真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 

変態  


 「変態」(昭和62/製作・配給:新東宝映画/監督・脚本:北川徹/撮影:三好和宏/照明:野田明/編集:菊池純一/音楽:坂田白鬼/助監督:井上潔・村上次郎/撮影助手:斉藤幸一/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/現像:東映化学/出演:前原祐子・黒沢ひとみ・下元史朗・中村仁・三上せいし)。出演者中、三上せいしは本篇クレジットのみ。そして照明の野田明が、ポスターには何故か三上誠司。これ要は、三上せいし=三上誠司ではないのか?
 合鍵が差し込まれ、開けられるドア。画面右半分には鈍く光る剃刀を配し、左半分を丸々“変態”の二文字でドガーンと撃ち抜く鮮烈なタイトル・イン。
 病院内薬局勤務の良子(前原)は、後に語られるエピソードから邪推するに男と別れた気晴らしがてらの転居か、不動産屋の山本(下元)が熱心に勧める一室に越して来ることに決める。部屋には、急に出て行つた前の住人がベッドと電話機を残してゐた。新生活を始めた良子は、部屋に侵入した暴漢に、林檎の皮を剥かされた末強姦される夢を見る。やがて無言電話が続き、良子は同じ夢を毎日のやうに見る。山本いはく、渋谷のデパートに勤務してゐた前住人と同じ木曜日の休日、初めて入つた近所の喫茶店「聖葡瑠」では、店員(後述込みの消去法から三上せいしか)が良子をよく似てゐるとの誰かと間違へ、注文する前からカフェオレとクロワッサンサンドを持つて来た。純然たる余談ではあるが、昭和52年に開業した聖葡瑠“せいぶる”が移転を経て、現存してゐるのには失礼ながら少々驚かされた。名古屋や大分にも同じ屋号の店が見当たるのは、これは支店なのか?閑話休題、ドアノブに突き返すやうに提げられてゐた、前住人の日日(ひにち)を経たクリーニング衣類の中に、男に犯される夢の中で着てゐるネグリジェが含まれてゐた点から、良子は確信する。繰り返し繰り返し囚はれる性的なイメージは、過去にこの部屋で起こつた出来事の追体験に違ひない。先にベッドの下から出て来てゐたそれなり以上に高価と思しき指輪と、衣類の返却を口実に、良子は山本から聞き出した前の住人・田中恵理(黒沢)を、電車に揺られ海のある町に訪ねる。
 登場順を前後して、ビリング推定で中村仁は、面識のない筈の良子に挨拶し不審がらせる、ジョギング中の大家・井上。
 末期ロマンポルノ―に端役―で銀幕デビュー後、当代人気AVアイドルの前原祐子を初となる主演に迎へた、北川徹(=磯村一路)のピンク映画最終作。引越し以来、度々同じ内容の淫夢に苛まされる女。原因をかつてその部屋で起きた事件に求めた、ヒロインの真相究明を進行の緩やかなドラマの主軸に、詰まるところは手口の固定された濡れ場が延々延々、執拗に繰り出され続けるのみといつてしまへば正しくそれまでなのだが、兎にも角にも前原祐子の、一世を風靡するに止まらず時代を越え得る破壊力が圧倒的。シャープさも併せ持つあどけないルックスと、対照的にムッチムチとした肉感が堪らない肢体。潔く張形に開き直つた賢慮が功を奏す緻密な尺八描写も強力に、ほぼ単一のシークエンスの繰り返しも、全く飽きさせずに終始高い緊張感を維持させたまゝ惹き込ませる。頃合を見計らつて投入される黒沢ひとみの、首から下はパッと見前原祐子と同タイプながら、容姿は絶妙に劣る配役のバランス感も超絶。恵理に委ねた劇中お定まりの陵辱に、良子も加はり巴戦に膨らむ際の、ピンク的映画的両面の興奮は実に素晴らしい。最終的には、ピンク近作でいふと「人妻旅行 しつとり乱れ貝」(2011/監督:渡邊元嗣/脚本:山崎浩治/主演:星優乃)と同趣向のオチを、若干前に倒しただけの強引な一点突破ともいへ、男優部後ろ二人の弱ささへさて措けば、良子の一方的な恵理への優越感などは地味に秀逸かつ丁寧な語り口にも支へられた、頑丈に見応へのある、極めて充実した裸映画の秀作。下賤な見所だが、大量の擬似精液で前原祐子の全身をドロドロにしてみせるショットは、当時の度肝も抜いたのではなからうか。二回り強の歳月の流れにも一切古びず、前原祐子の当時AV出演作のDVD化掘り起こしが進んでゐないらしき現況も踏まへると、なほ一層必見。いつそ磯村一路の名前は忘れたとて、前原祐子だけで大満足に戦へる。

 コッソリと備忘録的付記< オーラスを締め括る良子のモノローグは、「私は、夢の中で過去を見たのではなく、今を見てゐたのです」。


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