真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「家庭教師 いんび誘惑レッスン」(2013/製作:フリーク・アウト/提供:オーピー映画/監督:国沢☆実/脚本:内藤忠司/撮影:佐久間栄一/撮影助手:池田直矢・春木康輔/助監督:田口敬太・名倉健朗/録音:シネ・キャビン/ネガ編集:フィルムクラフト/効果:梅沢身知子/スチール:本田あきら/音楽:星貴也/フィルム:報映産業/現像:東映ラボ・テック/協力:佐々木麻由子・劇団展望/出演:早乙女らぶ・篠田ゆう・間宮結・野村貴浩・前沢健太・村田頼俊・内藤忠司・沼田大輔・牧村耕次)。出演者中、内藤忠司は本篇クレジットのみ。
 派遣家庭教師の相羽夏子(早乙女)と、山内健嗣似の男子高校生・小池卓也(前沢)の国語の授業風景。部屋の片隅にエレキ・ギターを見つけた夏子は、勝手に触るとサクサク点火。卓也の筆卸を致してゐるところに、折悪しく声のみ(誰?)で母親帰宅、夏子は衣類を抱へ窓から飛び出す。夏子が何と全裸で往来を逃走する、驚愕のショットを叩き込んでタイトル・イン。開巻には素直に度肝を抜かれた反面、先走ると結果的には、奈落の底に突き落とされる。
 川地派遣家庭教師センター、所長の川地五郎(野村)は卓也母親の苦情を受け夏子の担当を、五十六歳にして改めての大学進学を目指す、配管工の渡辺英次(牧村)に替へる。志望学科も決めてゐないアバウトな渡辺との初対面を噛ませて、未亡人女将の江波芳江(間宮)が営む小料理屋。常連客の渡辺とは男女の仲にもある芳江は、渡辺の家庭教師が小娘であることにポップに角を生やす。そこに外出がてら姿を見せる芳江の娘・亜美(篠田)は、母親と渡辺の交際を容認。渡辺が川地派遣家庭教師センターを頼つたのも、亜美が元家庭教師の川地と付き合つてゐる縁に端を発してゐた。亜美の外出は川地との逢瀬、そんなこんなで母娘のともに一度きりの濡れ場が併走。2008年第一作「居酒屋の女房 酔ひ濡れ巨乳」(脚本:岡輝男/主演:ささきふう香)以来の三本柱となる間宮結は矢張り些かキツい、とりあへず、その研ナオコみたいなアイシャドウはどうにかならんのか。夏子と渡辺の授業がお気楽に進行する中、渡辺のことが気が気でない芳江と、夏子に下心を残す卓也は周囲に蠢動する。
 2012年は前半戦の二作に止(とど)まり半年沈黙した、国沢実の世間一般的には正月第二弾に当たる2013年第一作。舞台方面もお忙しいやうだが、私見では国沢実には、まだまだどころか全然マッタリして貰つてては困るのだが。兎も角、余した力が明後日だか一昨日に暴発したのか、一週前に封切られた加藤義一の「義父と姉妹 桃汁味くらべ」(脚本:蒼井ひろ/主演:辺見麻衣)に劣るとも勝らない、衝撃の木端微塵系大問題作。日常生活にも支障を来たすのではないかと心配される、ギターの音色に夏子がフルスイングで欲情するギミックが何れの発案によるものなのかまでは、映画を観てゐるだけでは最終的にも何も判断をつけかねる。ものの、内藤忠司の敷いた基本線は、世間の狭さが上手い具合に交錯する芳江・亜美母娘と渡辺・川地の二つの恋路を、尻軽の家庭教師がシッチャカメッチャカに撹乱する。やがては人情風味に落とし込む定番の桃色喜劇にあつたのではないかと、芳江と渡辺の濡れ場に限らず絡みを観てゐると何となく思はせる。ところが、間宮結がキャット・ファイト仕込みのキレッキレの動きを何気に披露する、亜美以外の主要キャスト全員が器用に揃ふ渡辺宅での第一次修羅場明け。川地に連れられ夏子が頭を冷やしに海岸に向かふ辺りから、雲行きは猛烈に怪しくなつて来る。出し抜けに国沢実の暗黒面起動、木に竹も接ぎ損なふ孤独を夏子が持ち出すや、頭を抱へる間もなくあれよあれよとまさかのドミノ式皆殺し展開に突入、国沢実はこの期に富野―由悠季―にでも憧れたのか。文字通りの死屍累々の果てに、夏子がてれんこてれんこと踊る地獄の底も抜くラストまで一直線。極大の絶対値のベクトルが逆向きであるのが重ね重ね惜しい、平板な面白い詰まらないを粉砕する一作。全盛期の清水大敬―全盛期?―にも匹敵する絶望的な破壊力、ここまで壊れた映画も久し振りに観た気がする。虚無感と紙一重の、正体不明のこの清々しさは一体何なのか。

 出演者残り村田頼俊と内藤忠司は、終盤戦場と化した病院内に正直無駄に見切れる、車椅子の入院患者と医師。村田頼俊はお情けレギュラーとして、内藤忠司の心中や如何に。忘れてた、沼田大輔は、夏子が耳を傾けるストリートミュージシャン。渡辺と軽いデート中の夏子に、公園でギターを爪弾く沼田大輔を絡めた一幕は、非常にいい感じであつたのに。


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