弁理士の日々

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新会社ラピダスが2nm半導体を目指す

2022-12-24 16:30:44 | 歴史・社会
1ヶ月前、日本の半導体製造に関して新しい話題が流れました。
NECやトヨタら大手8社が結集--日の丸半導体企業「Rapidus」は日本の競争力を取り戻せるか
笠原一輝2022年11月23日 09時30分
『経済産業省(以下経産省)は11月11日、「次世代半導体の設計・製造基盤確立に向けた取組」として、日本政府が最新の半導体製造技術を開発する「技術研究組合最先端半導体技術センター(LSTC)」という新しい研究開発組織を発足すると発表した。その実行部隊となる製造企業としてキオクシア、ソニー、ソフトバンク、デンソー、トヨタ自動車、NEC、NTTなどが出資して設立した「Rapidus株式会社」(以下Rapidus)を選定したことを明らかにした。
今後LSTCで次世代の半導体製造技術の開発を行ない、Rapidusが実際に製造を担当することで、日本に最先端の半導体製造の環境を再び実現しようというのが狙いだ。
Rapidusにはキオクシア、ソニー、ソフトバンク、デンソー、トヨタ自動車、NEC、NTTが10億円ずつ、そして三菱UFJ銀行が3億円出資しており、最終的にはファブレスの半導体メーカーから委託されて半導体の受託生産を行う、つまりTSMCやSamsung、Intelという現在世界に3社しかない最先端プロセスノードで製造を行なうファウンドリになるというのがRapidusの目指すところになる。』

次世代半導体、5年後生産 国が700億円支援
2022/11/11 蕎麦谷 里志
『経済産業省は11日、トヨタ自動車やNTT、ソニーグループなど8社が出資する半導体新会社「Rapidus(ラピダス)」に対する700億円の補助金支給を決定、官民で次世代半導体の国産化を目指すと正式発表した。ラピダスの小池淳義社長は東京都内で記者会見し「5年後の2027(令和9)年に次世代半導体の生産を始める」と述べた。』

半導体は、「ロジック」「メモリー(DRAM、フラッシュ)」「パワー系」「映像系」に分類できます。TSMCはロジックですから、ラピダスはロジックが対象と思われます。一方、出資者は、キオクシア(フラッシュ)、ソニー(映像系)であり、デンソー、トヨタは半導体のユーザー、NECは過去の半導体メーカー(主にDRAM)です。日本でロジックを生産している主力会社はルネサスですが、なぜかラピダスにはルネサスの名前が見当たりません。

ルネサスは世界有数のロジック半導体メーカーですが、自社生産は40nmまでです。それよりも微細な半導体は、TSMCなどのファウンドリーに委託生産させています。なぜそうするかというと、それが最も低コストであり、そうしないとルネサスが倒産してしまうからです。ルネサスは、「40nmより微細なものは自社生産しない」という大方針で、国内にたくさんあった半導体工場を閉鎖・リストラし、結果として今日まで生き残ることができました。

20nmクラスのロジック品の国内生産については、TSMCが熊本に進出することで実現します。それにしても、数千億円の国からの補助金が前提です。

今回のラピダスは、その20nmも超え、一気に2nmロジックに挑戦しようと言うことですから驚きです。しかも、出資会社には、ロジックの生産技術を有している会社が入っていません。国からの補助金は700億円ということで、最先端品の開発と量産を目指すのであれば2桁少ない金額です。
私は、計画が成功しそうだという匂いを全く感じることができません。

