真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「覗き痴態 わき毛の熟女」(1998『盗撮熟女 すけべな浴室』の2009年旧作改題版/製作:IIZUMI Production/提供:Xces Film/脚本・監督:北沢幸雄/企画:稲山悌二《エクセスフィルム》・業沖球太/製作:北沢幸雄/撮影:図書紀芳/照明:渡波洋行/編集:北沢幸雄/音楽:TAOKA/録音:中村幸雄/助監督:堀禎一/監督助手:三輪隆/撮影助手:袴田竜太郎・市川修/照明助手:小倉正彦/ヘアメーク:りえ/スチール:佐藤初太郎/ネガ編集:酒井正次/タイトル:道川昭/録音所:シネキャビン/現像:東映化学/出演:秋吉かほり・篠原さゆり・サイコ国沢・佐々木基子・牧村耕二・杉本まこと)。
 夜の松本家、離婚後姉夫婦宅に居候する北原礼子(秋吉)が呑気にシャワーを楽しんでゐると、親戚の葬儀から姉・陽子(佐々木)とその夫・俊之(杉本)が、開巻早々喧嘩しながら帰宅。陽子は俊之が九州転勤を自分より先に叔父に打ち明けてゐたのに臍を曲げ、先に風呂を浴びさつさと寝る。半年前に前夫と別れて以来すつかり御無沙汰の礼子は、姉とは長くセックスレスの状態にあるらしき義弟を清々しく気軽に誘惑すると、浴室にて情を交す。事後恐々寝室に入つた俊之が、陽子が寝てゐるのを確認して床に入つたところで、出し抜けに杉本まことにピン・ライトが当てられたかと思ふとカメラの方を向き、「良かつた、女房にバレたらどうしようかと思つた」。「それにしても、女房以外の女とのセックスつて、どうしてこんなに気持ちいいんでせうねえ」だなどと、俊之は説明的な安堵を観客に対して漏らす、

 何だこの演出。

 少なくともこの時点にまで於いて、幾ら導入部に止(とど)まるとはいへそれにしても正方向には一欠片たりとてどうといふこともない上で、藪から棒に北沢幸雄が繰り出したらしからぬプリミティブな無茶もしくは粗相に、一体これからこの映画はどうなつてしまふのだらうかと、道を明後日に外れた期待感はひとまづ喚起される。期待といふか、要は半分以上困惑に占められてもゐるのだが。
 翌朝、家は別々に出たものの、葛藤も隠せない俊之に対し礼子から纏はりつく形で二人連れ立つて出勤する一方、陽子は洋服箪笥の中からジョイトイを取り出すと、朝つぱらから自慰に耽る。陽子も陽子で、決して肉の悦び自体を全否定してゐる訳ではないのなら、夫を受け容れてあげればいゝのに。
 絡みも堂々こなす、純然たる役者として参加する国沢実の役者名義のサイコ国沢は、礼子の新恋人にしてクローン研究者・川井彰。人混みに出れば秒殺で酔ふ勿論大絶賛童貞の堅物と、礼子がどのやうにして出会ふに至つたのかは全く語られない。デート中の二人を川井の部屋に放り込む方便として、田中(誰なんだ)を捕まへようとして川井を突き飛ばし、足を挫かせる大柄な男は堀禎一。事実上濡れ場を連ねるピンク映画の生理のみに殆ど従ひ、俊之は舌先には反しズルズルと義妹との関係を重ねて行く。牧村耕二は、俊之が礼子との不倫に関して相談を持ちかける友人の谷憲司郎。ところが谷はそんな俊之のナイーブさを一笑に付すと、部下兼不倫相手の佐野英美(篠原)を呼び寄せ、マゾヒストの資質があるとの英美を剃毛するプレイを、俊之に見せつける。まあ然し、物憂げな篠原さゆりに絆されて縦に振れぬ首でもないが、何と自堕落な展開よ。もう少し全体の作りが硬質でなければ、珠瑠美の映画といはれても頷けよう。
 英美を伴なひ谷が抜いた映画の底が、塞がれる修復は結局終ぞない。仕方がないのでトレースしてのけるが、礼子は俊之との関係は継続する腹のまゝ川井と二度目の結婚を決め、他方、俊之はといへば陽子との関係は依然一ミリも改善されない上に、子供もゐないといふのに単身赴任で九州の地に独り寂しく旅立つ。さういふ次第の、本筋らしい本筋も姿を現さず仕舞ひの出来自体から無体な物語に、都合四度炸裂する俊之ピンスポ・モノローグなる頓珍漢な飛び道具のほかには、詰まるところ特にも何もこれといつた見所は全くない。製作から脚本・監督・編集までと、四役を自ら務めながら北沢幸雄は、一体何を考へてかういふ最大限によくいへば他愛もない映画を撮つたのかが晴れやかに度しかねるミステリアスな一作。直截にいふと、ルーチンな珍作である。

 ところで、フと原題を鑑みたところ、あれ?今作の中に盗撮要素なんて何処にあつた!?新題も新題で、腋毛なんて生やしてたつけな、何から何処までグダグダだ。そんな微温湯に浸かるやうなマッタリとした映画体験も、時には一興と思へるやうになつた。えゝんかいな、それで。


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