酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

ブロンド・レッドヘッドが受け継ぐ4ADの遺伝子

2007-09-20 01:53:01 | 音楽
 進取の気性が衰えた俺にとって、夏フェス特集番組は貴重な情報源だ。ワイト島とフジロックのダイジェストも、別稿(8月13、27日)に記した通り発見は多かった。今回は「フェロモン」をキーワードに2組のアーティストを紹介したい。

 まずは若くして妖艶な、イギリスの歌姫エイミー・ワインハウスから。ハスキーボイスとメリーナ(WWE)を連想させる姿態に一目惚れした。2nd“Back To Black”はアメリカでもベストセラーになり、今もビルボードでトップ10を保っている(チャートイン26週目)。クールとソウルフルのアンビバレンツを併せ持ち、ルーツ音楽への郷愁に溢れた好アルバムだ。10代半ばで酒と男に溺れたエイミーは、自らの経験を赤裸々な歌詞に綴っている。

 ワイト島'07ではストーンズに請われ、同じステージに立った。「オルタモントの悲劇」当日(69年)、ミック・ジャガーはモニターに映るティナ・ターナーに舌なめずりしていた。エイミーはティナほど肉感的ではないが、ミックがもう少し若ければ猛アタックしたに違いない。

 フジロックのダイジェストで“The Dress”を演奏するブロンド・レッドヘッドに見入ってしまった。ボーカル&キーボードが京女のカズ・マキノ、ギターとドラムがイタリア人の双子兄弟と、国際色豊かなベースレスのトリオである。ソニック・ユースに見いだされ、レッチリのツアーに帯同するなど、ニューヨークのインディーシーンで評価を確立している。カズはセルジュ・ゲンズブール、ツインズはパゾリーニ監督をフェイバリットに挙げており、作品にもそれぞれへのオマージュが反映している。

 前作”Misery is a Butterfly”と新作“23”しか聴いていないが、ともに4ADからリリースされ、ニューウエーヴ色の濃いアルバムだ。コクトー・ツインズ、マイ・ブラッディ・バレンタイン、後期バンシーズに浸った人にお薦めのアルバムである。メロディアスでエキセントリックな音に、カズの儚げな声が被さり、官能の蒼い炎に焦がされるような感覚に包まれる。

 来日時のインタビューで、カズは「この国で人気がないのは、わたしが日本人のせいかしら? ほかの国のような状況になればいいのに」と、日本での知名度の低さを残念がっていた。フィーダーのタカ・ヒロセ、スマッシング・パンプキンズのジェームス・イハ(日系3世、現在は脱退)に対する関心も、国内で極めて低い。日本のロックファンはなぜか、<海外で活躍する日本人>に冷淡である。

 4ADは思い出深いレーベルで、コクトー・ツインズ、デッド・カン・ダンス、バウハウス、ラッシュ、モダン・イングリッシュ、ピクシーズと個性的なバンドを輩出している。俺の一押しはレーベルの総力を結集したプロジェクト、ディス・モータル・コイルの3部作だ。耽美的で退廃的な4ADのイメージが凝結され、万華鏡のようにカラフルな音空間を創り上げた。最良の遺伝子はブロンド・レッドヘッドにも受け継がれている。

 彼らの単独公演を心待ちにしているが、会場に入るには勇気が必要かもしれない。スノッブでお洒落な若者に囲まれるのは、薄汚れた中年男にとってある種の恐怖なのだから……。


コメント (3)
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