まずは前稿の補足から。11日、東電前の集会に参加した。震災で亡くなった犠牲者への追悼、原発事故の責任を取らず再稼働に邁進する東電への抗議の意志を示す集会である。韓国・大統領府前での抗議集会とマイクを繋ぐ試みも画期的だった。コロナ禍で停滞気味の俺だが、この国で今、最も必要な感情は<怒り>であることを再認識する。
話はコロッと変わって本題に……。1990年以降、テレビで最も活躍した俳優は渡瀬恒彦だ。「十津川警部シリーズ」は54作、「タクシードライバーの推理日誌」は39作。ともにBS、CSで繰り返し放映される人気アイテムである。渡瀬が引く手あまただったのは情熱と気遣いだ。演出や脚本に積極的に意見を言うだけでなく、若いスタッフに気を配る渡瀬は、プロデューサーのような存在だったと語る関係者もいる。
「十津川警部」で最も記憶に残っているのは第3作「上野駅殺人事件」で、十津川とソープ嬢を演じた島田陽子とのキスシーンは名場面だった。初期の作品は恋愛ドラマの色調も濃く、文学や音楽に造詣が深い渡瀬自身が投影されている。「タクシードライバーの推理日誌」の初期でも渡瀬演じる夜明日出夫が寂しさを独白するシーンがあった。両作ともその後、カラーは堅くなる。
渡瀬は東映のヤクザ映画で名を上げたが、看板スターというわけではなかった。ピラニア軍団との交流が深く、〝軍団村長〟を自任した中島貞夫の作品に多く出演している。その後、主演、助演男優賞に輝いた渡瀬だが、WOWOWが先日、若き日の野性漲る「鉄砲玉の美学」(73年)と「狂った野獣」(76年)をオンエアした。ともに監督は中島で、画面から血飛沫が飛んできそうな作品だった。
まずはATGとの提携作「鉄砲玉の美学」から。頭脳警察の「ふざけるんじゃねえよ」が流れた瞬間、身構えてしまう。主人公の小池清は関西の大組織、天佑会のチンピラで、組の資金源なのかウサギを売っている。その小池が鉄砲玉に指名され、100万円とピストルを携えて宮崎に向かう。完全な捨て駒で、命の値段は少々安い。覚悟も美学もなく、鏡の前で「わいは天佑会の小池清や」と凄みを利かせる練習をしていた。
ATGらしい遊びや工夫がちりばめられていた。小池はソープ嬢よし子の部屋に居候している。宮崎に飛んだ小池、巨大化して商品にならなくなったウサギのカットバックが暗示的だった。小心な小池だが、女性には積極的で、南九会幹部の杉町(小池朝雄)から奪った潤子(杉本美樹)との濡れ場が多いのも役得だ。だが、ターゲットである杉町を殺せず、事態は暗転する。
小池がピストルを手にするシーンでは「銃をとれ」、エンディングではアルバム未収録の「今日は別に変わらない」が流れる。世界観は共有しているとはいえないが,頭脳警察と本作は空気を共有していた。ラストシーンにリンクしていたのは「狂った野獣」である。
古い邦画を見ていて気になるには街の光景だ。「狂った野獣」は京都を走るバスの中で物語が進行するが、上京した頃に公開されており、車窓に映る光景に懐かしさを覚えた。「鉄砲玉の美学」にも出演しているピラニア軍団の川谷拓三と片桐竜次が、銀行強盗に失敗し、バスジャックする2人組を演じている。若き日の片桐のキリッとした表情は、現在と全く違っていた。女ピラニ軍団の橘麻紀も乗客のひとりとして出演している。渡瀬はピラニア軍団と固い絆で結ばれていた。
最後部に座り、競馬中継を聞いている速水伸を演じているのが渡瀬だ。映画が始まって30分が過ぎた辺りの最初の台詞で正体が明らかになる。速水は目を壊し、テストドライバーをクビになった。どん詰まりの速水は恋人の美代子(星野じゅん)と8500万円の宝石を強奪し、逃走中だった。
〝芸能界一、喧嘩が強い男〟の渡瀬は抜群の運動神経で肉体派として知られていた。「狂った野獣」はハリウッドのカーチェース作品と比べたらスケールは遥かに小さい。B級、いやC級と考える人が殆どの低予算映画だが、妙なリアリティーがあった。渡瀬は反対を押し切ってノースタントで撮影に臨む。バスが横転するシーンなどかなり危険が撮影だった。
テーマ曲は「小便だらけの湖」で、三上寛当人が歌うシーンも挿入されている。虚無が滲む曲で、♪夕日を見ると さみしくなるから 星を見ると 涙が出るから 小便だらけの湖に あなたと二人で 飛び込んで うたう唄は さすらい色歌……の歌詞は哀しいラストを映している。
