酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「ベルリンファイル」~愛と慟哭に根差したスパイアクション

2013-08-06 23:45:09 | 映画、ドラマ
 68年前の8月6日、広島に原爆が投下された。被爆者や福島原発事故で被曝した作業員の苦しみ、そして若い世代を蝕んでいる放射能の恐ろしさを、〝原発のセールスマン〟安倍首相は理解しているのだろうか。松井広島市長も言及していたが、核開発に直結するインドへの原発輸出は、すぐさま撤回するべきだ。

 「麻生ナチス発言」は収束の方向だ。ヤフーのアンケートでも「問題ない」が大きく上回り、週刊誌も沈黙している。おかしいのは俺の方だろうか……。不安になってネットサーフィンしていたら、田原総一朗氏が麻生発言に苦言を呈していた。田原氏は安倍応援団のひとりといわれるが、戦中派として麻生発言は許せないのだろう。宮台真司氏の冷静なコメントにも共感できた。

 麻生発言が許容される国は、国連加盟国でどれぐらいの数だろう。欧州全域、北米、オセアニア、左派が強い南米、経済発展が著しいアジア地域で即アウト。反イスラエルのアラブ諸国でも〝利敵行為〟とみなされ、辞任に追い込まれる可能性がある。日本を覆う<沈黙という狂気>を育んだのは俺を含めた中高年世代だ。憂える前に来し方を反省し、何かを為さねばと思うが、目が覚めたら忘れている。

 新宿で先週末、韓国映画「ベルリンファイル」(13年、リュ・スンワン監督)を見た。俺は映画に点数をつけない主義だが、「007スカイフォール」の2割増といったところか。いずれご覧になる方は多いはずなので。ストーリー紹介は最低限に、簡潔に記したい。背景は現在進行形の北朝鮮の体制移行で、混乱が諜報機関にも及んでいるという設定だ。同じ分断国家であったことも理由のひとつなのか、舞台はドイツだ。

 様々な切り口で描かれるベルリンの街で、息つく間もないスパイアクションが展開する。冒頭のモンタージュでギュンター・グラスの大きな写真を見つけた。グラスが10代の頃、ナチスの武装親衛隊に入隊したことを自伝で告白して大騒動を巻き起こしたのは06年だが、映画にインサートされたカットは撮影時(12年)の出来事だ。ユダヤ人虐殺の負い目でイスラエルに武器を輸出し、パレスチナ人への暴虐に頬かむりする政府を批判した詩で、グラスはまたも議論の中心になった。

 本題に戻る。主人公はゴーストと呼ばれる北朝鮮の諜報員ピョ・ジョンソン(ハ・ジョンウ)で、大使館通訳の妻リョン・ジョンヒ(チョン・ジョンヒ)、弟分で冷酷な監察員、在ベルリン北朝鮮大使が、謀略と裏切りが渦巻くストーリーの軸になる。北朝鮮サイドの混乱に乗じて一泡吹かせようと奮闘する韓国国家情報院所属のチョン・ジンス(ハン・ソッキュ)、CIA局員、ロシアの武器商人、モサド、イスラム系武装グループらが理念と利益で蠢いている。シリアスな「エロイカより愛をこめて」といった感じだ。

 韓流といってもドラマや音楽には無縁だが、映画を見る機会は多い。今年は「殺人の告白」、「嘆きのピエタ」に次ぎ3作目で、色合いは異なるが、スクリーンには常にパワーと情念が漲っている。一分の隙もないエンターテインメントといえる本作の根底に流れているのは愛と慟哭だ。

 日本の任侠映画、香港ノワールを彷彿とさせるラストに胸が躍り、ピョとチョンの国家を超えたさりげない友情が心に染む。「韓国、畏るべし」の思いを強くした。今週末は「ハナ~奇跡の46日間~」を見る予定だが、夏バテで体が動かないかもしれない。
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