真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴漢電車 夢指の熱い調べ」(2012/制作:ラボアブロス/提供:オーピー映画/脚本・監督:田中康文/撮影:下垣外純/照明:北村憲祐/編集:酒井正次/音楽:宮川透/助監督:江尻大/撮影助手:中村純一・矢澤直子/監督助手:酒村多緒/スチール:津田一郎/メイク:ユー・ケファ/録音:シネ・キャビン/現像:東映ラボ・テック/応援:小林徹哉・関谷和樹・鎌田一利・中川大輔・冨田大策・百瀬賢人/出演:沙月由奈・星野ゆず・倖田李梨・久保田泰也・北川帯寛・佐々木基子・サーモン鮭山・牧村耕次・池島ゆたか・広瀬寛巳・太田始・荒木太郎・色華昇子・別所万伸・河口啓介・末田スエ子・電車乗客のみなさま)。出演者中、色華昇子以降は本篇クレジットのみ。明らかに不自然な酒村多緒の演出部に関しては、本篇クレジットまゝ。
 ともに痴漢の大ベテランである源太(池島)は辰夫(牧村)と合流し、高田馬場駅から電車に乗る、電車ショットを噛ませてタイトル・イン。混雑する車中には、痴漢させた相手から金品を失敬する―不登校だけど―女子高生スリの久美(沙月)、組に草鞋を脱ぐチンピラのヒモ健(北川)と、スケの彩乃(星野)の痴漢美人局コンビ。後に久美に受験票の入つた財布を掏られた過去が語られもする、浪人生の幸一(久保田)に、更に女痴漢捜査官―設定上は鉄道捜査官らしい―の由香(倖田)、一癖も二癖もある連中がひしめき合ふ。ところで、改めていふが、北川帯寛はそこそこ以上にイケメンではある反面、大きな役を与へると絶望的な目の表情のなさが致命傷。源太と辰夫は二手に別れ、源太は一目惚れした久美を、辰夫は由香を攻める。一方久美は、かつて実際に痴漢された際に助けて呉れた、ヒモ健に想ひを馳せてゐた。降車後源太は辰夫に、久美が思ひ出の弥生なる女に瓜二つであると語る。
 膨大な乗客要員は措いておいて、潤沢なその他配役は登場順に、太田始が、彩乃の色香に惑はされヒモ健に捕まり、かけるサラリーマンA。源太と辰夫の牽制を受け思ひ留まるかと思ひきや、結局はひつかゝつたやうだ。荒木太郎は、辰夫から由香を譲り受ける形のサラリーマンB。辰夫の長けた指戯には我を忘れるも、触り手が代り我に返つた由香に逮捕される。サーモン鮭山は、辰夫を取逃がし荒れる久美に喰はれる部下・郷田。この二人の絡みが動く動く、この辺りまでは、全く快調であつたのだが。辰夫は違法駐車の取締り、源太は放置自転車の撤去で官憲の手先となり日銭を稼ぐ。河口啓介と末田スエ子は、ここでの辰夫の相方と、源太の下に鍵の外せない自転車を押しつけに来る女。もう一人御大将の田中康文が、逆ギレし辰夫をボコるDQN役。佐々木基子は、私立病院を経営する久美の母親・涼子。医者としてにせよ経営者としてにせよ娘に病院を継ぐことを強ひ、そのことが、要は久美の不良行為の源であつた。田中康文前々作、兼電撃オーピー移籍作「女真剣師 色仕掛け乱れ指」(2011/主演:管野しずか)に見切れてゐなければ、「未亡人銭湯 おつぱいの時間ですよ!」(2010/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/主演:晶エリー《ex.大沢佑香》)以来案外久し振りとなる色華昇子は、辰夫が誤爆する殆どヒムセルフだかハーセルフ。因みに色華昇子を登用した同趣向のネタは、森山茂雄第七作「痴漢電車大爆破」(2006/脚本:佐野和宏・森山茂雄/主演:園原りか)以来、六年ぶり四度目。久々に観ると有難いものにも見えたのは、多分気の迷ひに違ひない。別所万伸は、公園で黄昏る久美に声をかけ、パンチラ写メを撮らせる交渉が成立したかに見せかけて、財布を掏られるサラリーマンC。そして今作の助演男優賞が、ドス黒いドーランと度派手なドレスシャツとで武装すると、ヒモ健から上がりを巻き上げる兄貴分・北島を凄演する広瀬寛巳。定番のTシャツ芸は何処吹く風、ウッカリひろぽんだなどと呼びかけるとブチ殺されかねない勢ひの、こんな悪い広瀬寛巳は初めて観た、これは映画的な大勝利だ。
 大蔵映画時代からの歴史ある正月痴漢電車の栄を得た、田中康文2012年第二作。とはいへ、主演女優がよくいつて肉と同時に華も削つてしまつた成田愛の劣化量産型、直截には何処から連れて来た感が迸る別の意味での綺麗な魚顔。映画本体の方も、所々穴が開きつつも、魅力的な面々が矢継ぎ早かつバラエティ豊かに飛び込んで来る充実した序盤まではいいとして、本筋の覚束なさに暗雲が立ちこめ始める中盤を経て、田舎ロケ―何処だか判らんが本当に何もない―まで敢行しておきながら、決定打に欠いた終盤は逆の意味で見事に失速する。表情の乏しさから難のある久美とヒモ健のエモーションは判然とせず、そんな中でも単騎で展開を制し得るだけの突破力は、久保田泰也は端から持ち合はせない。殆どマクガフィンじみて来る弥生の物語に下手な遊びを持たせた結果、牧村耕次と池島ゆたかの足までもが宙に浮いてしまふ始末。久美への片方向の恋心をウジウジと拗らせる幸一に、源太はガッハッハ系の発破をかける。大して曲がらない変化球よりも、渾身の直球だと。それは全くその通りであるにも関らず、問題なのは当の今作がピッチングもとい映画の組立に失敗し、ストライクに入らうと入るまいと、バットを振らせやうと打たれやうと、そもそも直球すら投げ損なつた印象が強い。飯岡聖英と比べるのがそもそも間違ひに思へなくもないが、ガード下で幸一が久美を伴つたヒモ健と対峙する一幕以外、画の力も総じて弱い。拡げた風呂敷が畳めないくらゐならば、これまで一貫して大所帯を戦ふ田中康文には一度三対三のデフォルト・ミニマムでの、腰を据ゑた作劇を観てみたい気もする。

 個人的に想起したあるいは欲しかつたのは、源太がムッシュの将来の姿であるといふ一ネタ、適当な無茶苦茶をいふやうだが。あれ?となるとゴールドフィンガーとカミさんの佐々木基子も居るけど、ゴールドフィンガー逮捕されてたら駄目ぢやん!


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