酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

来し方と重ねつつ、斎藤幸平著「人新生の資本論」を紹介する

2020-11-21 22:06:43 | 読書
 米食品医薬品局(FDA)は来月10日、ファイザーの新型コロナワクチン承認の可否を決定するという。前稿の枕に記したように、ビッグ・ファーマ(製薬メジャー)は、大量の資金援助でアメリカ食品医薬品局(FDA)を牛耳っている。承認は確実で株価はさらに上昇するだろう。

 だが、希望だけではない。製薬メジャーの代理人(有力政治家ら)は価格を一定に保つよう蠢くはずで、塗炭の苦しみに喘ぐ<99%>やアフリカの人々にワクチンが行き渡る保証はない。仮にコロナが終息しても、自然破壊を止めない限り、新たな人獣共通感染症が発生する可能性が大きいと、五箇公一氏(国立環境研究所)ら科学者は警鐘を鳴らしている。

 ウイズコロナ時代を生き抜くため、様々なムーブメントが広がっている。英米では社会主義を謳うバーニー・サンダース、ジェレミー・コービンが多くのフォロワーを生み、<コモン>を軸に据えたバルセロナの試みが絶賛されている。フランスではグリーン・レッド連合が自治体首長選で次々に勝利を収めた。

 日本で胎動を窺わせるのは斎藤幸平(大阪市大准教授)だ。新著「人新生の『資本論』」(集英社新書)は刺激的な内容である。<人新生=ひとしんせい>とはパウル・クルッツェン(化学者)の命名で、<人類の活動の痕跡が地球全体を覆い尽くした新たな地質年代>を指している。背景にあるのは新型ウイルス発生の原因である自然破壊だ。

 斎藤について繰り返し紹介してきた。「未来への大分岐」では3人の〝知のトップランナー〟と対談した。そのうちのひとり、マルクス・ガブリエルの「NY思索ドキュメント」(NHK・Eテレ)では通訳を兼ねて取材に同行し、日本の現状について語り合っていた。30代前半にしてグローバルな評価を確立している。

 本書は俺にはハードルが高く、消化不良のままだ。とはいえ、ブログで頻繁に記してきた<脱成長>、<ローカリゼーション>、<持続可能性>、<多様性>といった言葉がちりばめられていたので、親近感を覚えながらページを繰る。斎藤に講師を依頼したオンラインセミナー「脱成長経済と社会的連帯で気候危機に立ち向かう」(12月12日、グリーンズジャパン主催)が開催されるので、来月には改めて、斎藤自身の解読を参考に本書を紹介する。今回は自分の来し方に引き寄せて感想を綴りたい。

 1970年代後半から80年代にかけ、学生だった俺はマルクスの疎外論に興味を持った。疎外を定義すれば<人間が作ったものが自身を離れ、やがて支配する力になって現れる>……。頭脳明晰な友人は「資本論」を貫くテーマと捉えていた。

 「資本論」第1部は1867年に発表され、第2、3部はマルクスの没後、エンゲルスの尽力によって出版された。31歳でドイッチャー研究賞を受賞した斎藤は「資本論」未収録のマルクスが残した草稿に注目し、「人新生の『資本論』」では従来の研究家が目を向けなかったマルクスの到達点に迫っている。

 第一は生産力至上主義からの脱却で<脱成長コミュニズム>にリンクする。第二は変革の起点としての<共同体>の再評価だ。斎藤はマルクスに則り、<価値から使用価値への転換>でコミュニズムの軸にコモンを据える。本来なら人間が無料かつ無限に入手出来るはずの公共財産(=コモン、水や電気)を民営化によって簒奪するのが資本主義だ。

 成熟した資本主義→社会主義だけでなく、人間同士、そして人間と自然の融和が成立している共同体を革命の基盤に据えるもう一つの可能性をマルクスは提示した。現在の自然危機と重ねることが出来るだろう。来月には<ポスト資本主義>、<価値と使用価値>、<脱成長コミュニズム>など本作の軸になる点を自分なりに整理して記したい。

 斎藤に説得力を覚えるのは、理論と社会運動を不可分と考えていることだ。あとがきで斎藤は<SNS時代、3・5%の人々が本気で立ち上がると社会は大きく変わる>という政治学者エリカ・チェノウェス(ハーバード大教授)の言葉を紹介し、ウォール街占拠やグレタ・トゥーンベリなどの実例を挙げた。

 この言葉に重なったのが「脱成長ミーティング」発起人で、<5%が変われば社会は変わる>が持論の高坂勝氏(グリーンズジャパン初代代表)だ。匝瑳市で農業プロジェクトを立ち上げた高坂氏の説く理念は斎藤と極めて近い。両者によるトークイベントを心待ちにしている。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする