「82年生まれ、キム・ジヨン」(2019年、キム・ドヨン監督)を見た。前稿で紹介した「彼女は夢で眠る」の主人公(木下)にはシンパシーを覚えたが、本作にはいまひとつ入り込めなかった。救いと希望の結末は、原作と異なるという。デヒョン(コン・ユ)は理解のある夫だが、キム・ジヨン(チョン・ユミ)は希望の仕事に就けないこと、育児、親族との関係から心を蝕まれていく。
ジェンダー意識の低い社会で追い詰められていた女性が声を上げた。その象徴といえる原作を映画化したのが本作である。韓国では改革派としてEU圏にも影響を与えた朴ソウル市長が、セクハラを訴えられて自殺した。翻って日本では、伊藤詩織さんをレイプしたTBS記者は逮捕を逃れた。もみ消した警察庁幹部は菅首相が官房長官時に秘書官を務めている。「週刊新潮」によると当該記者は首相に近い企業から顧問料等で月数十万を得ているという。
大阪都構想を巡る住民投票では、政党の力学を超えて反対派が多数を占めた。市民運動の熱気が結果に反映したものと思われる。NHKの開票特番もスリリングだったが、CNN(スカパー!)、ABC(NHK・BS1)の米大統領選開票速報も、出口調査の結果を冒頭に流す日本と異なりエキサイティングなショーだった。
前回の選挙と対照しながら、期日前投票(郵便を含む)のパーセンテージや集計時期を把握して分析を進めていくメインキャスターの手際に感心させられた。トランプが開票中に勝利宣言を出すというシナリオも想定内で、身内のFOXテレビでさえ辛口に伝えていた。プラウド・ボーイズら極右団体は日本時間5日以降、トランプの勝利宣言に呼応してワシントンに集結するかもしれない。
前回は〝ヒラリー当選確実〟の下馬評が覆った。今回は〝バイデンが数%リード〟と報じられていたから、意外な接戦に驚いた。期日前投票の結果を合わせ、新大統領が決まるのは今週末にずれ込みそうだ。共和、民主両党の支持率は45%前後で拮抗し、どれだけ上積み出来るかがポイントといわれている。〝史上最低の大統領〟トランプを共和党支持者の一部が見捨てるのではと考えていたが、見当外れであることは結果に表れている。
別稿(7月25日)で紹介した「SKIN/スキン」(18年、ガイ・ナディーブ監督)は実話に基づいている。テーマは白人至上主義で、舞台は09年のオハイオ州コロンバスだ。右翼に忌避感を示す住民の台詞も織り込まれていたが、10年後、トランプという後ろ盾を得た右翼は〝市民権〟を得て、街を武装して闊歩している。
右翼とともにトランプを支えているのは福音派教会だ。信仰の篤い人たちの集まりというのは一面的で、福音派はグローバル企業の尖兵になっている。中南米で資源を採掘する企業は、まず福音派の教会を何軒も建てて現地の人々を洗脳し、反対派の動きを封じている。キリストの教えと真逆で、福音派は住民たちを簒奪するためのツールになっている。
トランプの科学軽視は福音派のキリスト教原理主義に基づいている。共和党支持者の多くは、トランプのコロナ対策失敗を責めていない。トランプが国際的な良識を踏みにじってイスラエルと〝悪の枢軸〟を形成するのも、有権者の20%以上を占める福音派の意に沿うためだ。
俺は当ブログで、今回の大統領選はアメリカのシビアな現実と遊離していると記してきた。最大のテーマに据えられるべきは、コロナ禍でさらに深刻さを増している格差と貧困だが、トランプとバイデン、副大統領候補の討論会でも意図的にスルーされている。メディアも同様で、開票番組でも経済政策や人種間の軋轢に焦点を当てていた。
トランプは前回もヒラリーを社会主義者と批判していた。今回も同様で、<社会主義に毒された民主党>と繰り返している。社会主義をタブー視するのは民主党も同様で、同党幹部の意を受けたNYタイムズが<サンダースではトランプに勝てない>と大々的に報じたことで予備選の空気が変わった。〝死に体〟だったバイデンが主役に祭り上げられたが、魅力と表現力のなさが〝敵失〟を突けなかった一因になっている。
民主党支持者の50%以上が資本主義より社会主義にシンパシーを抱いている。Z世代、ミレニアル世代はこの傾向が顕著で、予備選で10~20代のサンダース支持が突出していた。多様性、公正と平等、気候危機対策を主張して躍進しているのが民主党プログレッシヴで、これらの政策はサンダースの公約にも含まれていた。
