WOWOWは先週末、「深作欣二と四人の男」と題し、傑作4本を放映した。今回は「県警対組織暴力」(75年)と「北陸代理戦争」(77年)を中心に記したい。
「県警対組織暴力」は苦い思い出と重なっている。十数年前、知人の女性を招き、同作のビデオをセットしたが、すぐさまNGを出された。「こんな映画、気に入ると思ってたの」と彼女は憤然と部屋を出る。同作における女性の扱いは、他の実録物と同じくかなりひどい。デリカシーを疑われても仕方なかった。
問題点はさておき、「県警――」はヤクザ映画に不可欠な要素を織り交ぜたエンターテインメントだ。<良質なヤクザ映画はヤクザ否定に繋がる>というハードルもクリアしている。舞台は1963年の中国地方だ。
<情と義>で結ばれたやさぐれ刑事の久能(菅原文太)と暴れん坊ヤクザの広谷(松方弘樹)……、<利と力>を求めて一体になる<行政=大企業=暴力団=警察上層部>……。この対立項を軸にストーリーは進行する。
「こんにちは赤ちゃん」をBGMにした惨劇、少年ヤクザをめぐる因縁、オカマ役の田中邦衛など見どころは多く、ユーモアもちりばめられている。「極道を張るには極道の分際まで落ちにゃならん」と印象的な台詞を吐いた吉浦刑事も、退職後は豹変し久能の前に立ちはだかった。追い詰められた者は自棄的に弾け、ラストのコントラストが余韻になって胸に染みる。
「北陸代理戦争」の舞台は68年の福井だ。手勢も資金もなく、大組織に命を狙われる徒手空拳の川田(松方弘樹)は、ヤクザ映画の定番<滅びの美学>と無縁の存在だ。暴力と才覚で関西の大組織をも黙らせる<上昇のダイナミズム>に爽快感を覚える。
特筆すべきは女性の意志がストーリーを引っ張っている点だ。<知と利>で世を渡るきく(野川由美子)と<情と信>で川田を支える信子(高橋洋子)の姉妹が好対照だ。フェミニズムという新たなインクを一滴垂らした同作は、深作監督にとって最後のヤクザ映画になった。
「県警――」には梅宮辰夫、山城新伍、金子信雄、川谷拓三、「北陸――」には伊吹吾郎、西村晃、ハナ肇、千葉真一、両方に成田三樹夫と、濃いキャラが勢ぞろいしている。俳優たちがしのぎを削る戦場で際立っているのが千葉真一(サニー千葉)の存在感だ。本作、「仁義なき戦い~広島死闘篇」、「沖縄やくざ戦争」(中島貞夫監督)で制御できない狂気を表現していた。
タランティーノやジョン・ウーに絶大な影響を与えた深作監督だが、日本では正当な評価を受けていない。<「仁義なき戦い」シリーズで知られる>などお決まりの訃報記事を載せたメディア関係者は、作品を殆んど見ていないだろう。戦争の意味を鋭く問いかけた「軍旗はためく下に」と今回WOWOWが放映した4本(あと2本は「資金源強奪」、「仁義の墓場」)が深作映画ベスト5だと思う。
学生時代、昭和館や文芸坐オールナイトで深作ワールドに痺れていた。この30年、パトスもエートスも大きく変化する。今の若者の多くは、ヤクザ映画全般に拒否反応を示すかもしれない。
「県警対組織暴力」は苦い思い出と重なっている。十数年前、知人の女性を招き、同作のビデオをセットしたが、すぐさまNGを出された。「こんな映画、気に入ると思ってたの」と彼女は憤然と部屋を出る。同作における女性の扱いは、他の実録物と同じくかなりひどい。デリカシーを疑われても仕方なかった。
問題点はさておき、「県警――」はヤクザ映画に不可欠な要素を織り交ぜたエンターテインメントだ。<良質なヤクザ映画はヤクザ否定に繋がる>というハードルもクリアしている。舞台は1963年の中国地方だ。
<情と義>で結ばれたやさぐれ刑事の久能(菅原文太)と暴れん坊ヤクザの広谷(松方弘樹)……、<利と力>を求めて一体になる<行政=大企業=暴力団=警察上層部>……。この対立項を軸にストーリーは進行する。
「こんにちは赤ちゃん」をBGMにした惨劇、少年ヤクザをめぐる因縁、オカマ役の田中邦衛など見どころは多く、ユーモアもちりばめられている。「極道を張るには極道の分際まで落ちにゃならん」と印象的な台詞を吐いた吉浦刑事も、退職後は豹変し久能の前に立ちはだかった。追い詰められた者は自棄的に弾け、ラストのコントラストが余韻になって胸に染みる。
「北陸代理戦争」の舞台は68年の福井だ。手勢も資金もなく、大組織に命を狙われる徒手空拳の川田(松方弘樹)は、ヤクザ映画の定番<滅びの美学>と無縁の存在だ。暴力と才覚で関西の大組織をも黙らせる<上昇のダイナミズム>に爽快感を覚える。
特筆すべきは女性の意志がストーリーを引っ張っている点だ。<知と利>で世を渡るきく(野川由美子)と<情と信>で川田を支える信子(高橋洋子)の姉妹が好対照だ。フェミニズムという新たなインクを一滴垂らした同作は、深作監督にとって最後のヤクザ映画になった。
「県警――」には梅宮辰夫、山城新伍、金子信雄、川谷拓三、「北陸――」には伊吹吾郎、西村晃、ハナ肇、千葉真一、両方に成田三樹夫と、濃いキャラが勢ぞろいしている。俳優たちがしのぎを削る戦場で際立っているのが千葉真一(サニー千葉)の存在感だ。本作、「仁義なき戦い~広島死闘篇」、「沖縄やくざ戦争」(中島貞夫監督)で制御できない狂気を表現していた。
タランティーノやジョン・ウーに絶大な影響を与えた深作監督だが、日本では正当な評価を受けていない。<「仁義なき戦い」シリーズで知られる>などお決まりの訃報記事を載せたメディア関係者は、作品を殆んど見ていないだろう。戦争の意味を鋭く問いかけた「軍旗はためく下に」と今回WOWOWが放映した4本(あと2本は「資金源強奪」、「仁義の墓場」)が深作映画ベスト5だと思う。
学生時代、昭和館や文芸坐オールナイトで深作ワールドに痺れていた。この30年、パトスもエートスも大きく変化する。今の若者の多くは、ヤクザ映画全般に拒否反応を示すかもしれない。
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