真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「淫虐令嬢 吸ひつく舌」(2011/制作:セメントマッチ/提供:オーピー映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/撮影:清水正二/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:中川大資/監督助手:金沢勇大/撮影助手:海津真也/照明応援:広瀬寛巳/編集助手:鷹野朋子/スチール:津田一郎/録音:シネキャビン/現像:東映ラボ・テック/タイミング:安斎公一/協力:小川隆史・松井理子/出演:夏海碧・富田じゅん・三橋ひより・沼田大輔・野村貴浩/Special Thanks:松井理子・中根大)。ポスターは間違つてゐないのに、出演者中富田じゅんが、正しくは冨田じゅん。ポップな地雷を、踏んだともいへる。
 グニャングニャンCG加工を施した、蛇のイメージ噛ませてタイトル・イン。ショットひとつで遠くから来(きた)る旨を語る手際が地味に堅実な、アーミー・ルックに蛇革ブーツを合はせた主演女優を押さへて、尾崎家での、大学病院に勤務する内科医の尾崎裕子(富田)と、同僚の外科医兼年下の恋人・今井タカシ(野村)の情事。旦那の去就は語られないが目下シングルの裕子には、一人息子の省吾(沼田)がゐた。出来の芳しくない息子が医者になるのはとうに諦めた裕子ではあつたが、大学生の省吾は就職はおろか、卒業も危ふかつた。日を改めて、結婚しての独立を互ひに考へなくもない、人間関係の煩はしい象牙の塔ならぬ院。裕子は今井に、急に姪の面倒を見ることになつた顛末を語る。既に故人の裕子の妹・志摩子は、沖縄でアーミッシュ風の集団生活を送つてゐた。やがて志摩子は妊娠するが、出産と同時に死亡。産まれた女児は、父親の橘敬(CV:池島ゆたか)が連れ去り姿を消す。不思議なことに、赤子が寝かされてゐたベッドの上には、一枚の蛇のやうな鱗が残されてゐた。裕子は死んだものと思つてゐたが、橘の死去に伴ひ、志摩子の娘・美巳子の生存が確認される。沖縄の役所から、唯一の親族である裕子に、美巳子の身許を引き受けるやう依頼が来たといふのだ。省吾と、口唇性交は忌避するお嬢様育ちの彼女・真央(三橋)の一戦挿んで、尾崎家に美巳子(夏海)が入る。美巳子は、極端な寒がり―服装の軽さは不問だ―でゐて湯を浴びるのは激しく拒み、食事も、生卵のほかには摂らうとしなかつた。裕子は不自然に無防備な中、蠱惑的な美巳子に、省吾も今井もインスタントに心を囚はれる。
 池島ゆたか2011年第二作は、派手に仕出かしたといふか逆に消極的に力尽きたといふべきか、兎も角この御仁の映画にしては珍しく、お話の中途、あるいは未了感が甚だしい失速作。蛇の化身を疑はせる野生的で淫蕩な娘が、南の島より東京にやつて来る。忽ち篭絡された男衆は、ある者は精を吸ひ取られたかの如く急速に老化し、またある者は前後を失し娘の意のまゝ操られるに至る。さういふナチュラルなホラー仕立てはそれはそれとして、問題なのは、“~操られるに至る”といふのが中盤までの粗筋に正しく止まらず、これが結末、“操られるに至”つたところで映画が終つてしまふ点。ある意味衝撃的な唐突さに、全篇を通して滞ることなく観させるテンポならば維持されるゆゑ、尺が未だ四十分そこらではないかと面喰つた。そもそも、最終的に果たす果たせないはさて措き、裕子が奪はれた恋人と息子の奪還に乗り出すどころか、奪はれた認識にさへ達さずじまひでは、三番手の三橋ひよりだけでなく、二番手の冨田じゅんから濡れ場要員にしか殆ど見えない。この期に尺の目安なり配分を誤るミスター・ピンクでもあるまいに、面白い詰まらない以前に激しく解せない。それでゐて、ちぐはぐな部分や端的に仕出かした箇所も散見される。挿入されるのはアンアン大好きだが、尺八は嫌ふ真央いはく―男性自身が―蛇のやうだといふのは、神を宿したディテールのひとつも投げたつもりなのかも知れないが、些か無理が過ぎるのではなからうか。省吾のモノはどれだけグニャグニャ長いのか、などと無粋なツッコミを入れるまでもなく、通常、我々の愚息は蛇ではない、文字通り亀である。省吾の造形は基本ダルにも関らず、冨田じゅんの持ちキャラに沼田大輔が無理して合はせたかのやうな、下町系ホームドラマ風の遣り取りなども、結果的に不足の多い展開の中では、不要といふ印象をいや増すばかり。今井に買はせたネックレスを、美巳子が省吾につけさせるカットから、人が変つたやうに暴力的な省吾と、振り回される真央の二回戦への流れは、直後の美巳子V.S.今井の二連戦込みで繋ぎが些か粗雑。そして、別の意味で鮮やかですらあるのは、裕子から今井を紹介された美巳子が、外科医属性に目を輝かせる件。「生きてる内臓を見たり、切つたりするんですね」、だから外科医だといつてをる、人の話を聞いてゐないのか。そもそも、臓物が琴線に触れるのなら初めから叔母に喰ひつけばいい。あちらこちらのルーズさがらしからぬ、集中力の欠如をも疑ひたくなる一作。いはゆる爬虫類系といふルックスでは全くない夏海碧を、男達を蛇のやうに絡め取る妖艶といふほどではないセクシーに描く手数は、十二分に尽くされる。とはいへ、蛇娘の雰囲気といふ外堀を埋めるのに手一杯で、お話の中身といふ本丸がお留守では仕方がない。

 もうひとつ形式的に腑に落ちないのが、キャストと連動してクレジットされるところをみると何処かしらに何かしらで登場してゐる筈なのだが、Special Thanksの二人がどういふ形で見切れてゐるものやら全く見当がつかなかつた。まさか、裕子が今井に美巳子のイントロダクションを語る、院内と称したそこら辺の公園シーンに際しての、背景に小さく置かれたその他看護婦と患者なのか?仮にさうだとすると、あれは小屋で観る分にも流石に遠過ぎて、誰が出てゐやうがまづ判らないぞ。それとも、こちらも半ばシルエットに近い撮り方でその人ともどの人とも特定し難い、回想イメージ中の、志摩子と竜神様といふ線が残されてゐなくもないのだが。


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コメント
 
 
 
スペシャルサンクスの件 (XYZ)
2012-05-04 03:07:56
松井理子さんについては夏海さんの演技指導だと聞いたのですが、中根さんについてはわかりません。すみません。
 
 
 
>スペシャルサンクスの件 (ドロップアウト@管理人)
2012-05-04 12:35:15
>松井理子さんについては夏海さんの演技指導だと聞いた

 成程、クレジットがあの位置だとしても、
 必ずしもフレーム内に見切れてるとは限らない訳ですね。
 有難う御座いました。然し火狐十二代目は動かんな、どうしたものか。
 
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