と思っていたら、ラピダスが米国IBMから2nm技術を導入するとのニュースが流れました。
IBMとRapidus、パートナーシップを締結--2nm半導体技術をRapidusの国内製造拠点に導入へ
坂本純子 2022年12月13日 11時49分
『IBMとRapidusは12月13日、半導体の研究開発・製造におけるグローバルリーダーを目指す取り組みの一環として、ロジック・スケーリング技術の発展に向けた共同開発パートナーシップを締結したと発表した。
この取り組みは、数十年にわたって培われた、半導体の研究・設計におけるIBMの専門性を活用するものだ。IBMは、2021年に世界初の2nmノードのチップ開発技術を発表した。このチップは、現在の7nmチップに比べて45%の性能向上、または75%のエネルギー効率向上の達成が見込まれる。・・・
パートナーシップの一環として、Rapidusの研究者と技術者は、世界最先端の半導体研究拠点の1つであるニューヨーク州アルバニーのAlbany NanoTech Complexで、IBMおよび日本IBMの研究者と協働する。また、IBMの2nm世代技術ノード技術の開発を推進し、Rapidusの日本国内の製造拠点に導入する。この2nm半導体技術において市場をリードすることを目指すとともに、業界標準製品との互換性を持たせ、Rapidusは、2020年代後半に2nm技術の量産を開始を目指す。』

米国IBMが、2nm半導体技術を保有しているとは知りませんでした。
アメリカは、米国内で2nm半導体製造体制を確立するために、大金をはたいて台湾のTSMCを誘致し、工場を建設しようとしています。IBMが技術を有しているのなら、なぜIBMに補助金を出して工場を建設させないのでしょうか。

「IBM」「2nm」で検索すると、1年半前のニュースがヒットします。
IBMが2nm半導体プロセスの試作成功、研究トップに聞く「ムーアの法則」の将来
浅川 直輝 日経クロステック/日経コンピュータ 2021.05.13
『米IBMは2021年5月6日(米国時間)、2nm(ナノメートル)プロセスの半導体製造技術でテストチップの作成に成功したと発表した。「LSIの構築に必要な数千のマクロについて、性能や信頼性、欠陥密度を確かめた」と、IBMリサーチ ディレクターのDario Gil(ダリオ・ギル)氏は語る。
 現在主流の先端プロセスである7nmプロセスと比較して、チップの演算性能を45%高めるか、あるいは消費電力を75%削減できるという。「これまでスマートフォンを1日1回充電していたところ、4日に1回で済むようになる」(ギル氏)。早ければ2024年後半には2nmプロセスのチップを実用化できる見通しという。』

聞くところによると、米国IBMはしばらく前に半導体製造から撤退したそうです。研究だけは行っており、その中で2nmの技術が完成した、ということでしょうか。
そのニュースから1年半は何の話題にもならず、今回突然に日本のラピダスが、このIBMの開発技術と提携して2nm半導体の製造を開始する、というわけですか。
恐らく米IBMにおいても、量産化技術は手つかずと思います。日本のラピダスやその出資会社は、2nmどころか20nmの量産化技術も保有していません。
ラピダスが2nmの量産化で成功するためには、タイムリーに(台湾や米国のTSMCとほぼ同時期に)、リーズナブルな生産コストと生産量の量産化技術を完成する必要があります。
このような状況下で、国からは700億円しか援助を受けずに、新規会社ラピダスが2nmの競争で勝ち抜ける気がしません。

2nmではなく20nmですが、以下のニュースが流れました。
TSMC、欧州生産進出 ドイツに半導体工場検討
2022/12/24付日本経済新聞 朝刊
『【台北=鄭婷方、ロンドン=黎子荷】半導体世界大手の台湾積体電路製造(TSMC)が、欧州初となる工場をドイツに建設する方向で最終調整に入ったことが、23日分かった。年明けに経営幹部が現地入りし、地元政府による支援内容などについて最終協議する。早ければ2024年に工場建設を始める。投資額は数十億ドルに達する見通しだ。
TSMCが予定する生産品目は、主にスマートフォンなどに搭載される「先端品」ではなく、「成熟品」といわれる「22~28ナノ品」になる見通し。自動車や家電製品などへの採用が想定される。』
上記によれば、欧州に建設されるTSMC工場は、熊本と同じような製品を製造することになります。「需要の最も多い製品であって、台湾有事を懸念しての経済安保の観点から、地元に生産拠点が必要」とのスタンスに立てば、熊本も欧州も同じ結論に達する、ということでしょう。実際に建設が実現するためには、熊本と同様、欧州がどれだけの補助金を用意するかによります。
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