真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「股を拡げたエロ夫人」(1995『淫臭!!年増女の痴態』の2012年旧作改題版/製作:サカエ企画/配給:新東宝映画/監督:新田栄/脚本:岡輝男/企画:中田新太郎/撮影:千葉幸男/照明:高原賢一/編集:酒井正次/助監督:国沢実/音楽:レインボーサウンド/監督助手:北村隆/撮影助手:島内誠/照明助手:原康二/録音:シネ・キャビン/効果:中村半次郎/現像:東映化学/出演:如月じゅん・風見怜香・桃井良子・樹かず・竹二郎・中田新太郎・丘尚輝・高橋正浩・神谷友映)。
 風鈴と夏の花々、蚊帳越しに覗く室内には、胸の深い谷間も露に浴衣を肌蹴させる中年女(風見)。新田栄らしからぬといへばらしからぬ、季節感を丁寧にトレースした開巻ではある。室内には風見怜香のほかに、広げられた英語の教科書と、半ズボンの河相サトル(樹)がモジモジ所在なさげに体操座りする。状況がよく見えないが、風見怜香を河相が“先生”と呼ぶのに注目すると、夏休みに女教師自宅でのプラーベート・レッスンとでもいふ寸法なのか。兎も角、といふか兎に角風見怜香は爆乳を放り出すと河相を誘惑、筆を卸すのは要は可哀相な美少年が淫行女に喰はれてゐるやうにしか見えない点は、改めていふまでもあるまい。対面座位から、騎乗位に移行したタイミングでタイトル・イン。
 タイトル明けるや、そこまでの一幕を丸々清々しく夢オチで落としてみせる。要は、放り込むのに窮した三番手を、無理からアバンに捻じ込んだ苦肉の策である。森の中での、現在二十四歳の河相と、交際を周囲には秘した彼女・尚美(桃井)の逢瀬。青姦に突入しかねない雰囲気を漂はせるも、終始煮え切らない河相に尚美が業を煮やし、捨て台詞紛れに河相の親友である隆史から、求婚されてゐる旨を告げる。その夜、実車輌での撮影による河相がくたびれながら揺られる通勤電車。ポップに泥酔した岸田チカコ(如月)に絡まれた河相は、その場の強引な成り行きで完全に潰れたチカコを荻窪の家にまで送り届ける羽目に。事後明らかとなるのが十五歳上のチカコはバツイチゆゑ、一人住まひの岸田家。チカコを寝かしつけた河相は、終電がなくなつてしまつただけの理由で、無造作にもそのまゝ一泊することを選択。今度は起き出したチカコが眠る河相の尺八を吹き、二人は一戦交へる。迸る展開の上から下に流れ加減、新田栄はかうでないと。翌朝、荻窪から出社する河相は、一旦はチカコとのことは一夜の過ちに済ます心積もりであつたが、隆史(丘尚輝=岡輝男)から尚美との結婚を報告する電話を受けるやヘアピン翻意。前夜、事の最中に弾みで割つたサンリオ社製カエルのキャラクターのグラスを買ひ直し、手土産に岸田家を再び訪ねる。濡れ場の途中に割れたグラスの画をわざわざ挿み込むのは、何の気の迷ひかとその時は面喰つたが、まさか新田栄がそれを回収するとは思はなかつた。油断してゐた、当サイトの迂闊な負けを認める。
 配役残り中田新太郎は、色恋にうつゝを抜かし仕事に身の入らない河相に基本眉を顰める、河相上司。河相の対面列には社員要員として、新田栄がシレッと見切れる。後に、教師から転職したのか、風見怜香がママを務めるスナックに河相がチカコとの関係の助言を求めに行く件に際しても、新田栄は客要員として再登場。当然ここは別人の形となるため、なかなか図々しい内トラぶりではある。何れかを、国沢実に譲つてもよかつたのでは。風見怜香の店は、物件的には摩天楼を隠したバー「マンハッタン」(仮称)にも見えたが、自信は然程ない、なら書くな。竹二郎は、息子のユータを事故で喪つて以来溝を生じ離婚に至つた、チカコ元夫。復縁を望み、チカコの生活の面倒を依然見つつ、時には肉体関係も持つ間柄にある。正直名前からだけでは事前に手も足も出せなかつた高橋正浩と神谷友映は、隆史宅での尚美との結婚を祝した一席に、河相とチカコ以外に招かれたパーティー要員。神谷友映は、女性である。
 後付に思へなくもないのは強ひてさて措き、新東宝が年を跨いで公式に一括りとする、「エロをばさま」シリーズの最終第三弾。何はともあれ、完走を果たせたラックを慶びたい。病も膏肓に入るどころでは最早済まない話だ、底を抜かすにも限度があるぞ、俺。自戒は地獄ででもすると先伸ばして、ビリング・トップが女岡田謙一郎である悲劇を通り越した惨劇を忘れられれば、案外以上にお話自体は全うな仕上がりの第一弾。対して、取りつく島もなく自堕落な第二弾。果たして、第三弾の出来栄えや如何にといふと。三條俊江よりは大幅にマシな鶴見としえから更に加速して、如月じゅん―そもそも、「をば様たちの痴態 淫熟」に於ける設定スペック44才はおかしくないか?―はいふほどをばさまをばさまは全くしてゐない。大雑把に譬へると早瀬瞳のお姉さんとでもいつた風情で、をばさんといふ言葉は悪いが際物路線といふよりは、全然普通に戦へよう。ところがさうなると、逆に難しくなりもする辺りが皮肉な点。今作を簡単に掻い摘むと、順当に手数も重ねる恋の右往左往の果てに、歳の大きく離れた二人が目出度く結ばれる、ひとまづは綺麗なラブ・ストーリー。とはいへ、物語の完成度はあくまで“ひとまづ”に止まりもする。ここでヒロインが―直截にも過ぎるが―お化けである場合、展開の素直さがそれなりにではあれ却つてもしくは相対的に際立つラックもなくはないのだが、如月じゅんが下手に汎用機体であるだけに、そのブースターは機能しない。と同時に、頭と腹を抱へながらツッコミ倒す、不毛な観戦に戯れる途も閉ざされる。そこそこの女優を主演に据ゑた、そこそこの変格恋愛映画。そこそこであれば新田栄にしては上出来だ、などといふ淫らな逆差別では、この期に個人的には満たされ得ない。ザックリ総括すると、一勝一敗一引き分け。さういふ結果に、「エロをばさま」シリーズは落ち着くといへるのではなからうか。

 ところで、設定上荻窪三丁目の岸田家舞台となるハウススタジオが実際に存するのは、都内は都内でも二十三区内ですらなく、日野市であつたりもする。このことは、表のゴミ回収ボックスから看て取れる。


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