酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「オリーブの樹の下で」~鮮度の高い革命との出会い

2007-09-05 02:13:45 | 音楽
 PANTAが新作を発表した。菊池琢己との新プロジェクト「響」の第1弾で、タイトルは「オリーブの樹の下で」である。

 本作はPANTAと重信房子さん(日本赤軍最高指導者)とのコラボレーションだ。重信さんはパレスチナ解放闘争に加わり、現在獄中にある。重信房子作詞-PANTA補作詞で両者の来し方を綴った曲、重信さんを支援するライラ・ハリッドさんに捧げた曲、長女メイさん(ジャーナリスト)が母への思いを歌った曲と、バラエティーに富んだ構成になっている。

 PANTAは間違いなく、世界で最も過激かつ知的なロッカーだ。「世界同時革命宣言」~「赤軍兵士の詩」~「銃を取れ」が収録された頭脳警察の1stアルバム(72年)は制作中に発禁になった(01年にCDとして再発)。頭脳警察休止後も「マラッカ」、「1980X」、「クリスタルナハト」など質の高い傑作群を発表している。

 両者の出会いは2年前だった。PANTAは重信さんの裁判を傍聴し続け、顔見知りになったメイさんの仲介で往復書簡が始まった。交流を形にしたのが本作である。今日に至る40年を縦軸、パレスチナと日本の絆を横軸に据えた座標軸に、PANTAと重信母娘はスケールの大きい虹を懸けた。

 重信さんとPANTAが活動を始めた60年代後半、革命はレアのステーキで、<我々は血の最後の一滴が枯れるまで、国家権力と闘うぞ>なんて勇ましいシュピレヒコールが響き渡っていた。二人は青春期の回想と現在の心情を、以下のように赤裸々に綴っている。

 ♪みんなどこへ行ったのか ボクは今も独りバリケードの中にいる 夢にはぐれ独り 独り(「来歴」)
 ♪あの時 告げるべきだったのは愛 マルクスでも哲学でもなく 君を愛していたこと(「独りぼっちの子守歌」)
 ♪これから どのように生きていきますか 傷跡を見せられるならば 又 未来を創れますね(「手紙」)
 ♪ドンキホーテの愛の歌は 息を弾ませ ドンキホーテの愛の歌は 君に届く熱い光線(「心の砦」)

 メイさんが房子さんへの思いを歌った「母への花束」も心に迫るが、クライマックスは女性革命家ライラ・ハリッドさんに捧げた「ライラのバラード」だ。エンディングのフレーズを紹介する。

 ♪戦火を逃れて 故郷を追われた 家も街も祖国も なにもかも奪われた あれから半世紀過ぎても 斗いの権利は捨てない わたしの物語 だけどそれはみんなの物語 パレスチナの 世界の友の物語

 ライラさんは重信さんの支持者に寄せたメッセージで、<彼女を裁くことは、抑圧された人々の連帯行為を裁くことであり、更に正義を、解放闘争の戦士を裁くこと>(概略)と記していた。

 俺が大学に入った頃(70年代後半)、革命は死語になっていた。革命をお題目にした家元(新左翼各派)は構内警察と化し、抗議の声さえ芽のうちに摘んでいた。社会に出れば、革命は酒の肴で、「俺たちは世の中を変えようとした」なんて御託を何度も聞かされる羽目になる。全共闘世代の変わり身の早さと自己正当化の巧みさに、あきれ果て、暗澹たる気分になった。本作を聴いて、初めて鮮度の高い革命に触れたことになる。

 俺はプラグマティストで、政治は漸進がベストと考えている。だが、「世界最大のテロ国家」アメリカと対峙するため、パレスチナで頻発する<愛とプライドに基づいたテロリズム>を否定できないでいる。

 「世界のヘソ」パレスチナが解放されるまで、どれほどの時間がかかり、いかほどの血が流されるのか……。考えているうち、無為な自分が悲しくなってきた。
コメント
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