酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「眠る村」~現在日本を穿つドキュメンタリー

2019-02-19 23:44:43 | 映画、ドラマ
 先週末、「武器『輸出』反対ネットワーク」結成3周年集会に参加した。終了直前、杉原浩司代表から、米国からの輸入が拡大したことを勘案し、武器『取引』反対ネットワーク」に名称を変更するとの発表があった。略称NAJATは継続する。

 「これでいいのか? 増える軍事費・壊れる暮らし」と題された集会で、福好昌治氏(軍事評論家)が安倍政権下の防衛費増、高端正幸氏(埼玉大准教授)が逼迫した暮らしをテーマに話す。高橋氏の講演は消費税など様々な問題にリンクしているので、後日改めて取り上げたい。本稿では福好氏の指摘に絞って紹介する。

 <日本を戦争出来る国にするため、質量とも自衛隊を充実させる>なんて絵空事……。福好氏だけでなく、井筒高雄氏(元自衛隊レンジャー部隊)ら軍事問題のエキスパートは<原発が林立し、農産物をはじめ輸入に頼る国に戦争は不可能>と断言する。自衛隊幹部の見解は同じだという。

 米兵器爆買いの前提は、同国の安全保障政策の一環であるFMS(同盟国に装備品を有償で提供する仕組み)だ。爆買いの煽りで、自衛隊は深刻な状態になっている。各種備品が自費になり、訓練経費も削減されたという。その結果、防衛産業の衰退と自衛隊の弱体化を招いた。安倍首相の勇ましい発言は、米国隷属を隠すためのポーズと福好氏は考えている。極めて刺激的な講演だった。

 ようやく本題。ポレポレ東中野で「眠る村」(2018年、東海テレビ製作)を見た。第二の帝銀事件として世間を騒がせた名張毒ぶどう酒事件(1961年)の真相に迫っている。三重と奈良の県境に点在する葛尾地区で開かれた懇親会で毒入りぶどう酒を飲んだ5人の女性が死亡し、12人が病院に搬送された。警察の威信を懸けた尋問で自白に追い込まれたのが、2015年に獄中で亡くなった奥西勝元死刑囚(享年89)である。

 当初、疑惑の目を向けられたのが懇親会長で、執拗な取り調べに気力が萎え、自白寸前に追い込まれたと告白していた。当時から変わらぬ<警察-検察-裁判所>の悪習は、「相棒」でも頻繁に取り上げられる自白絶対主義で、取調室の暴力が冤罪と死刑を生んでいる。警察の内部文書にも<絶対に自白を取れ>と記されているという。被害者である母が入院した際、お腹にいた男性は、<奥西さんには友人が少なく、富も力もなかったから、ターゲットにされたのではないか>(論旨)と語っていた。

 事件の起きた葛尾地区は果たして特別な場所だろうか? 事件から半世紀経ち、日本の空気は変わったのだろうか? 異物を排除する閉鎖的かつ排他的な共同体は、現在日本に無数に存在する。「眠る村」とは、日本全体にムラの論理が浸潤していることを示すメタファーだ。森友・加計問題、統計不正の根底にあるのは忖度と同調圧力だ。奥西元死刑囚が犯人にでっち上げられる過程で、住人たちは警察と検察の意に沿うよう証言を大幅に訂正した。

 東海テレビは名張毒ぶどう酒事件について数本のドキュメンタリー、3本の劇場公開作を製作した。仲代達矢は3作のナレーションを担当し、「約束」では奥西役を演じていた。別稿(2月3日)で紹介した「共犯者たち」では権力に屈した検事の名前が明かされていたが、「眠る村」では再審請求を却下した裁判官たちの顔を大写ししていた。

 共同監督として鎌田麗香、斎藤潤一(ともに東海テレビ社員)がクレジットされている。斎藤はこれまでの作品を担当し、その映像が「眠る村」に織り込まれていたが、本作でメガホンを執ったのは〝3代目〟の鎌田だ。琉球朝日放送在籍時から沖縄をテーマにドキュメンタリーを撮り続けている三上智恵、東京新聞の望月衣塑子記者とともに、瀕死メディアを救う存在になるかもしれない。

 「科捜研の女」の榊マリコなら、「科学は嘘をつかない」と奥西無罪を宣言するだろう。弁護団が提示した最新技術による鑑定に基づく証拠の数々を無視した裁判官たちは、官邸に忖度した官僚たちと変わらない。奥西死刑囚の妹、岡美代子さんの「裁判所(=裁判官)は私が死ぬのを待っている」の言葉が胸に響いた。
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