真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
仮名遣ひは正仮名を使用。
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好きもの女房 ハメ狂ひ
浜野佐知(的場ちせ)
/
2011年12月24日
「
好きもの女房 ハメ狂ひ
」(1997/製作:旦々舎/配給:新東宝映画/監督:浜野佐知/脚本:山邦紀/企画:福俵満/撮影:小山田勝治・新井毅/照明:秋山和夫・稲垣従道/音楽:中空龍/助監督:松岡誠/制作:鈴木静夫/出演:細川しのぶ・青木こずえ・吉行由実・平賀勘一・杉本まこと・真央はじめ・竹本泰史)。
朝の山田家、無作法にも新聞を読み読み朝食を摂るサラリーマンの夫・隆(竹本)に、専業主婦の比菜子は出し抜け極まりなく離婚を切り出す。仕事仕事にかまけ比菜子のことを疎かにしてゐたのが不味かつたのかなと、余程時間に余裕を持たしてあるのか、隆は朝つぱらからコッテリとした夫婦の夜の営みで応へるが、比菜子の文字通り藪から棒な真意は性的な側面にあるものではなく、一日中家に居る生活が物足りないだの云々と、身勝手で贅沢なものであつた。出ないで済むなら、俺は小屋に出撃する以外は世間になんて出ねえよ。隆の帰りはどうせ遅いと見越した比菜子は、今回は
杉本まことが客ではなくカウンターの中に入る
バー「扇」へと遊びに行く。本人にも掴み処のない不満を杉本バーテンダーに零す比菜子に、画面向かつて逆L字型のカウンター奥に座る青木こずえ―後に一度だけ“リエ”と呼称されたやうな気もするが、自信は殆どない―は興味を持つ。安定感が素晴らしい杉本まこととの絡みを経て、青木こずえは“冒険に飛び出したさうだつたから”と、比菜子の紹介を求める。
真央はじめは、隆に家庭内別居を一方的に宣告した比菜子が連絡を取り再会する、高校時代写真部の先輩で現在はフリーのカメラマン・島元気。軽くスナップでも撮られがてら、気軽に一戦交へる。島が以降に再登場することはなく、勿体つけた写真家属性まで含めて、清々しく唐突な濡れ場要員ではある。劇中二度目に「扇」に赴いた比菜子に、青木こずえが接触する。どうも本物に見える聖水で百合の花を咲かせる一幕を挿んで、青木こずえは比菜子に、SEXの達人にして別名“スワップ界の御意見番”だとかいふ、箆棒な肩書でその筋では称へられる元川夫妻を引き合はせる。さういふ話におとなしく乗る隆も隆だと思へなくもないが、兎も角元川家に出向いた山田夫妻を迎へたのは、平賀勘一と吉行由実。位置的には中盤ながら、出て来たのは完全にボスキャラだ。
旦々舎不発、薔薇族込みで三月中旬封切りにして浜野佐知1997年早くも第四作は、消極的な、より直截には悪い意味での女優映画。画期的に胡散臭い看板を抜群の説得力を誇る面子の魅力で定着させる、平賀勘一と吉行由実が熟練した変態夫婦として、あたかも覚束ない若夫婦を喰らはんばかりに―実際喰ふのだが―華麗な参戦を果たすまでは、それでも細川しのぶのまるで内実を感じさせない空疎を、辛うじて御し得てゐたやうにも映つたものの。同時相互動画配信を例によつて駆使する夫婦交換を経て、正体不明な空白感に振り回され続けた挙句に、逆に隆の方から比菜子に愛想を尽かし家を出て行く。正しく自業自得といふ言葉以外には半言たりとも見当たらない状況の中、一旦はションボリしてみせたかに見えた比菜子は、さりとて腹は減るといふので、ビフテキを主菜とする豪勢な食事を一人きりではあれどペロリと平らげる。入念に捉へられる、結構な細川しのぶの食ひつぷりには、小賢しい精神性を凌駕する即物的であるが故になほさら力強い生命力をも、確かに感じられぬではなかつた。とはいへ、截然と筆を滑らせるが結局フィニッシュが、開き直りすらするでもない比菜子が雪崩れ込む、青木こずえ(a.k.a.村上ゆう)と杉本まこと(a.k.a.なかみつせいじ)との3Pでテローンと振り逃げるだなどといふ始末では、底も抜けつぱなしの始終がてんで畳まれない。中盤、苛立ち紛れに隆が封建的な家父長観を振り回し始めた際にはテーマの深化も期待させた反面、最終的には醸成することを途中で放棄したかのやうな物語に加へ、兎にも角にも肉付きとは対照的な、細川しのぶの薄さと軽さが致命的。本当にこれでは、俄に遊び狂ひ始めたダメ妻が、終に匙を投げた夫―しかも仕事に追はれる様子の他には、隆にこれといつた問題は窺へない―から捨てられる、単に水が高いところから低いところに向かつて流れるが如き全く当たり前でしかないお話に過ぎまい。いはゆる“よくある話”でさへなければ、流石に満足な劇映画にはなり難い。挙句に腹立たしさを頓珍漢に加速するのが、比菜子の孤独な晩餐からオーラスの巴戦までの間に、何故か何時の間にか細川しのぶがこんがりといい感じに小麦色の肌になつてゐやがるイリュージョン、
何撮影の途中で日サロに行つてんだよ!
展開上の要請も存在しないところで、とんでもないフリーダムさだ、これは決して肯定的な意味合ひでいつてゐる訳ではない。そもそもピンク映画といふと、三日間をかつかつに使ひきり撮り上げるのが相場かとも認識するものではあるが、今作は一体どういふスケジュールで事に当たつてゐたものなのであらうか?おまけに、ヒロイン突然の日焼けなる映画的にもそこそこの大事件に関する、エクスキューズも一切行はれない辺りが実に象徴的な、端的には自堕落な一作である。
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