酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「義兄弟」が示すもの~<人間的>こそ体制を超える

2010-11-12 05:23:11 | 映画、ドラマ
 竜王戦第3局で羽生名人が初勝利を挙げ、混戦ムードになってきた。前2局同様、積極的な羽生に渡辺竜王が慎重に応じる展開。2日目午後6時の時点で広瀬王位(NHK解説者)らは明らかに渡辺乗りだった。

 素人目に逆転不可能に思えたから、羽生勝利を知ってかなり驚いた。何が起きたのか、あす午後の「囲碁将棋ジャーナル」で確認したい。島9段(初代竜王)の的を射た解説が楽しみだ。

 新宿で先日、「義兄弟~SECRET REUNION」(チャン・フン監督、10年)を見た。韓国映画躍進の立役者で<第2代亜州影帝>のソン・ガンホ、鋭さと繊細さを巧みに表現するカン・ドンウォンがW主演だ。

 映画館を出た後、もどかしさでモヤモヤした。本作と間を置かず「ナイト&デイ」を見た知人は、落差に愕然としたというが、出来栄えとは反比例するかのように「義兄弟」は東京で1館のみ(しかもガラガラ)で、「ナイト&デイ」は大々的に公開されている。

 船越英一郎と外見のイメージが近いソン・ガンホはともかく、イケメンのカン・ドンウォンはアイドルとして騒がれた時期もあったというから、うまく宣伝すれば韓流大好きの女性たちを動員できたはずだ。興行関係者はまだ、<ハリウッドが一番>という幻想に憑かれたままなのだろうか。

 脇道に逸れたが、本題に戻る。2000年のソウル、敏腕の韓国情報部員イ・ハンギュ(ソン・ガンホ)は北朝鮮の暗殺者〝影〟を追っている。一方のソン・ジウォン(カン・ドンウォン)は韓国に潜入した〝影〟の協力者だが、仲間の裏切りで窮地に立たされる。冒頭とラストで凄絶なアクションが展開する本作に、<初代亜州影帝>チョウ・ユンファが大暴れした後期香港ノワールの影響が窺えた。

 功名心に走ったハンギュはリストラされるが、金大中大統領の太陽政策が背景にあった。6年後、探偵事務所を営むハンギュは、ベトナム系組織を牛耳る男(表情が朝青龍そっくり)の下で働くジウォンを報奨金目当てでスカウトし、自らの部屋に同居させる。

 だらしなくおちゃめなハンギュ、「名探偵コナン」の赤井秀一(FBI捜査官)を想起させるストイックなジウォン……。対照的な2人は短期間で名コンビになる。ハンバンガーが南北の違いの象徴として描かれ、光が射すラストの台詞へと繋がっていく。

 ハンギュとジウォンは相手の過去を知り、現在を偽装と見做している。果たして相手は、自分の正体を知っているのだろうか……。見る側にとっては〝ネタバレ〟の展開で、2人は疑心暗鬼に陥る。

 本作のキーワードはジウォンが繰り返す<人間的>だ。職業柄、利で動かざるをえないハンギュは、ジウォンにたびたび戒められる。「北の冷酷な工作員のくせして、何が人間的だ」と言いたげなハンギュだが、ジウォンの言葉に偽りがないことに気付き、タイトルそのままの心に染みる絆を紡いでいく。

 北朝鮮の核実験で緊迫し、穏やかに流れた時間は逆回転の早回しになる。デラシネ状態だったハンギュとジウォンも過去のしがらみに引き寄せられた。ジウォンは家族への思い、任務への忠実さ、ハンギュとの友情を貫き、<人間的>であることを証明できるのか……。奇跡の筋書きが用意されている。

 「義兄弟」はシリアスかつユーモラスで、ヒューマニズムに溢れる奥深いエンターテインメントだ。ベトナム系コミュニティーや人身売買など、韓国社会の裏面も興味深かった。

 本作を支えているのは、ソン・ガンホとカン・ドンウォンが醸し出す空気だ。瞬間の緊張感、和み、言葉にならない思いを切り取ったチャン・フン監督の力量も称賛に値する。邦画の質も上がっているが、個々の俳優のパワーと表現力では、まだ韓国映画に敵わないのではないか。
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