真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
仮名遣ひは正仮名を使用。
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ノーパンの蕾 濡れたいの
主に渡邊元嗣と、わ行
/
2012年05月11日
「
ノーパンの蕾 濡れたいの
」(2011/製作:ナベシネマ/提供:オーピー映画/監督:渡邊元嗣/脚本:山崎浩治/撮影:飯岡聖英/照明:小川満/編集:酒井正次/助監督:永井卓爾/監督助手:山田勝彦/撮影助手:宇野寛之・秋戸香澄/照明助手:八木徹/効果:梅沢身知子/協賛:ウィズコレクション/出演:西野翔・酒井あずさ・岡田智宏・西岡秀記・サーモン鮭山・山口真里)。
繁みの緑から逆パンするとカメラの望遠レンズ、対象の山田誠(サーモン)が黒のアコーハットを目深に被つた、足の露出が幾分過多なさそりルックのデリヘル嬢と落ち合ふ。女の顔を確認した、私立探偵の諏訪徹(岡田)は表情を変へる。そそくさとホテルに入つての、山田と、高級デリヘル「愛のあけぼの」のデリ嬢・秋葉未華(西野)の昼下がりの情事。“濡れたら直ぐに入れられるやうに”と称したノーパンで山田を感激させながらも、未華はローションを取り出す。ローションの青い小瓶を押さへて、“蕾”の赤と、“濡”の青が鮮烈に映える01カラーのタイトル・イン。
所変つて、壁に不必要に貼られたチラシがスタイリッシュを邪魔する、諏訪探偵事務所。山田の女房に浮気調査の結果を電話報告し、一仕事終えへたといふにも関らず沈んだ風情の諏訪に、悩ましい胸の谷間をチラ見せどころかガンッガンに押して来る、電話番の三谷葵(山口)が何かと絡む。後に明らかとなる葵の立ち位置は、諏訪の調査の結果離婚させられた葵が、押しかけ電話番の座に納まつたといふもの。何と羨ましい、もとい使ひ捨てるには惜しい、魅力的な設定でもある。葵を無造作に追ひ払ひ、諏訪はアコーハット嬢を呼ぶ。矢張り人違ひではなく、女は諏訪の死んだ親友の妻・未華であつた。驚きの再会を果たすも、さりとて事に及ぶ訳にも行かず、困惑する諏訪を残し未華はクールに踵(きびす)を返す。一拍置いて後を追ひ往来に飛び出した諏訪に対し、ピントを外された雑踏を背景に振り返つた未華が寂しげに微笑む、映画的かつ情感豊かなスローモーションが超絶。荒木太郎2011年第二作「
発情花嫁 おねだりは後ろから
」に於ける、兄妹(荒木太郎と淡島小鞠)の今生の別れ際といひ、飯岡聖英は油断してゐるととんでもないショットを叩き込んで来る。如何にも楽しげなハイキング風景に渡邊元嗣の女優愛が穏やかにも頑強に火を噴く、未華の回想。未華は諏訪の親友の秋葉佳樹(西岡)と結婚する。藪から棒なSM風味の夜の営みも織り込み、ともあれ幸福な結婚生活を送る未華ではあつたが、ある日理由も報せず、佳樹は排ガス自殺する。その時以来、未華は潤ひも喪つてゐた。ここで明らかとなる、一見微温を感じさせるタイトルの、悲愴な真の相が胸を撃つ。明けて画面一杯の度迫力どころでは最早納まらない、破天荒な胸の谷間を山口真里が放り込みつつ、未華への複雑な想ひと酒に溺れる諏訪は、未華の風俗の同僚で人妻の、千帆(酒井)に接触する。下衆なことをいふやうだが、西野翔に酒井あずさまで在籍してゐるとなると、確かに最高級だ。
最速のペースで駆け抜けるナベシネマ2011年第四作は、師匠・深町章譲りの、一撃必殺のフィニッシュ・ホールドで畳み込む間に“技”を挿んだ力作。コミック兼お色気リリーフとして葵が適宜テンポを整へる秀逸な構成の中、淡々と進行する沈痛で屈折したラブ・ストーリーは、やがて秋葉の死の真相は終に明かされぬまま、潤ひを取り戻した未華も実は諏訪に秋葉の幻影を見たまま、正直求心力を失しかけた落とし処に着地するものと一旦は思はせる。正確には、と一旦は巧みに思はせておいて、満を持してビリング・トメの大役を果たす山口真里が蓋を開ける衝撃の結末には、素直に度肝を抜かれた。冷静に考へると、これでは酒井あずさとサーモン鮭山を完全に等閑視した格好となり、オーラスは再び巡り会へた夫婦の情交で美しく締めるものの、要はバッド・エンドでしかないのだが、まんまと騙されたものは潔く仕方がない。オチの大ネタで振り逃げる手法には師弟関係も窺へると同時に、都合三度もの林道を舞台に執拗に積み重ねられる、幸福感に満ち満ちた西野翔の姿を尺もタップリと費やし追求するエモーションこそが、渡邊元嗣の肝であることはこの期に及んで論を俟つまい。男女濡れ場要員にをも酒井あずさとサーモン鮭山を据ゑた隙のない磐石の布陣にも支へられた、如何にも量産型の娯楽映画に見せて、意外と作家的な一作である。
備忘録< 実は一年前に未華も佳樹を追ひスーサイド
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