弁理士の日々

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朝日新聞「ラピダス秘録」

2024-05-06 09:29:32 | 歴史・社会
朝日新聞朝刊に、半導体製造の「ラピダス」に関する3回連載の特集記事が載りました。
(けいざい+)ラピダス秘録:上 なぜ日本?IBMは突然に
2024年4月30日 朝日新聞
『経済産業省の平井裕秀は2020年7月、商務情報政策局長に昇進した。ハイテク産業を所管する同省の枢要ポストである。着任してまもなく、入省年次で九つ上の先輩が就任祝いのあいさつにやってきた。先輩は平工奉文。製造産業局長を最後に退官し、このときは日本IBMの特別顧問を務めていた。』
このときから、IBMと経産省の密談が始まりました。
『IBM側は「2ナノ技術の導入について日本政府は関心はありますか」と投げかけてきた。』
米国IBMは、半導体の自社開発をあきらめず、オールバニで開発を進めていました。
経産省の平井は、IBM側の申し出を日本のどの企業に伝えるか頭を悩ませました。候補に挙がったのは、ルネサスエレクトロニクス、ソニー、東芝系のキオクシア、それにNTTでした。
IBMが、日本側のリーダー格の候補として唐突に持ち出したのが、半導体製造装置メーカー、東京エレクトロンのトップを長く務めた東哲郎でした。東の頭の中に、日立半導体部門出身の小池淳義の名が思い浮かびました。
『その年の暮れ、小池を中心にして2ナノを日本に導入できるか検証するチームが、ひそかに立ち上がった(マウントフジプロジェクト)。』
『最先端の2ナノの半導体製造に挑む国策会社ラピダスが誕生し、北海道千歳市に急ピッチで工場建設が進む。先端半導体の開発競争からとっくに脱落していた日本が、なぜ復権を目指すのか。その舞台裏を探った。』

(けいざい+)ラピダス秘録:中 台湾に生産集中のリスク、日米重ねた議論
2024年5月1日 朝日新聞
『経済産業相の萩生田光一は2022年1月、初めて「最先端の次世代半導体について検討していきたい」と聞かされた。報告したのは商務情報政策局長の野原諭。萩生田は「TSMCを決めたばかりなのに、もう次の案件を持ってきたのか」と驚いた。台湾のTSMC誘致に巨額補助金を支出できるよう、前年暮れに5G促進法を改正したばかりだった。』
極秘裏にできた「マウントフジ」チームが米国から帰り、野原はリーダーの小池から「IBMの2ナノの先端半導体を日本でも出来そうです」と聞かされていました。
自民党の甘利明氏は、元経産相で半導体戦略推進議連会長を務めます。議連の事務局長の関吉弘衆院議員は「40ナノしか作っていない日本に、2ナノはジャンプしすぎだ」と思いました。
2022年5月、萩生田氏は訪米し、日米会談を行いました。この頃から「米国がフルサポートするなら大丈夫」(甘利)と、自民党内の懐疑的な見方が少しずつ沈静化していきました。
経産省の野原氏は、2ナノ導入にはオランダのASML社が生産する極端紫外線(EUV)露光装置の調達が不可欠と思っていました。萩生田氏と訪米した野原氏は、その足でオランダに飛びました。1台200億円で、2年待ちと言われる装置を、「商用なら2台以上入れた方が良い」と言われました。

(けいざい+)ラピダス秘録:下 異形ベンチャー「やるなら一気に最先端」
2024年5月2日 朝日新聞
『小池淳義は2022年春、もはや自分たちで新しい会社をつくるしかないと腹を決めていた。』
東芝など国内メーカーが相次いでIBMの技術の導入に尻込みしたうえ、「マウントフジチーム」に参集したメンバーの約半分が「20年遅れの我が国には無理」と脱落しましたが、残った仲間は手ごたえを感じていました。
東は、「ラピダス」を22年8月に設立。東、小池とマウントフジチームの12人が個人出資した上、経済産業省幹部も同行してお願いに回り、トヨタ自動車やNECなど8社も出資。後に1兆円近い政府資金が投入されてゆきます。
--連載記事以上-----------------

私は、このブログの過去記事「湯之上隆著「半導体有事」 2023-06-04」、「新会社ラピダスが2nm半導体を目指す 2022-12-24」において、ラピダスについて意見を述べてきました。
流れてくる情報からでは、新興企業であるラピダスが2nmロジック半導体の量産に成功するような匂いを感じることができませんでした。
今回の朝日新聞の特集記事を読みましたが、私の危惧を払拭してくれるような内容は見られませんでした。「米国IBMの開発成果は、2nm半導体の量産を成功させるレベルにどれだけ近づいているのか」「ラピダスは、米国IBMの開発成果をさらに向上し、2nm半導体の量産を実現させるだけの技術力を具備できるのか」といった疑問に、朝日新聞の記事は何ら踏み込んでいません。
1年前の情報では、2nm半導体を量産できるのは台湾のTSMCのみであり、韓国のサムスンもアメリカのインテルも成功していませんでした。TSMCが量産に成功する裏では、膨大な数の試運転を繰り返して最適製造条件を探索してきた実績があります。インテルは7nmでつまずいていました。日本メーカーは、ルネサスが自社生産するのは40nmまでであり、それよりも微細の半導体はTSMCなどに生産委託していました。
日本でのロジック半導体メーカーの最大手はルネサスなのに、なぜルネサスがラピダスに関与していないのか、の裏事情について、今回の朝日記事を読むと、「早々に尻込みして退出した」ということかも知れません。
このような状況下で、半導体生産の経験が皆無であるラピダスが、どのようにして2nm半導体の量産に成功し得るのか、道筋が全く見えません。

朝日新聞の記事から匂うのは、経産省幹部の前のめりの姿勢であり、「経産省はまた以前の失敗を繰り返すのか」との心配しか見えてきません。
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