缶コーヒー


D810 + AF-S NIKKOR 35mm f/1.4G

大きな画像

アルバイトのN君が、自動販売機で買った缶コーヒーを手に持ってやってきた。
「これ、何か変なんっすよ」
少し飲んで、味がおかしいことに気付いたという。

「ちょっと飲んでみてくださいよ」
・・と言われても、人の飲みかけの缶コーヒーなんてねえ・・・
別の社員が、恐る恐る口をつけてみた。
「・・何か酸っぱいような気がする」

缶に印刷された賞味期限と思われる数字を見ると、去年の春になっている。
「そのくらいなら大丈夫なんじゃないの?」
「でも本当に味が変ですよ」
「機械の中でずっと暖めていて変質したのかな」

もう夕刻であったが、とりあえず自動販売機の業者に電話して、報告だけしておいた。
翌日、担当者がすっ飛んできた。
事務所の入り口で、大きな声で「申し訳ありません」を連呼する。

まずは自動販売機の中に残っているコーヒーを、全部機械から出してチェックした。
すると、N君の飲んだ1本以外は、すべて賞味期限に問題ないことがわかった。
どうして1本だけ古いものが混ざったのか・・・

業者の人は平謝りで、何故こんなことが起きたのか、原因はわからないが、とにかく調査するという。
多分詰め替え作業の時に、古いものを機械から出して、誤って1個だけまた入れてしまった・・とか、そういう話であろう。
どんなに気をつけていても、ヒューマンエラーは起こり得る。

「その飲まれた方は大丈夫でしょうか?」
「ああ、彼なら頑丈な人だから、多分大丈夫ですよ」
「お会いしてお詫びしたいのですが・・・」

社員の話では、N君は今日は休んでいるという。
実は彼はお金持ちの家のぐうたら息子で、週に数日しか働きに来ないのだ。
家はすぐ裏だと言ったら、今からご挨拶に行きたいという。
仕方なく業者の人を連れて行った。

親御さんが出てきた。
「息子は・・今日はちょっと寝ています」
業者の人の顔色が変わった。
「お体の方は大丈夫でしょうか?」
N君は働かない日は昼まで寝ているのだ。
「息子なら大丈夫です。まったく問題ありませんから・・」
寝ているのを起こす方が大変らしく、親御さんは早く帰って欲しい、という表情だ。

会社に戻る間も、業者の人は謝りっぱなしである。
こちらはあまり気にしていないのだが、あちらがそうはいかない・・という感じである。
確かに、担当者にしてみれば、首がかかっている。
それほど重大なミスであろう。

まあ、相手がウチで運がよかったともいえる。
翌日、再度会社に来た業者の人は、一般には販売していない特殊な缶コーヒーの箱を、N君にと持ってきた。
さっきN君が両手にそれを持って、皆に配って回るのが見えた。
コメント ( 4 ) | Trackback ( 0 )