酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「ミステリと言う勿れ」~菅田将暉が提示する新たな探偵像

2024-01-16 21:19:24 | 映画、ドラマ
 ネット配信が普及する中、テレビでドラマを見る人は減っているが、アナログ高齢者の俺は死ぬまで〝習慣〟にしがみついていくだろう。そんな俺のゴールデンタイムは日曜午後11時(NHK総合)で、イタリア発「ドック」(シーズン2)終了後、フランス発「アストリッドとラファエル」(シーズン4)が始まった。ともに秀逸なドラマで、1週間後が待ち遠しい内容である。

 国内ドラマでいえば「相棒」だが、劣化を憂えている。原作がないからシナリオライターの力に頼らざるをえないが、犯人の心情を描き切っていないからしっくりこない。充実したドラマはないかと昨年末、日本映画専門チャンネルで一挙放送された「ミステリと言う勿れ」(2022年、全12話)をまとめて録画した。半分ほど見たが、刺激的で面白い。映画版があるのを思い出してチェックすると、公開後3カ月経っていたがシネマート新宿で上映していたので足を運んだ。舞台は広島である。

 原作は田村由美によるベストセラー漫画で、監督はテレビドラマの演出も担当していた松山博昭だ。主演も菅田将暉だから、基本的なトーンはドラマと変わらない。菅田演じる久能整(くのう・ととのう)は20前後の天然パーマの大学生だ。実年齢より10歳ほど若い設定だから、菅田もそれなりに苦労があったに違いない。似たようなコートを着てマフラーを巻いている。美術に造詣が深く、印象派を好んでいる。カレーが好物だが、映画で食べているシーンがあったか判然としない。

 童顔で無表情な整の口癖は「僕は常々思うんですが」で、ツボにはまると延々と話し続ける。周りから「うざい」とか「めんどくさい」と言われるが、例外が一人いた。ドラマ版第2話で整の言葉に耳を傾けてくれた犬堂我路(永山瑛太)だが、逃亡中なので表立って行動出来ない。映画版の冒頭、女子校生の狩集汐路(原菜乃華)に頼まれた事件の解決を整に託すことになる。

 汐路の父(遠藤賢一)は8年前、交通事故死していた。運転ミスで兄妹3人と転落死したというのが警察発表だったが、疑問を抱いている汐路に連れられ、整は莫大な資産を所有する狩集家の遺産相続の会議に参加することになる。ゆら(柴咲コウ)、理紀之助(町田啓太)、新音(萩原利久)の3人のいとことともに、汐路にも蔵の鍵が渡された。与えられたお題は<それぞれの蔵において、あるべきものをあるべき所へ過不足なくせよ>だった。闇に葬られた一族の血塗られた歴史が明らかになっていく。

 ……と書けば、まるで「犬神家の一族」だが、ドラマ、映画を問わず「ミステリと言う勿れ」の楽しみ方は整の特異なキャラクターと言葉に触れることだと思う。記憶力と直感的な分析力はモンクを彷彿させるし、神経質で潔癖な点も同様だ。<子供って渇く前のセメントみたいなんですって。落としたものの形が、そのまま痕になって残るんですよ>という台詞には、整自身が少年期に受けた傷が反映されている。ゆらの義父に反論するシーンでも、父性への生理的反感や常識への抜き差しならぬ不信が表れていた。

 鈴木保奈美、でんでん、松坂慶子、松嶋菜々子、角野卓造らアナログ高齢者に馴染みがある豪華キャストが脇を固め、ラストには大隣警察署トリオを演じる伊藤沙莉、尾上松也、筒井道隆も登場する。だが、俺の目に眩しく映ったのはヒロイン役の原菜乃華だった。ドラマ版はあと数話残っているので、楽しむことにする。
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