将棋の竜王戦第3局は豊島竜王が羽生九段を破り、2勝1敗と先行した。二転三転の末の逆転負けだが、羽生は「負けました」と頭を下げる。当たり前のシーンだが、アメリカ大統領選でトランプはまだ、敗北を認めていない。俺が驚いたのは、トランプが7000万票以上を獲得したことだ。ファシズムの根は枯れていない。
選挙報道の陰に隠れていたが、アメリカでは凄まじい勢いで新型ウイルス感染者が増加している。英国やイタリアでロックダウンが再導入されるなど、コロナ終息の見通しは立っていない。国内でも感染者は増加しているが、俺を含め神経が麻痺しているのか、数字に危機感を覚えなくなっている。
戯曲「白い病」(1937年、カレル・チャペック著、阿部賢一訳/岩波書店)を読了した。東大准教授である阿部氏がネットにアップした新訳が岩波編集者の目に留まり、この9月に出版に至った経緯がある。ファシズムの蔓延とパンデミックを予言したかのような内容で、ヒトラーをモデルに、現在のトランプと重なる指導者(元帥)が登場する。時宜にかなった作品といえるだろう。
ペストに似た「白い病」の正式名称はペイピン病で、中国由来とされチェン氏病とも呼ばれるあたりコロナと重なっている。「中国では毎年のように興味深い感染症が誕生している」という台詞もあった。チャペックはチェコ人で、ナチスドイツがプラハに侵攻した数カ月前、1938年に召されていた。兄ヨゼフ(画家、著述業)は強制収容所で亡くなっており、ファシズムに抗った表現者兄弟といえる。
作者の念頭にあったスペイン風邪よりさらに深刻なのが白い病だ。罹患するのは50歳前後で、確実に死に至る。胸が大理石のように硬く白くなり、斑点が発症の徴だ。患者は悪臭を放ちながら斃れていくが、開業医ガレーン博士が治療薬を発明する。ガレーンは医学界の権威の下で学んだ経験があり、「童子(ジェチナ)」の呼称は中国風だ。
ウイズコロナの時代、価値観の転換が試され、多様性、公正と平等、調和、シェアする精神が求められている。欧州の動きには期待が持てるが、バイデン新大統領にパンデミックを克服する指標を示すのは難しそうだ。本作では対極の価値観が提示される。世界最大の軍事国家の独裁者である元帥と、盟友である軍需産業トップであるクリューク男爵は<戦争と侵略>を掲げ、ガレーンは従軍経験から<反戦と平和>で対峙する。最前線で戦う兵士は屍の山を築き、富裕層は後方で生き残ることが出来る。ガレーンは貧困層に無料で治療を施し、仕組みを変えることが可能な金持ちは絶対に診ない。
<1%>が<99%>を簒奪する現在の構図に置き換えられるが、状況は一変した。クリュークと元帥が相次いで罹患したのだ。クリュークは自身の価値観を守るため命を絶つ。元帥は神の如き絶対者を自任し、白い病を恐れないと公言していたが、恋人である自身の娘とクリュークの息子の説得もあり、ガレーンの治療を受け入れる。平和条約締結と撤兵が条件で、平和の灯が射した刹那、暗転する。
現実にタイムスリップする。開票結果を認めないトランプ支持者に恐怖を覚えた。トランプが消えても、福音派や右派に後押しされたポスト・トランプが登場するだろう。新自由主義の歪みによって辛酸を舐めている低所得層が、ポスト・トランプを支えるだろう。<格差による分断がファシズムや排外主義を生む>構図はアメリカでもリアルだ。日本でも戦前、生活に絶望した庶民の好戦意識をメディアが伝え、軍国主義が高揚した。「白い病」の悲痛なラストがファシズムの一端を象徴している。
韓国、台湾、香港に続き、穏健と見られていたタイの若者が立ち上がった。現在の日本を戦前に重ねる識者もいるが、熱狂なき沈黙のファシズムの本質を解くのは難しい。
選挙報道の陰に隠れていたが、アメリカでは凄まじい勢いで新型ウイルス感染者が増加している。英国やイタリアでロックダウンが再導入されるなど、コロナ終息の見通しは立っていない。国内でも感染者は増加しているが、俺を含め神経が麻痺しているのか、数字に危機感を覚えなくなっている。
戯曲「白い病」(1937年、カレル・チャペック著、阿部賢一訳/岩波書店)を読了した。東大准教授である阿部氏がネットにアップした新訳が岩波編集者の目に留まり、この9月に出版に至った経緯がある。ファシズムの蔓延とパンデミックを予言したかのような内容で、ヒトラーをモデルに、現在のトランプと重なる指導者(元帥)が登場する。時宜にかなった作品といえるだろう。
ペストに似た「白い病」の正式名称はペイピン病で、中国由来とされチェン氏病とも呼ばれるあたりコロナと重なっている。「中国では毎年のように興味深い感染症が誕生している」という台詞もあった。チャペックはチェコ人で、ナチスドイツがプラハに侵攻した数カ月前、1938年に召されていた。兄ヨゼフ(画家、著述業)は強制収容所で亡くなっており、ファシズムに抗った表現者兄弟といえる。
作者の念頭にあったスペイン風邪よりさらに深刻なのが白い病だ。罹患するのは50歳前後で、確実に死に至る。胸が大理石のように硬く白くなり、斑点が発症の徴だ。患者は悪臭を放ちながら斃れていくが、開業医ガレーン博士が治療薬を発明する。ガレーンは医学界の権威の下で学んだ経験があり、「童子(ジェチナ)」の呼称は中国風だ。
ウイズコロナの時代、価値観の転換が試され、多様性、公正と平等、調和、シェアする精神が求められている。欧州の動きには期待が持てるが、バイデン新大統領にパンデミックを克服する指標を示すのは難しそうだ。本作では対極の価値観が提示される。世界最大の軍事国家の独裁者である元帥と、盟友である軍需産業トップであるクリューク男爵は<戦争と侵略>を掲げ、ガレーンは従軍経験から<反戦と平和>で対峙する。最前線で戦う兵士は屍の山を築き、富裕層は後方で生き残ることが出来る。ガレーンは貧困層に無料で治療を施し、仕組みを変えることが可能な金持ちは絶対に診ない。
<1%>が<99%>を簒奪する現在の構図に置き換えられるが、状況は一変した。クリュークと元帥が相次いで罹患したのだ。クリュークは自身の価値観を守るため命を絶つ。元帥は神の如き絶対者を自任し、白い病を恐れないと公言していたが、恋人である自身の娘とクリュークの息子の説得もあり、ガレーンの治療を受け入れる。平和条約締結と撤兵が条件で、平和の灯が射した刹那、暗転する。
現実にタイムスリップする。開票結果を認めないトランプ支持者に恐怖を覚えた。トランプが消えても、福音派や右派に後押しされたポスト・トランプが登場するだろう。新自由主義の歪みによって辛酸を舐めている低所得層が、ポスト・トランプを支えるだろう。<格差による分断がファシズムや排外主義を生む>構図はアメリカでもリアルだ。日本でも戦前、生活に絶望した庶民の好戦意識をメディアが伝え、軍国主義が高揚した。「白い病」の悲痛なラストがファシズムの一端を象徴している。
韓国、台湾、香港に続き、穏健と見られていたタイの若者が立ち上がった。現在の日本を戦前に重ねる識者もいるが、熱狂なき沈黙のファシズムの本質を解くのは難しい。