真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
仮名遣ひは正仮名を使用。
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人妻旅行 しつとり乱れ貝
主に渡邊元嗣と、わ行
/
2011年12月30日
「
人妻旅行 しつとり乱れ貝
」(2011/製作:ナベシネマ/提供:オーピー映画/監督:渡邊元嗣/脚本:山崎浩治/撮影:飯岡聖英/照明:小川満/編集:酒井正次/助監督:永井卓爾/監督助手:田山雅也/撮影助手:橋本彩子/照明助手:八木徹/編集助手:鷹野朋子/協賛:ウィズコレクション/出演:星優乃・山口真里・川瀬陽太・西岡秀記・しじみ)。
今時の“山ガール”とやらか、小宮、もとい正確にはこの時点でも姫野凛(星)が、飛騨高山の山中を矢張り少々軽くはないかと心配な装備で歩く。尾根の縁に咲く竜胆に目を留めた凛は、顔を近づけ香を吸ひ込むや、意識を失ふ。記憶も失つた凛は、元々二泊三日宿泊予定であつたといふペンションで目覚める。倒れてゐた旅行者を担ぎ込んだ、管理人の西尾哲太(西岡)とその妻・類(しじみ)は、持ち物からその女が予約客の小宮凛であることを知つた。貴女は小宮凛ですよといはれたところで、所持してゐた携帯電話も手帳も運転免許証も見当たらず、凛にはその正否を確認する術はなかった。因みに、とかいふ次第で容易に予想されぬでもない、アイデンティティ系のサスペンスに振れることは、以降一切ない。記憶の障害は一時的なものに過ぎないかも知れないので、ひとまづその場の勢ひで凛は西尾のペンションに留まることに。その夜、自身のシャワー・シーンを噛ませた上で、西尾と類の夫婦風生活の気配を察した凛は、大胆不敵にもそのまま廊下での自慰に溺れる。性的興奮の昂りに連動して、凛の瞳に奥まで竜胆がドーンと叩き込まれる豪快なフラッシュバック。件の竜胆の咲く場所にて、軽い高山病で卒倒した凛は、川瀬陽太に助け起こされるヴィジョンを見る。それが、凛と夫・小宮竜馬との出会ひであつた。翌日、そのことを凛から耳にした、これは西尾も知らぬことではあつたが、大学時代は医学を専攻したと称する類は箆棒な方便を繰り出す。何とかといふそれらしき、ややこしい名前の脳内物質の分泌を利用した、失はれた記憶を性的刺激で活性化させるなどといふ治療法が存在するとのこと。抜けかけた映画の底に関してはここは兎も角、西尾も類も、それぞれ絶妙に微妙な雰囲気を漂はせる中、更なる記憶の回復を求め散策に出た、凛は目出し帽を被つた怪人物に強姦される。ここで飛び込んで来る山口真里は、その際に矢張り凛が幻視する、これ見よがしに色恋方面に怪しげな様子で竜馬に寄り添ふ女医・宇野舞子。
星優乃の前作にして、量産型娯楽映画肩肘張らない大傑作「
いひなり未亡人 後ろ狂ひ
」(2010)には、出来の面では大きく及ばないものの、ある意味その分、一撃必殺の覚悟が火を噴く猛烈な感動作。所々での、如何にも含みを持たせた類の表情を入念に積み重ねた末に、しじみ(ex.持田さつき)の決定力も借りた、胸に染み入る空想的な真相が開陳されるクライマックス。流石に些かならず無造作な便法に過ぎる、三番手山口真里の裸の放り込み様を筆頭に、始終を通してバラ撒かれ続ける“計画”自体の徒な回りくどさ等々、釈然としないツッコミ処は山と散見されよう。ただ然し、だが然し。然様な体裁なんぞ、全て全く以て取るに足らない瑣末。これまでは強い推測であつたものが、今回確信に近いものへと変つた。渡邊元嗣は、間違ひなく映画のエモーションを信じてゐる。欠片の疑念もなく信じてゐる、信じられるからこそ、再来年にはデビュー三十周年を控へた今なほ、仮に形振りは捨ててでも渾身のエモーションを撃ち抜き得る。それが渡邊元嗣の、ナベシネマの強さにさうゐない。当然予想されるパラドックスを、“未来を作るのは神様ぢやない”の一言で豪快に捻じ伏せてみせる能動的なオプティミズムも、先の甚だ暗い昨今―今作の封切りは一週間後の三月十八日―にあつて、らしくもないことをいふやうだが結果的には有効である筈だ。見せ方の感動的にスマートな、何気ないラスト・カットが、完璧な強度で女の裸の潤沢なジュブナイルを心安らかに、そして豊かに締め括る。作劇上そこかしこで顕著な粗の数々はこの際清々しくさて措き、深く穏やかな余韻に心を浸すべき一作。もう少しどころではなく、時代はナベに追ひ着くべきではないかといふ意を強くする。
デビュー当時が、即ち渡邊元嗣の全盛期であるとする声も根強い。個人的には仕方もないこととはいへ、その頃の渡邊元嗣作に触れることは限りなく一切に近い殆ど、少なくとも未だ叶はず、それ故一旦さういふ評価に対する小生の判断は留保するほかない。確かに、前世紀末ないしは今世紀初頭に、渡邊元嗣が概ねマッタリしてゐた時期のあつたことならば、リアルタイムで通過した身として否定せぬではない。とはいへ、ダイレクトに限定すると2006年以降の渡邊元嗣の充実ぶりには、否定し難いものもあるまいか。改めていふが、目下ピンク映画ほぼ最後の牙城たるオーピー映画のエース格は、加藤義一や竹洞哲也では依然まだまだなく、小川欽也はある意味といふか別の意味で別格として、当たり外れの派手な池島ゆたかでも、相変らずな国沢実でもない。三上紗恵子との心中路線からは回復傾向も幾分見られなくはない荒木太郎や、2010年は長打に欠いた友松直之、女闘将・浜野佐知の一般映画への軸足の移動と同時に、作品数から減少させる旦々舎勢も矢張り違ふ。渡邊元嗣をオーピー・エースと目する認識を、そろそろ我々は持つべきではなからうか。
・・・・あれ、おい
関根和美の名前は?
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