Youtubeで今、再生回数が最も多いバンドはイタリア出身のマネスキンだ。WOWOWで生中継された来日公演を偶然見たが、オルタナ、メタルなど様々な要素を織り込んだハードロックで、歪みとポップを融合させている。22~24歳と若いのに演奏力とエンタメ性は抜群で、目が行ってしまうのはキュートなーシストのヴィクトリアだ。トップレスで乳首にテープを貼ってステージに立つこともあるという。
数年前に現役ロックファンを引退したので、マネスキンがどのような文脈で登場したのか理解出来ていないが、ヴィクトリアがソニック・ユースのキム・ゴードンへのオマージュを公言しており、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのトム・モレロとスタジオライブで共演していることもあって親近感を覚えている。1970年代、幾多の傑作を世に問うたイタリアンプログレを英米メディアは意識的に低評価した。歪んだ構図は50年後も変わらない。
川上弘美著「どこから行っても遠い町」に続き、日本を代表する女流作家の小説を読んだ。「貴婦人Aの蘇生」(2002年、朝日文庫)で、小川洋子の作品を紹介するのは11作目になる。当ブログで小川について<欠落の哀しみや喪失の痛みを自由への起点に、自然の移ろいを精緻な筆致で描く作家>と評してきた。「貴婦人Aの蘇生」も物語から寓話に飛翔する小川ワールド特有の色彩と薫りがする小説だった。
主な登場人物は4人で、主人公の私は大学生だ。ユーリ伯母さんを退院させ、亡くなった伯父さん宅で共に暮らすことになる。伯父さんは若い頃、世界を転々としていたが、中年になって成功し、かなり年上で瞳がブルーのユーリ伯母さんと結婚する。伯父は動物の剥製の収集家だったが、10年ほど経ち、ホッキョクグマの剥製の口に頭を突っ込んだ姿で絶命する。
小川の作品には動物たちが登場人物のメタファ-として、心象風景の表象として現れる。俺が読んだ中で挙げるなら「ことり」、「ブラフマンの埋葬」、「ミーナの行進」、「猫を抱いて象と泳ぐ」あたりか。伯父宅はプールもある巨大な洋館で、無数の剥製が散乱している。ユーリ伯母さんは剥製に「A」のイニシャルの刺繍を施していた。伯父との絆を紡ぐためと思っていたが、「A」の意味が明らかになる。
私のボーイフレンドであるニコは強迫性障害を患っており、建物の前で決まったルーチンをこなさないと中に入れなかった。時には何度試しても扉の前で力尽きることもある。〝欠落の哀しみ〟に重なるのは「猫を抱いて象と泳ぐ」の主人公のL・Aで、大きくなり過ぎてデパート屋上で一生を終えた象や少女ミイラ以外に友達はいなかったが、ニコには私が付き添い、ユーリ伯母さんとも心を通わせるようになる。ニコには他者の心を読む力があった。
剥製マニアでフリーライターのオハラに私は不信感を抱いていた。伯母さんに近づいて剥製を不当に入手しようとする悪党と見做しており、窃盗を目の当たりにするが、伯母さんとニコは鷹揚だ。オハラによって伯母さんは剥製の館の主だけではない。ロマノフ王朝最後の皇女アナスタシア、すなわちイニシャルAである可能性が浮上する。
伯母さんは過去を喪失していた。伯父さんと結婚した時も、親族は来し方を知らなかった。伯母さんの振る舞いを妄想と受け止める読者もいる。詐称していると考えるのも当たり前で、私もその一人だ。オハラは様々な取材を仕切り、ユーリ伯母さんをテレビに引っ張り出す。金儲けのためではなく、オハラは伯母さんのブルーの瞳、品のある所作に魅せられていた。愛といっていい感情に衝き動かされていたのだ。
俺もオハラの気持ちに沿うようになっていく。テレビ番組終盤で伯母さんの弟アレクセイ皇太子が現れ、放送後に旧交を温める。伯母さんは伯父さんに似た最期を迎えるが、現実と幻想の境界を行き来するファンタジーに温かい気持ちになれた。
数年前に現役ロックファンを引退したので、マネスキンがどのような文脈で登場したのか理解出来ていないが、ヴィクトリアがソニック・ユースのキム・ゴードンへのオマージュを公言しており、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのトム・モレロとスタジオライブで共演していることもあって親近感を覚えている。1970年代、幾多の傑作を世に問うたイタリアンプログレを英米メディアは意識的に低評価した。歪んだ構図は50年後も変わらない。
川上弘美著「どこから行っても遠い町」に続き、日本を代表する女流作家の小説を読んだ。「貴婦人Aの蘇生」(2002年、朝日文庫)で、小川洋子の作品を紹介するのは11作目になる。当ブログで小川について<欠落の哀しみや喪失の痛みを自由への起点に、自然の移ろいを精緻な筆致で描く作家>と評してきた。「貴婦人Aの蘇生」も物語から寓話に飛翔する小川ワールド特有の色彩と薫りがする小説だった。
主な登場人物は4人で、主人公の私は大学生だ。ユーリ伯母さんを退院させ、亡くなった伯父さん宅で共に暮らすことになる。伯父さんは若い頃、世界を転々としていたが、中年になって成功し、かなり年上で瞳がブルーのユーリ伯母さんと結婚する。伯父は動物の剥製の収集家だったが、10年ほど経ち、ホッキョクグマの剥製の口に頭を突っ込んだ姿で絶命する。
小川の作品には動物たちが登場人物のメタファ-として、心象風景の表象として現れる。俺が読んだ中で挙げるなら「ことり」、「ブラフマンの埋葬」、「ミーナの行進」、「猫を抱いて象と泳ぐ」あたりか。伯父宅はプールもある巨大な洋館で、無数の剥製が散乱している。ユーリ伯母さんは剥製に「A」のイニシャルの刺繍を施していた。伯父との絆を紡ぐためと思っていたが、「A」の意味が明らかになる。
私のボーイフレンドであるニコは強迫性障害を患っており、建物の前で決まったルーチンをこなさないと中に入れなかった。時には何度試しても扉の前で力尽きることもある。〝欠落の哀しみ〟に重なるのは「猫を抱いて象と泳ぐ」の主人公のL・Aで、大きくなり過ぎてデパート屋上で一生を終えた象や少女ミイラ以外に友達はいなかったが、ニコには私が付き添い、ユーリ伯母さんとも心を通わせるようになる。ニコには他者の心を読む力があった。
剥製マニアでフリーライターのオハラに私は不信感を抱いていた。伯母さんに近づいて剥製を不当に入手しようとする悪党と見做しており、窃盗を目の当たりにするが、伯母さんとニコは鷹揚だ。オハラによって伯母さんは剥製の館の主だけではない。ロマノフ王朝最後の皇女アナスタシア、すなわちイニシャルAである可能性が浮上する。
伯母さんは過去を喪失していた。伯父さんと結婚した時も、親族は来し方を知らなかった。伯母さんの振る舞いを妄想と受け止める読者もいる。詐称していると考えるのも当たり前で、私もその一人だ。オハラは様々な取材を仕切り、ユーリ伯母さんをテレビに引っ張り出す。金儲けのためではなく、オハラは伯母さんのブルーの瞳、品のある所作に魅せられていた。愛といっていい感情に衝き動かされていたのだ。
俺もオハラの気持ちに沿うようになっていく。テレビ番組終盤で伯母さんの弟アレクセイ皇太子が現れ、放送後に旧交を温める。伯母さんは伯父さんに似た最期を迎えるが、現実と幻想の境界を行き来するファンタジーに温かい気持ちになれた。