弁理士の日々

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WiLL「田母神論文、どこが悪い!」

2008-12-15 20:21:38 | 歴史・社会
例の田母神論文は、アパグループ「真の近現代史観」懸賞論文において最優秀藤誠志賞を受賞しました。審査委員長は渡部昇一氏です。渡部氏がなぜ田母神論文を最優秀賞に選出したのか、私はこちらに疑問を書きました。
WiLL (マンスリーウィル) 2009年 01月号 [雑誌]

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WiLL1月号は総力特集「田母神論文、どこが悪い!」とあります。目次を見ると、渡部昇一氏も何やら寄稿しているようです。私は今までWiLL誌を買ったことがありませんでしたが、今回は購入して読んでみるしかありません。

以下のような寄稿記事が並んでいます。
中西輝政・京都大学教授「田母神論文の歴史的意義」
渡部昇一・上智大学名誉教授「『村山談話』は『外務相談話』だ」
西村眞吾・衆議院議員「『村山談話』こそ更迭せよ!」
西尾幹二・評論家「何に怯えて『正論』を封じたか」

読んでみましたが、どれもこれも、正面から論評しようという気が起こらないものばかりです。
何でなのか。
まず、田母神論文の表題である「日本は侵略国家であったのか」という命題に対し、日中戦争から太平洋戦争にかけて、日本軍が現地でいかなる行動を取っていたのか、という点については、上記どの寄稿文も、一切口をつぐんでいることです。

私の記事「田母神論文」でまず取り上げたのは、
《日本は中国・朝鮮を侵略しなかったといえるか》
日本政府に侵略の意図がなかったことについては私も了解します。ところが、現地に派遣された日本軍が、「これを侵略といわなくて何が侵略なんだ」といっていいような残虐な行為を広範に行ってしまったのでした。この一点のみをとって、「あの戦争は侵略戦争ではなかった」とは決していえないと考えています。---
という点です。

この点を抜きにして、日本軍が戦争中に侵略的であったか否かを論じることはできません。
この点を論じていない論文に関しては、「一体あなたは、この点についてどう考えているのか」と問いただして意見を聞いてからでないと、こちらも反論のしようがないではないか、といか言えません。

次に、どの寄稿文も、田母神論文を擁護しているようでありながら、実態は、対立陣営である秦郁彦氏に対する攻撃にすり替わってしまっていることです。
どうも、中西輝政・渡部昇一陣営と、秦郁彦陣営とは、犬猿の仲となっているようですね。田母神論文をそっちのけにして、相手陣営の発言に対する揚げ足取りに終始している、そのような印象を受けました。

また、田母神論文を批判する相手に対しては、すぐに「東京裁判史観」だとか「自虐史観」だとかいったレッテルを貼って済ませようとするところがあります。
先日、真珠湾攻撃に関して、秦郁彦編集の「検証・真珠湾の謎と真実―ルーズベルトは知っていたか」を読み、こちらでも記事にしました。この本の中では、「ルーズベルト大統領は真珠湾攻撃を事前に知っていたのではないか」と論ずる人たちを「修正主義(リビジョニズム)」として切り捨てようとしています。両陣営とも、本当にどっちもどっちですね。自分の主張に反対する主張に対しては「レッテル」を張って糾弾し、正面からの論争を避けようとしています。

月刊誌に著者としてよく顔を出す常連の人たちが、こんなことでは困るではないですか。


そうそう、私が「WiLL」を購入したのは、渡部昇一氏が一体どうなっているのかを確認するのが目的でした。
渡部氏の「『村山談話』は『外務相談話』だ」の内容はというと・・・
まず、渡部氏が審査委員長として今回の懸賞論文を評価した経緯が述べられます。
次いで、論文の評価については、渡部氏の意見ではなく、小堀桂一郎氏が産経新聞で述べたという田母神賛成意見を紹介し、「私は、小堀氏のこの評価で十分だと思います」としています。
さらに、週刊新潮の秦郁彦氏のコメントを挙げ、「最近の秦氏は問題だ」という投げかけです。
結局、ここまでの4ページ、田母神論文の中身について渡部氏自身の見解は出てきません。
ここから後の7ページは、「村山談話」に対する渡部氏の意見が続き、寄稿文はそれで終わります。
つまり、田母神論文に対して私が感じている違和感について、渡部氏の文章はかすりもしていないのです。


以上のとおり、雑誌「WiLL」の特集内容は、私にとって不完全燃焼に終わりました。報告だけしておきます。
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