全米で社会主義が浸透し、欧州では環境問題と公正・平等を掲げるグリーン・レッド連合が多くの自治体選で勝利を挙げている。アメリカの大統領選はいずれが勝ってもウイズコロナ時代の指標を示せないだろう。空虚なエンターテインメントを眺めるうち、暗澹たる気分になってきた。
ジェンダー意識の低い社会で追い詰められていた女性が声を上げた。その象徴といえる原作を映画化したのが本作である。韓国では改革派としてEU圏にも影響を与えた朴ソウル市長が、セクハラを訴えられて自殺した。翻って日本では、伊藤詩織さんをレイプしたTBS記者は逮捕を逃れた。もみ消した警察庁幹部は菅首相が官房長官時に秘書官を務めている。「週刊新潮」によると当該記者は首相に近い企業から顧問料等で月数十万を得ているという。
大阪都構想を巡る住民投票では、政党の力学を超えて反対派が多数を占めた。市民運動の熱気が結果に反映したものと思われる。NHKの開票特番もスリリングだったが、CNN(スカパー!)、ABC(NHK・BS1)の米大統領選開票速報も、出口調査の結果を冒頭に流す日本と異なりエキサイティングなショーだった。
前回の選挙と対照しながら、期日前投票(郵便を含む)のパーセンテージや集計時期を把握して分析を進めていくメインキャスターの手際に感心させられた。トランプが開票中に勝利宣言を出すというシナリオも想定内で、身内のFOXテレビでさえ辛口に伝えていた。プラウド・ボーイズら極右団体は日本時間5日以降、トランプの勝利宣言に呼応してワシントンに集結するかもしれない。
前回は〝ヒラリー当選確実〟の下馬評が覆った。今回は〝バイデンが数%リード〟と報じられていたから、意外な接戦に驚いた。期日前投票の結果を合わせ、新大統領が決まるのは今週末にずれ込みそうだ。共和、民主両党の支持率は45%前後で拮抗し、どれだけ上積み出来るかがポイントといわれている。〝史上最低の大統領〟トランプを共和党支持者の一部が見捨てるのではと考えていたが、見当外れであることは結果に表れている。
別稿(7月25日)で紹介した「SKIN/スキン」(18年、ガイ・ナディーブ監督)は実話に基づいている。テーマは白人至上主義で、舞台は09年のオハイオ州コロンバスだ。右翼に忌避感を示す住民の台詞も織り込まれていたが、10年後、トランプという後ろ盾を得た右翼は〝市民権〟を得て、街を武装して闊歩している。
右翼とともにトランプを支えているのは福音派教会だ。信仰の篤い人たちの集まりというのは一面的で、福音派はグローバル企業の尖兵になっている。中南米で資源を採掘する企業は、まず福音派の教会を何軒も建てて現地の人々を洗脳し、反対派の動きを封じている。キリストの教えと真逆で、福音派は住民たちを簒奪するためのツールになっている。
トランプの科学軽視は福音派のキリスト教原理主義に基づいている。共和党支持者の多くは、トランプのコロナ対策失敗を責めていない。トランプが国際的な良識を踏みにじってイスラエルと〝悪の枢軸〟を形成するのも、有権者の20%以上を占める福音派の意に沿うためだ。
俺は当ブログで、今回の大統領選はアメリカのシビアな現実と遊離していると記してきた。最大のテーマに据えられるべきは、コロナ禍でさらに深刻さを増している格差と貧困だが、トランプとバイデン、副大統領候補の討論会でも意図的にスルーされている。メディアも同様で、開票番組でも経済政策や人種間の軋轢に焦点を当てていた。
トランプは前回もヒラリーを社会主義者と批判していた。今回も同様で、<社会主義に毒された民主党>と繰り返している。社会主義をタブー視するのは民主党も同様で、同党幹部の意を受けたNYタイムズが<サンダースではトランプに勝てない>と大々的に報じたことで予備選の空気が変わった。〝死に体〟だったバイデンが主役に祭り上げられたが、魅力と表現力のなさが〝敵失〟を突けなかった一因になっている。
民主党支持者の50%以上が資本主義より社会主義にシンパシーを抱いている。Z世代、ミレニアル世代はこの傾向が顕著で、予備選で10~20代のサンダース支持が突出していた。多様性、公正と平等、気候危機対策を主張して躍進しているのが民主党プログレッシヴで、これらの政策はサンダースの公約にも含まれていた。
全米で社会主義が浸透し、欧州では環境問題と公正・平等を掲げるグリーン・レッド連合が多くの自治体選で勝利を挙げている。アメリカの大統領選はいずれが勝ってもウイズコロナ時代の指標を示せないだろう。空虚なエンターテインメントを眺めるうち、暗澹たる気分になってきた。