真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「極楽銭湯 巨乳湯もみ」(2011/製作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/脚本:近藤力/撮影監督:創優和/編集:有馬潜/録音:シネキャビン/音楽:與語一平/助監督:江尻大/撮影助手:平林真実・酒村多緒・黒澤ちひろ/監督助手:北川帯寛/スチール:本田あきら/音響効果:山田案山子/現像:東映ラボ・テック/協力:広瀬寛巳・東京JOE・ジョージ★シライ・岡本幸代・平田浩二・中田大助・館山智子・本橋智子・本橋ミキ・サーモン鮭山・高木高一郎・鎌田一利・松島政一・Blue Forest Film/出演:Hitomi・山口真里・倖田李梨・柳東史・津田篤・太田始・なかみつせいじ)。脚本の近藤力は、小松公典の変名。出演者中、岡田智弘が何故か本篇クレジットから抜けてゐる。
 銭湯の湯船―ロケ地は東京都多摩市の「サウナ立花浴泉」―に浸かる性に悶々とする津田篤の前に、公称97cmといふのがとてもその程度で済むやうには見えない、人外な巨乳の両乳首を金銀の星で隠したHitomiが女神に扮して登場。斧ならぬ、貴方が探してゐるのは金の乳ですか、銀の乳ですか、と抱腹絶倒の遣り取りを経て、女神は正直な津田青年にオッパイビンタを敢行、乾はるかのマンガを実写化したかのやうなスペクタクルを展開する。そのまゝ馬並の津田ジュニアをお股神サマに咥へ込んだHitomiがよがり泣くのは、開店待ちの客が列を作るといふのに、番台にて眠りこける若女将・梅野香寿子(Hitomi)のポップな夢オチで落としてタイトル・イン。
 脱衣所の靴箱に、ビートに合はせて多人数が頻繁に靴を出し入れする普通にイカしたイントロから、與語一平のミュージシャンとしての懐の深さも何気なく火を噴く、驚くことに怒涛の銭湯ラップを再び敢行、舞台と常連客の紹介を賄つてみせる。元来、主にはアクション映画に於いての、ライブだのディスコだのと音楽的なシークエンスといふと、全身活動屋の監督が門外漢である場合定番的に仕出かしてしまひかねない地雷でもあるのだが、そこはハードコアのヘビー・リスナーであると伝へられる加藤義一のこと、予想外に形になつてゐる。ピンクのスケジュール的な大制約まで踏まへると、細かなカット割りだけで結構馬鹿にならない仕事ともいへるのではなからうか。徐々に与へられる情報も込み込みで整理すると、立花浴泉の先代にして香寿子の乳、もとい父・達吉(遺影スナップの主不明)は、常連客の子供をトラックから救ひ交通事故死。香寿子はOLを辞め継いだ立花浴泉を、やんす言葉でオナニー狂―ヴィジュアル的には法被姿にサモニックな瓶底メガネ―の、達吉の代からの住み込み従業員・鳥野丈二(岡田)とともに切り盛りする。常連客は、源氏名はひばりのソープ嬢・沢井多津子(倖田)。立花浴泉とは二十五年来の長い付き合ひともなる、不動産屋の翔(なかみつ)と、歳の離れた妻・百合(山口)の大友夫婦。香寿子が秘かに焦がれる通称馬並クン(津田)は、よもや湯助ではあるまいが本名はユースケで、実は多津子の彼氏であつた。協力部の大半は、脱ぐ女客は不在の銭湯要員。
 昨今のランニング・ブームにも乗り盛況の立花浴泉に、暗雲が立ちこめる。近所に安価で入浴出来るスポーツ・ジムがオープンし、案の定客は流れて行く。下ネタしか繰り出さない役立たずの多津子や大友と対策を会議する香寿子ではあつたが、大友から達吉時代との湯の違ひを指摘され、途方に暮れる。そんな立花浴泉に、風呂を入れるプロであつた達吉に対し自称“風呂に入るプロ”こと馬場まこと(柳)が、カッコよく単車に跨り流れて来る。馬場を招く形で香寿子が再建に乗り出した立花浴泉に、入浴しながら難事件に推理を巡らせる、“銭湯刑事”なる異名を誇る渡真吾(太田)も現れる。温度は改善されたものの、依然達吉の入れたものには及ばぬ湯に落胆した渡は、ブロガーならぬ“風呂ガー”でもあり、インターネットでその旨を発信。高度情報化社会の恐ろしさよ、戻りかけた客足は再び離れて行く。それにしても“風呂ガー”とは、金の乳銀の乳といひ、小松公典天才過ぎるだろ。
 二作ぶりにマトモな脚本家を迎へた加藤義一2011年第二作は、季節感さへさて措けば直撃する形で封切られた―公開は八月十二日―お盆映画に相応しい、賑々しい娯楽映画の良篇。何時か何処かで見聞きしたやうな物語は、フィニッシュに雑さを残すのと手数の多い各エピソード相互の連関は然程強固ではないにせよ、磐石の大団円へと順調に辿り着く。木に竹を接ぎ気味の一幕ながら、男湯と女湯を隔てる壁越しの、父無し子であつた百合と若き大友との逸話は客席の涙腺を直撃しつつ、矢張り特筆すべきは、十全な右往左往も経て馬場が遂に再現に漕ぎつけた達吉の湯を、香寿子が更にプログレスさせるクライマックス。完璧な完成度で看板を具現化してみせた、“巨乳湯もみ”がピンク映画的に決定的に素晴らしい。ホンと配役と、現実的にどちらが先に立つものやら地方在住のしがない一観客につき与り知らぬが、現に湯を揉むに足る大巨乳を有する主演女優に恵まれた、エポック・メイキングな銭湯映画。記録的なオッパイに止まらず、案外素のお芝居も無難にこなす、とはいへ本篇初参戦にして初主演のHitomiを巧みに護衛する、柳東史と岡田智宏のギミックを効かせた造形も、上滑るでなく有効に機能。戯画的な名だか迷刑事を好演する、太田始のチョビ髭も地味に堪らない。加藤義一らしい、いい湯加減の幸福感に満ち満ちた一作。立花浴泉復興計画に上手く盛り込むまでは流石に果たせずに、総じて濡れ場の威力は些か弱い点に関しては、この際湯に流してしまへ。

 唯一、正しく画竜点睛を欠くのは、これまで今世紀三作何れもオーピーの銭湯ピンクの全てに、女湯裸要員としてカメオ出演を果たすといふ偉業を達成してみせた、里見瑤子の不在。


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