真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「べんり屋熟女 ~変態性癖24時~」(2006/製作:旦々舎/提供:オーピー映画/脚本・監督:山邦紀/撮影・照明:小山田勝治/撮影助手:大江泰介・花村也寸志/音楽:中空龍/助監督:加藤義一・横江宏樹/出演:美月ゆう子・佐倉萌・荒木太郎・柳東史・平川直大・三浦影虎・吉岡睦雄・佐々木基子)。
 小娘には行き届かない、痒い所まで手が届くサービスが売りの「便利屋WOMAN」。あくまで“便利屋”で、風俗ではないとは言ひ張りながら、毎度客の隠された欲望、あるいはより直截にいふならば性癖に触れてしまつては、結局追加料金と称してヤルことまでヤッてしまふ。メンバーは、リーダーのゴッドマザー(美月)、事務所に常駐するメイドクイーン(佐々木)、そして普段は事務所を離れてブラブラしながら、携帯で連絡を受けては客の下に直行する遊撃部隊のビッグママ(後述)の三人。そんな「便利屋WOMAN」の面々と、揃ひも揃つた変態ばかりの客との遣り取りを描いた物語である。
 客は登場順―全員複数回登場する為、初登場順―に、閉め切つた部屋を海の中に見立て、女を人魚姫と看做す幻想に囚はれる見田(平川)。ゴッドマザーが派遣される。太つた女と散歩がしたい、といふ乙骨(荒木)。ここはビッグママしか居るまい。オドオドとした表情の下にギラついた変態性を押し殺す、役者としての荒木太郎は実に素晴らしい。家庭教師を呼んでおきながら、その実は床と同化したいといふ奇妙な欲求を持ち、床に寝そべつては女教師を足元から仰ぎ見る舎人(三浦)。教員免許を持つてゐる―といふ設定、実社会では?―ゴッドマザーと、二度目はメイドクイーンが出撃する。掃除機とメイドとを偏愛する指宿(吉岡)。英国流の本格的メイド流儀を心得る―特にそんな風にも見えないが―と称した、メイドクイーンの出番だ。食事の世話を求めるといひつつ、銃で脅すやおむつプレイに雪崩れ込む睦川(柳)。何て物騒な変態だ、ゴッドマザーが向かふ。
 要は何時もの山邦紀十八番の変態博覧会なのであるが、絶賛すべき時は絶賛するのと同時に、苦言を呈さざるを得ない時はおとなしく苦言を呈する。今作は、確かに何時もの山映画ではあるのだが、必ずしも成功してゐるとはいへない。寧ろ失敗といつてしまふのは筆の勇みが過ぎるやも知れぬが、少なくとも失速してゐることは否めない。最大の敗因は、登場する客の数が多過ぎる。舎人と指宿のパートはバッサリ切つてしまへるのでは。それではあまりに常々の映画と代り映えがしない、といふことなのかも知れないが、一人当たりのエピソードが希薄になつてしまふ以前に、三浦影虎と吉岡睦雄とは明らかに芸が足りてゐない。
 今回山邦紀は余程仕事をやつつけたのか、全体の構成も珍しく間違へてしまつてゐる。乙骨がビッグママとの切腹プレイ―三島由紀夫かよ!―で愉悦に浸るシーンか、ゴッドマザーが見田をその幻想から解き放つシーンを締めに持つて来るべきではなかつたか。さうすれば、変態博覧会が最終的には十全なエモーションに着地し得た筈だ。さしたる新しい展開にも欠く睦川の再登場シーンも兎も角、「便利屋WOMAN」の事務所に侵入して来た指宿と、何時の間にやら忍び込んでゐた舎人とを交へたドタバタに至つては完全な蛇足であらう。オチの一ネタも陳腐である以前にあまりにも唐突で、エンド・ロールが流れ始めた時にはこれで畳むのかよと吃驚した。

 とはいへ、今回山邦紀の恐るべき破壊力が炸裂するのは序盤、これには本当に度肝を抜かれた。冒頭の見田とゴッドマザーとの絡みを挿んで、「便利屋WOMAN」に乙骨からの“太つた女と散歩がしたい”といふ注文が入る。ビッグママの出番ね、とメイドクィーン。ビッグママとは原田なつみでも出て来るのかなあ、などと呑気に構へてゐたら、

 佐倉萌が出て来た。

 凄え、肉を切らせて骨を絶たんばかりの、まるでクロスカウンターのやうな配役だ。加へて、後に再び乙骨から入つた注文を受けゴッドマザーが連絡を取ると旧姓ビッグママは、「はい、ビッグ・ファット・ママです」、「あんた、何時“ファット”が入つたのよ」。山邦紀は何と大胆な脚本を書くものよ、といふか佐倉萌もよく受けた。
 挙句に、更なる畳み掛けすら見せる。「便利屋WOMAN」は、それぞれ一度は失敗した三人の女達が、再起を図り始めたものだつた。ゴッドマザーは夫を喪ひ借金を抱へ、メイドクィーンは盛りの過ぎたストリッパー。そしてビッグ“ファット”ママは、ダイエットのリバウンドで100kg超え。・・・え?いくら何でも佐倉萌は100kg・・・「あるのかな」といへばいいのか、「あるかもな」と思へばよいのやら最早判らない。水着を着て女子プロレスラーに扮し、荒木太郎に逆エビや雷電ドロップを極めるシーンまである。そのハイビスカス柄のとんでもない水着も・・・矢張り私物なのか?山邦紀の殺人的な脚本と、佐倉萌の開き直つた怪演とが、横道ながら今作最大の目玉である。


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