弁理士の日々

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丸島儀一「知財、この人にきく 」

2008-12-17 19:25:57 | 知的財産権
知財、この人にきく (Vol.1)
丸島 儀一
発明協会

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月刊誌「発明」による企画で、富岡康充氏がインタビューする形で、丸島義一氏が語った内容を本にしたものです。

丸島さんは、キャノンがまだ単なるカメラメーカーだった頃に入社して特許に配属され、キャノンの成長とともにその知財部門を支え、全体を統括した人です。その丸島さんがご自分の経験に即して語られています。
私は、企業知財部門の経験がそれほど長くないので、丸島さんがこの本の中で語る内容は、企業における知財活動のあり方を教えてくれる良き教材となりました。
以下に印象に残った部分を控えておき、今後の役に立てようと思います。


《知財は知的創造サイクルの中核》
会社が事業部やカンパニーに別れている場合であっても、全社的な戦略が絶対に必要。カンパニーのことしか知らない人が、にわか勉強で交渉に行ったとしても、にわか勉強ほど交渉において弱いものはない。
普段から相手の弱み(自社特許の侵害事実など)をつかまえておき、それを蓄積し、いざというときに自分の弱み(他社特許の侵害事実など)を消すために活用する。それが事業を強くするということであって、相手の弱みにすぐ付け込んでお金だけ稼いでこいというのでは、事業の強みにはならない。

《中小企業の強み》
中小企業は、小さいからみんな大会社にやられると思ってしまう。なぜやられてしまうのかを考えると、本質的なところをちゃんと理解してそれを守ろうとしないから。
中小企業でいい技術を持っていながら負ける、とられてしまう、と思っている人は、知財の本質への理解と智恵が足りないといわざるを得ない。
大企業の場合、大きな事業を抱えているので、訴訟で解決するという戦略を採った場合、ひとたび負けたときの被害が大きい。しかも訴訟ほど予見性がないものはない。
だから、知財面では事業が大きいというのは弱いのです。

《交渉力と契約力》
普通の知財の交渉というのは、相手の狙っているものがわからない。そして、自分の狙っているものも相手に判らせてはいけない。ところが、交渉テクニックがまずいと、狙っているものが相手に判ってしまう。
契約力と交渉力が大事。
会社によっては、交渉は知財がやって、契約は別の部署がやるという場合がある。こういう会社との交渉だったら「しめた!」と思う。交渉で負けても契約で挽回できるから。だから、交渉と契約というのは、連繋していないとダメ。
知財部門というのは、権利化業務だけではなくて、契約、交渉まで一緒にやった方がいいと思う。

《戦略的クロスライセンス》
周辺技術の変化、すなわち半導体とソフトウェアによって状況がガラッと変わった。この2つを組み合わせることによって、それまではメカでできなかったことがやたらにできるようになった。
この辺の理解が、契約の善し悪しに影響する。例えば、商品のトレンドを見て許諾製品の定義をつくるという場合、見通しができる人、わかっている人かどうかで、契約の善し悪しが決まってしまう。先を読んで許諾製品の定義のしかたが変わる。ここができているか否かで契約の善し悪しがもろに出る。
包括的クロスライセンスにおいては、競争力のある技術はクロスから外す。
訴訟をやるのは、お金を取るときではなく、自分がライセンスしてはいけない技術を侵害されたとき。
私は、お金で解決するのだったらほとんど訴訟しないで、みんな交渉でもらってきましたよ。

《ノウハウ化による技術保護》
特許化せずにノウハウとして守るというが、本当に守りきれるか。
いま、元従業員に対して企業はほとんど無防備である。在籍中に正当に入手した技術を、辞めた後に使うことは一切抑えられない。
社内管理を徹底してやった場合には、開発の効率が下がってしまう。
ノウハウを開示しなくても特許は取れる。本当にほしいノウハウは明細書に書かないで、それを権利として抑えるような出願のしかたもある。
米国で訴訟を起こされた場合、ディスカバリーで技術開示が求められ、すべて分かってしまう。
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