真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「艶会コンパニオン いけない濃厚接待」(2008/製作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:小松公典/撮影監督:創優和/助監督:山口大輔/編集:有馬潜/録音:シネキャビン/監督助手:江尻大/撮影助手:丸山秀人/照明助手:宮永昭典/スチール:佐藤初太郎/音楽:與語一平/現像:東映ラボテック/協力:松木文・加藤映像工房/挿入歌:『ピンクの空に月』 作詞・作曲・唄:キョロザワールド/出演:アゲハ・上原優・倖田李梨・ Aya・久保田泰也・吉岡睦雄・世志男・太田始・岡田智宏・サーモン鮭山・当方ボーカル)。出演者中、岡田智宏と当方ボーカル(=小松公典)は本篇クレジットのみ。
 寂れた港町の宿にて、宴会部長の棚橋翔(吉岡)が全日本マッスル商事からコンパニオンの武藤慶子(倖田)と、三ヶ月弱前の前作から幸にも再びウェイトを戻したAya(役名不明)を呼び、坊主頭+黒縁メガネ+ボーダーのタンクトップで揃へた三兄弟(画面右から当方ボーカル、岡田智宏、そして江尻大>本人様より御教示を受け訂正)を接待してゐる。三馬鹿兄弟は、吐き気を催すほどらしい慶子の女陰のグロテスクさに悶絶する。といふネタは以降にも繰り返すか蒸し返される―禿げた毛ガニのやうらしい―が、兎にも角にもナニが如何に異形なのか映し出す訳には行かないだけに、些か以上に通り辛い。同じくコンパニオンのひばり(アゲハ)は、思ひ出を胸に一人歩いてゐた夜の海岸で、御丁寧にも服を脱ぐとその下に水着を着て入水自殺しようとしてゐた、諏訪間豊子ことトロ子(上原)と出会ふ。着衣の方が死亡率も高まるであらうトロ子を前に、ひばりが「何が、したいんだ?」といゝ感じで突き放しつつ不可解を露にする台詞は笑かせる。
 依然松浦祐也は不在のまゝ―三馬鹿兄弟長兄のアテレコには参加―に久保田泰也は、ひばりの幼馴染で旅館の後取り兼板前・垂木鳥雄。世志男は、元プロレスラーで現在は全日本マッスル商事の雇はれ店長・淵正樹。淵現役時代の元マネージャーである慶子とは、以来の腐れ縁にもあつた。久し振りに観た割に髪を伸ばすと妙に若返つても見える太田始は、トロ子が一旦は自死を志した原因でもある無職DV元夫・林一也。サーモン鮭山は、ひばりを姐さんと慕ひパニオン稼業に足を踏み入れたトロ子の、初陣の相手客。調子に乗り過ぎて、ひばりにシメられる。客要員もう一人は、恐らくスタッフの何れかか。「忘れることで始まる」といふ男に対し、女は「忘れないことでしか、生きて行けない」と返す。実はセフレ感覚で男女の仲にもあるひばりと鳥雄は、事後そんなクサい遣り取りを交す。ひばりの両親は早くに亡く、ひばりは漁師の兄・小島聡美(岡田智宏の二役)と二人で暮らして来た。ところが漁に出て遭難し、既に死亡したものとされてゐる兄の帰つて来るのを、ひばりは待ち続けてゐた。ガンが発覚したものの、現役復帰の断念を強ひられる手術を拒む淵に慶子が胸を痛める一方、トロ子は差し入れられた弁当の旨さに惚れ、俄かに鳥雄に想ひを寄せる。
 慶子が、以前は熱海でアワビといふ源氏名のホテトル嬢として働き本名は小百合である、といふ過去を明らかにする件からも、「ホテトル嬢 癒しの手ほどき」(2006/主演:青山えりな)の明白な続篇ではなくとも最低限姉妹作とはいへよう今作は、一言で片づけると欲張りすぎた一作。逐一イイ台詞を書かうとしすぎ、女優三本柱に関してもそれぞれドラマを盛り込みすぎる。といふと、過去にまるで同じやうな感想を書いた思ひが脳裏を過るのは、決して気の所為ではない。全く同様の感触を懐いたのだから仕方がない、などといつそ開き直つてしまふが、何はともあれ、兎にも角にも映画に軸が通らない。挙句、ラスト・ショットの天候にも恵まれぬ主演―の筈の―女優のパートが一番弱いとあつては、要は、構成を失敗してゐると難じざるを得ない。トロ子と鳥雄の恋物語は濡れ場の要まで含めよしとしても、徒にプロレスに拘泥してもみせる慶子と淵の件のオーバー・ウェイトが、主だつた敗因ではなからうか。代りにといつては何だが、素直にひばりに尺を割くべきだ。尤も、何やかにやの匙加減に加へ、アゲハ自体に関しても、絶妙につゝけんどんな他人との距離感は光るものの、自身の問題に対処する突進力には欠けもする。それならばさういふ覚束ない主演女優を側面から誰が支へるのかといふと、久保田泰也はアゲハに劣るとも勝らず心許なく、最終的にはトロ子とくつゝいてしまふ。世志男のエモーションは、一貫してプロレスラーとしての復帰への執念か、慶子にかゝりきり。「ホテトル嬢 癒しの手ほどき」に於ける、サーモン鮭山に相当するポジションの不在が響く。一応劇中最後の濡れ場はひばりと棚橋のものではあるのだが、それまで二人の間に積み重ねられた何某かが限りなく皆無なだけに、所詮木に接いだ竹では映画が全く締まらない。王道の人情映画を志向した節は確かに窺へるにせよ、これではピンクとして成功してゐるとはいへまい。それと、人間を描くのに一杯一杯であるといふのも判らぬではないが、折角地方ロケを張つてゐるのだからもう少しのんびり風景を追つて、風情を伝へようとしてみせてもよくはなからうか。少なくともその点に於いては、師匠の伊豆映画の方が長じてゐるやうに映る。
 そんな今作最大の飛び道具としては、岡田智宏を挟んでゐる時点でそんな訳がないのに、不思議なまでに本当の兄弟に見える三馬鹿の超強力なビジュアル。上野俊哉のバカ兄弟シリーズの向かうを張る、三馬鹿兄弟シリーズを観てみたくもなつてみたり。待てよ、色男一人に三の線二人といふと、素直に馴染む岡田智宏のサミュエルから流して、小松公典をマイケル、強引に江尻大をリッキーに当てはめればピンク版ホイ三兄弟が完成するぞ!

 最後に、蛇足がてら折角なので纏めておくと。プロレス者である小松公典の趣味をダイレクトに反映してか、最も判り易いところから小島聡美を始めとし、諏訪間豊子は現在諏訪魔の諏訪間幸平。武藤慶子がいふまでもなく社長の武藤敬司。淵正樹は生え抜きの渕正信に、ここは少し変則的だが林一也はカズ・ハヤシ、までが全日本プロレス所属のプロレスラーから。棚橋翔は新日本の棚橋弘至、垂木鳥雄はフリーランスで全日参戦の、TARUこと多留嘉一から、名前を取つてゐるにさうゐない。


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コメント
 
 
 
三兄弟 (井尻 鯛)
2009-08-30 12:59:47
突然、失礼します。
たびたび、拝見させていただいております。
末っ子は監督助手の私、江尻大です。
監督ではありません。
 
 
 
>三兄弟 (ドロップアウト@管理人)
2009-08-30 16:29:22
 うわあ、何だか勘違ひしてをりました!
 御指摘有難う御座います、訂正させて頂きます。

 今後ともヨロシクでお願ひ致します   >裕也調
 
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