酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「労働者階級の英雄」マニックスの成熟

2007-05-31 18:32:03 | 音楽
 ここ数日、マニック・ストリート・プリーチャーズの8thアルバム“Send Away The Tigers”を聴き込んでいる。

 前作“Lifeblood”は、ミルクに浸されたパンのように、柔らかで浮遊感のあるアルバムで、クチクラ化した俺の皮膚にしっとり染み込んだ。“Send Away The Tigers”は前作のトーンを継承しつつ、従来の躍動感も甦えらせている、♯5“The Second Great Depression”では最近の状況を<長く続いた2番目の鬱>と表現していた。バンドは新作をリスタートの起点と位置付けているようだ。

 マニックスの魅力はアンビバレンツだ。暴力的でスキャンダラスなのに、知性に溢れている。風貌に合わないソプラノを厚いビートに絡ませるジェームズの右、ニッキーが妖しさを振りまく。ピカデリーサーカスの男娼のようないでたちで聴衆を挑発する。

 リッチー失踪(現在も消息不明)で悲劇性を纏ったマニックスは、4th“Everything Must Go”(96年)~5th“This Is My Truth Tell Me Yours”(98年)でブレークする。文学青年ジェームズ、高名な詩人を兄に持つニッキーが豊穣なメロディーに知的でラディカルな詩を乗せた。攻撃性とリリシズムの融合で、「UK国宝バンド」の称号を獲得した。

 “Send Away The Tigers”は11曲+日本盤ボーナス3曲で計47分とコンパクトな作りだが、捨て曲がなくクオリティーの高いアルバムだ。ブレア批判をも詩に込めたタイトル曲の♯1、負け犬とフリークスへの賛歌といえる♯2、カーディガンズのニナをゲストに迎えた♯3、イラク戦争とロシア革命にインスパイアされた♯6と、マニックスらしいメッセージ性とドライブ感に満ちた曲が続く。

 憂いを秘めた♯4“Indian Summer”は、日本語に訳せば小春日和で、晩年を意味する。♯10では、♪俺達が命がけで守ったものが、俺の周りで崩壊していく(ライナーノーツ:児島由紀子訳)と歌っていた。全編を通し、内省、老い、諦念が漂っている。マニックスは本作で、<清冽と成熟>という新たなアンビバレンツを獲得した。

 マニックスは革命的左翼のSLPを公然と支持するなど、尖鋭な姿勢を隠さない。パ-ル・ジャムやレイジ・アゲンスト・ザ・マシーンとともに、言動に説得力がある数少ないバンドの一つだ。♯11でジョン・レノンの「労働者階級の英雄」をカバーしているが、現在のUKでこの曲を演奏する資格のある唯一のバンドだと思う。

 エキストラ映像のシャープなパフォーマンスに、マニックスの意気込みが窺えた。彼らの立ち位置はソニック・ユースと共通している。格とか量的な競争を超越し、永遠のパンクスとして活動を続けていくに違いない。サマソニはパスするが、単独公演には足を運びたい。<世界で最も涙腺を刺激するバンド>に心地よく濡れることができるだろう。

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