスト< 颯爽と正装で街行く女房と擦れ違つた健一が、豆鉄砲を喰らつて終り、ポカーンとするのはこつちの方だ。百合の途中で捻じ込まれる重回想は、美由紀が結婚前、義彦から手篭めにされる一幕


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