酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「JFK/新証言 知られざる陰謀」~主犯に迫ったオリバー・ストーンの執念

2023-12-16 22:58:49 | 映画、ドラマ
 国連総会緊急特別会合(12日)でガザ地区の情勢を巡り、即時停戦、人質解放、人道支援確保などを求める決議案の採決が行われ、153カ国が賛成して可決された。前回(10月27日)から26カ国が棄権から賛成に回り、イスラエルを擁護するアメリカの孤立が際立つ形になった。アメリカ国内でも若い世代でパレスチナ支持が急伸しており、民主党に投票してきたイスラム系団体もバイデンを見限った。〝トランプ再登場〟の悪夢が現実味を帯びてくる。

 60年前の1963年11月22日、テキサス州ダラスを遊説中のジョン・F・ケネディ大統領が暗殺された。日本時間翌日(勤労感謝の日)、小学1年だった俺は近所の同級生たちとオルガン教室に向かう。俺の母を含め保護者たちが深刻な表情で話していた。その日朝、アメリカから放送史上初めてニュース映像が送られてくるという歴史的な実験が行われたが、メインになったのは大統領暗殺である。

 新宿武蔵野館で先日、「JFK/新証言 知られざる陰謀」(2021年)を見た。監督は「JFK」で知られるオリバー・ストーンで、新たに機密解除された証拠や証言に基づく稠密なドキュメンタリーだ。ストーンといえば〝牽強付会〟、〝力業〟いうイメージがあるが、本作では調査報道の手法でジャーナリスティックに取材を進めていた。

 <軍産複合体=保守派=差別主義者=CIA=FBI=マフィア=亡命キューバ人らが連携してケネディを暗殺した>が定説だが、リー・ハーベイ・オズワルドが単独犯として逮捕され、その2日後、刑務所に移送される車に乗る直前、ジャック・ルビーに射殺される。06年にNHK・BSで放映された「暗殺のランデブー~ケネディとカストロ」は<ケネディ暗殺はキューバ諜報機関(G2)の単独犯行>という衝撃的な仮説を提示したが、「JFK/新証言――」を見れば信憑性は低いと思う。

 ストーンはポイントを挙げて検証していく。オズワルド単独犯説では射撃場所を教科書倉庫ビルに設定している。〝魔法の銃弾〟が後方からケネディの体内を貫通して同乗していたテキサス州コナリー知事の手首など7カ所に当たったことになるが、発見された弾丸に傷がない。検視官はケネディの首に当たったのは射入痕で、即ち進行方向前のグラシノールの丘から撃たれた可能性を指摘した。

 ダラス警察はオズワルド単独犯説で突っ走り、オズワルドが所有していたライフルを凶器と決めつける。オズワルドの言動をFBIとCIAは把握していたが、事件前に監視リストから外した。ルビーはマフィアでオズワルドと面識があったという情報も無視される。ケネディの脳の状態など数々の疑問をもみ消したのはウォーレン委員会だった。

 ウォーレン委員会は悪の巣窟だった。ジョージア州知事時代に人種隔離政策を推進したリチャード・ラッセル・ジュニア、ナチスドイツ系企業と関係があり日系アメリカ人の強制収容を決定したジョン・マクロイ、アレン・ダラス前CIA長官、保守本流で後に大統領になったジェラルド・フォードらが顔を連ねている。新大統領に就任したリンドン・ジョンソン肝いりの面々で、ケネディとは距離を置いていた。

 ジョンソンの最初の仕事は、ケネディがストップをかけていたベトナムへの積極的な介入で、軍需産業から後押しされていたことが窺える。ストーンはジョンソンこそ陰謀の〝主犯〟と仄めかしていた。ケネディ夫人のジャックリーンは服や体に夫の血や脳がこびり付いたまま大統領専用機に赴き、ジョンソンの就任式に立ち会った。着替えを勧めた側近に「彼らがやったことを思い知らせてやる」と話したという。

 ラストでアラバマ大学への黒人学生入学を支持したJFKの格調高い演説が紹介される。JFKは民主主義のシンボルになったが、司法長官だった弟のロバートともどもマフィアに目の敵にされていた。彼らの父ジョセフはマフィアと緊密な関係を築いていたが、息子たちは組織犯罪撲滅を公言する。マフィアが革命前、マネーロンダリングとして使っていたのがキューバで、両者が繰り返し陰謀説に登場するのも理由がある。

 ストーンはあくまで軍需産業、差別主義者、CIA、FBIに照準を定め、多くのデータや証言を用いて暗殺の真相に迫った。自由と民主主義に価値を置くストーンの執念に喝采を送りたい。
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