酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「アーティスト」~愛に支えられたモノクロームのマジック

2012-04-22 23:34:22 | 映画、ドラマ
 「レッスルマニア28」にはイマイチ感が否めなかったが、翌日のRAWは一転して胸躍る展開になった。アルベルト・デル・リオが復帰し、世界王者シェイマスと対峙する。俺がデル・リオを〝現在最高のレスラー〟に挙げるのは引き出しの多さゆえだ。ルチャ、レスリング(五輪代表)、そして総合格闘技での実績と、ミル・マスカラスを伯父に持つデル・リオは、複数の華麗な仮面を纏っている。

 エンディングに更なる衝撃が走った。エンターテインメント(WWE)と総合格闘技(UFC)の対極の舞台で頂点を極めたブロック・レスナーが登場する。とはいえ、強さは必ずしもプロレスには求められない。史上最強レスラーの復帰は、WWEにとって両刃の剣になる可能性大だ。

 バルセロナを2対1で破ったレアル・マドリードが、リーガ優勝を事実上決めた。両チームには羽を休める間もなく、チャンピオンリーグ準決勝第2レグが待ち受けている。初戦の負けを跳ね返し、決勝(ミュンヘン)でリマッチ……。織り込み済みのシナリオ通りに運ぶだろうか。

 新宿で先日、「アーティスト」(11年、ミシェル・アザナヴィシウス監督)を見た。アカデミー賞、セザール賞など様々な栄誉に浴したサイレント映画である。テンポの良さ、ダンスシーンなど印象的な場面の数々、俳優たちの見事な表現力と個性、効果的な音楽に魅せられ、稠密に、鮮やかに時は流れた。

 本作は公開されてから2週間で、いずれ多くの方がご覧になるはずだ。ストーリーの紹介は最低限に、以下に感想を記したい。

 サイレントの代表作として頭に浮かぶのは、「戦艦ポチョムキン」、「カリガリ博士」、「街の灯」、「メトロポリス」だ。表現主義、ダダイズム、シュルレアリズムなど様々な芸術運動が世界を席巻した1920年代、映画もまた、最先端の文化だった。政治とも無縁ではなく、フリッツ・ラングやチャプリンの作品には、共産主義への憧憬が投影されていた。

 映画は自分の外か内か……。抽象的な分類になるが、大抵の映画は自分の外にあり、包み込まれるような感覚、映像が描く世界のひとりになったかのような錯覚に浸ることもある。モノクロームのサイレントは、心的風景と重なる映像が心の内に沈んでいく。「アーティスト」も同様の作品だった。

 サイレント映画の大スター、ヴァレンティン(ジャン・デュジャルダン)に憧れるペピー(ペレニス・ペジョ)は、端役から人気者へと上り詰めていく。トーキーの移行によって映画は娯楽の要素が強くなり、ペピーの声は大衆を魅了する。時代に合わせることを拒否したヴァレンティンの転落に拍車を掛けたのが大恐慌だった。本作には傑作群へのオマージュがちりばめられており、パンフレットにはいくつもの作品が紹介されていたが、黒沢について言及されていなかった。

 ペピが衣紋掛けのヴァレンティンの衣装を抱きしめる場面、音がヴァレンティンを苦しめる場面と並んで印象的だったのが階段のシーンだ。過去の栄光にしがみつくヴァレンティンが下りる階段を、スターの座が約束されたペピが上っていく。明暗くっきりの場面に思い出したのが「生きる」だ。がんを宣告された主人公(志村喬)が暗い顔で下る階段を、華やいだ若者たちが上っていく。早坂文雄によるシーンとズレた音楽も効果的だった。

 恋愛映画として見れば、感触は「浮雲」(成瀬巳喜男)に近い。荒波にもがき主体性を持てない男、自らの意志を前面に健気に生きる女という構図である。ペレニス・ペジョが監督夫人と知り、妙に納得した。「アーティスト」は愛する人の魅力を全世界に伝えたいという思いが詰まった、監督からのラブレターでもある。節目節目で大活躍する主人公の愛犬マギーの名演技も、見どころのひとつだった。

 「アーティスト」は俺のようなひねくれ者さえ丸め込んでしまうほど、奥行きを感じさせる作品だった。世代が異なる〝父娘的〟関係にも見えたヴァレンティンとペピだが、演じた両人の実年齢は4歳しか違わない。これもまた、モノクロームのマジックだろうか。



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2 コメント

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配給 (iina)
2012-05-15 09:20:24
階段を上り降りさせることで、人生の明暗を暗示させていたとは気づかなかったですが、映画ならではの
見せる手法なのですね。

この「アーティスト」も「ゴーストライター」も地元では、封切らなかったですが、いい映画でした。
仰せの通り (酔生夢死浪人)
2012-05-16 05:57:35
 「アーティスト」と「ゴーストライター」はともにいい作品でした。でも、不思議なことに大々的に公開といった感じではなかったですね。私は東京なのでほぼ大丈夫ですが、配給元の都合とかで地元で封切られないというのはつらいですね。

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