酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「老人と鳩」~方南通りに交錯する光と影

2011-07-27 02:43:33 | 戯れ言
 <(原発推進の)〝本籍ワシントン〟 が後任に据えられるのなら、菅首相の逆噴射に期待したい。(中略)脱原発を掲げて解散に打って出れば、俺は一票を投じるだろう>……

 脱電発と切り離せない公務員制度改革や情報公開に消極的な菅首相を信頼しているわけではないが、俺は別稿(6月9日)で以上のように記した。

 「週刊文春」最新号で、2人の味方を見つける。池澤夏樹氏は「ぎりぎりまで居座り、改革を一歩進めてほしい」(引用)と菅擁護を鮮明にし、坂本龍一氏は「菅首相がやっていることは、図らずも誰が原発推進派かをあぶりだすストレステストになっています」と語っていた。

 考え方は似ていても、両氏と俺には、有名無名ということ以上に決定的な差がある。両氏は環境問題全般に造詣が深い<自然派>だが、俺は機能的な都会生活に安らぎを覚える<人工派>だ。俺に脱原発を語る資格があるのか甚だ疑わしい。

 5歳の春、祖父母宅(園部町=現南丹市)から伏見区桃山の公務員官舎に引っ越し、俺を包む光景は一変する。裏手に立ち並ぶ30棟近い無人の団地群を歩いた時、「これが俺の未来だ」と確信した。

 上京して西新宿に佇んだ時、幼い時の感覚が甦った。高層ビル群はまるで墓標のようで、キング・クリムゾンの「エピタフ」を口ずさみつつ、「俺の墓碑銘は無か虚だな」と独りごちた。詩的イメージに浸ってから三十余年、朝は西新宿五丁目駅から大江戸線に乗り、高層ビルに見下ろされながら帰路に就くのが俺の日常だ。
  
 新宿駅を背に方南通りを歩いていくと、損保ジャパン、新宿野村ビル、センタービル、新宿三井ビル、アイランドタワー、新宿住友ビル、ヒルトン東京が視界に入ってくる。ビジネス街に大きな変化はないが、ここ数年、新宿中央公園を超えても高層ビルが次々に完成し、様変わりが著しい。

 徒歩で15分強の中央公園北口から弥生町3丁目のバス停まで、交差する十二社通り、山手通り沿いに見える店を加えて数えたら、スーパー=3軒、コンビミ=8軒、薬局=4軒(大型チェーン店3)、牛丼屋=4軒、中華・エスニック=10軒前後……。その他、洋食系(パブ含む)、弁当屋、和風、飲み屋がひしめいている。

 将棋界御用達の和風レストラン前で、テレビでお馴染みの棋士の顔を見ることもある。有名人といえば、大盛況の立ち飲み屋で経営者のキラー・カーンさんがカウンターに立っている。〝アンドレの足を折った男〟はWWF(現WWE)と週給600万円で契約するトップヒールだった。

 供給過剰に思えるが、入居者、テナントを待つ完成間近の高層ビルも多く、それなりの成算を持っての新規参入だろう。美容室やクリーニング店も目につくが、残念ながら書店がない。WIN5で一発当て、本屋さんにでもなろうかな……。

 俺にとって方南通りの友といえば、缶拾いで生計を立てるホームレス(恐らく)のおじいさんだ。腰は曲がり、いつもブツブツ呟いている。朝だけでなく夜にもすれ違うから、労働時間は極めて長い。そのおじいさんの周りに、鳩が集まっている。米粒やパンくずを与えているからだ。

 光が射さない大都会の底、おじいさんは不可視の存在として生き、地震の被災者のように気遣われることなく死んでいく。凡百の映画では描けない「老人と鳩」の美しいシーンを目の当たりにしながら通り過ぎる俺もまた、罪人のひとりなのだ。
コメント
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