解放後の乗客の会見は<ストックホルム・シンドローム>そのものだ。3年前に命名されたばかりの新語を、本作はいちはやく採用した。絶望、狂気、孤独、そして怒りを表現しきった渡瀬はその後、求心力と包容力でスタッフ、キャストを牽引する役者になる。今更ながら、渡瀬の不在が残念でならない。
話はコロッと変わって本題に……。1990年以降、テレビで最も活躍した俳優は渡瀬恒彦だ。「十津川警部シリーズ」は54作、「タクシードライバーの推理日誌」は39作。ともにBS、CSで繰り返し放映される人気アイテムである。渡瀬が引く手あまただったのは情熱と気遣いだ。演出や脚本に積極的に意見を言うだけでなく、若いスタッフに気を配る渡瀬は、プロデューサーのような存在だったと語る関係者もいる。
「十津川警部」で最も記憶に残っているのは第3作「上野駅殺人事件」で、十津川とソープ嬢を演じた島田陽子とのキスシーンは名場面だった。初期の作品は恋愛ドラマの色調も濃く、文学や音楽に造詣が深い渡瀬自身が投影されている。「タクシードライバーの推理日誌」の初期でも渡瀬演じる夜明日出夫が寂しさを独白するシーンがあった。両作ともその後、カラーは堅くなる。
渡瀬は東映のヤクザ映画で名を上げたが、看板スターというわけではなかった。ピラニア軍団との交流が深く、〝軍団村長〟を自任した中島貞夫の作品に多く出演している。その後、主演、助演男優賞に輝いた渡瀬だが、WOWOWが先日、若き日の野性漲る「鉄砲玉の美学」(73年)と「狂った野獣」(76年)をオンエアした。ともに監督は中島で、画面から血飛沫が飛んできそうな作品だった。
まずはATGとの提携作「鉄砲玉の美学」から。頭脳警察の「ふざけるんじゃねえよ」が流れた瞬間、身構えてしまう。主人公の小池清は関西の大組織、天佑会のチンピラで、組の資金源なのかウサギを売っている。その小池が鉄砲玉に指名され、100万円とピストルを携えて宮崎に向かう。完全な捨て駒で、命の値段は少々安い。覚悟も美学もなく、鏡の前で「わいは天佑会の小池清や」と凄みを利かせる練習をしていた。
ATGらしい遊びや工夫がちりばめられていた。小池はソープ嬢よし子の部屋に居候している。宮崎に飛んだ小池、巨大化して商品にならなくなったウサギのカットバックが暗示的だった。小心な小池だが、女性には積極的で、南九会幹部の杉町(小池朝雄)から奪った潤子(杉本美樹)との濡れ場が多いのも役得だ。だが、ターゲットである杉町を殺せず、事態は暗転する。
小池がピストルを手にするシーンでは「銃をとれ」、エンディングではアルバム未収録の「今日は別に変わらない」が流れる。世界観は共有しているとはいえないが,頭脳警察と本作は空気を共有していた。ラストシーンにリンクしていたのは「狂った野獣」である。
古い邦画を見ていて気になるには街の光景だ。「狂った野獣」は京都を走るバスの中で物語が進行するが、上京した頃に公開されており、車窓に映る光景に懐かしさを覚えた。「鉄砲玉の美学」にも出演しているピラニア軍団の川谷拓三と片桐竜次が、銀行強盗に失敗し、バスジャックする2人組を演じている。若き日の片桐のキリッとした表情は、現在と全く違っていた。女ピラニ軍団の橘麻紀も乗客のひとりとして出演している。渡瀬はピラニア軍団と固い絆で結ばれていた。
最後部に座り、競馬中継を聞いている速水伸を演じているのが渡瀬だ。映画が始まって30分が過ぎた辺りの最初の台詞で正体が明らかになる。速水は目を壊し、テストドライバーをクビになった。どん詰まりの速水は恋人の美代子(星野じゅん)と8500万円の宝石を強奪し、逃走中だった。
〝芸能界一、喧嘩が強い男〟の渡瀬は抜群の運動神経で肉体派として知られていた。「狂った野獣」はハリウッドのカーチェース作品と比べたらスケールは遥かに小さい。B級、いやC級と考える人が殆どの低予算映画だが、妙なリアリティーがあった。渡瀬は反対を押し切ってノースタントで撮影に臨む。バスが横転するシーンなどかなり危険が撮影だった。
テーマ曲は「小便だらけの湖」で、三上寛当人が歌うシーンも挿入されている。虚無が滲む曲で、♪夕日を見ると さみしくなるから 星を見ると 涙が出るから 小便だらけの湖に あなたと二人で 飛び込んで うたう唄は さすらい色歌……の歌詞は哀しいラストを映している。
解放後の乗客の会見は<ストックホルム・シンドローム>そのものだ。3年前に命名されたばかりの新語を、本作はいちはやく採用した。絶望、狂気、孤独、そして怒りを表現しきった渡瀬はその後、求心力と包容力でスタッフ、キャストを牽引する役者になる。今更ながら、渡瀬の不在が残念でならない。