大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2019年03月07日 | 植物

<2618> 大和の花 (740) アセビ (馬酔木)                                          ツツジ科 アセビ属

       

 水はけのよい乾燥した山地などに生える常緑低木で、高さは3、4メートルになる。樹皮は灰褐色で、縦に裂け目が入り、幹は少しねじれる。新枝は緑色で、稜がある。葉は長さが3センチから8センチの広倒披針形乃至は長楕円形で、先は鋭く尖り、基部は狭いくさび形。上半部に浅く細かな鋸歯があり、質は革質。表面は濃緑色で、光沢があり、裏面は淡緑色。ごく短い柄を有し、枝先に集まって互生する。

 花期は3月から5月ごろであるが、秋には花芽をつけ、2月の中ごろに花を見せるものもある。枝先の葉腋から長さが10センチから15センチの円錐花序を垂れ、先が浅く5裂する白い壷形の花を多数下向きにつける。花冠の長さは7ミリ前後で、雄しべは10個、葯には刺状の突起が2個ある。蒴果の実は直径数ミリの扁球形で、秋になると褐色に熟して裂開する。

 学名はPieris japonicaで、Pierisはギリシャ神話の詩の女神ピーエリス。本州の山形県、宮城県以南、四国、九州に分布し、国外では中国と台湾に見られるという。大和(奈良県)では各地に見られ、垂直分布の幅も広く、山歩きをすれば普通に見られる。アセビ(馬酔木)の名はアセボトキシン(グラヤノトキシンⅠ)などの有毒物質を含み、馬が食べて酔ったようになることによると言われる。古くはアシビと呼ばれ、足痺れから来ているとの説もある。『万葉集』にはアシビ(馬酔木・安之婢)で10首に見える万葉植物で、アセビは当時から馴染みの木だった。

 殊にシカクワズ(鹿食わず)の異名でも知られるように、シカが食べないので、春日大社の神鹿とされ国の天然記念物に指定されているシカの多い奈良公園やその周辺にアセビが多く見られのはこのためと言われる。なお、有毒植物の効能で、葉は煎じて殺虫剤に用いられる。

 写真は左からシカと写る奈良公園の個体、鈴なりの花、花芽のついた枝木、若い実。 奈良にては春を呼ぶ花馬酔木咲く

<2619> 大和の花 (741) ネジキ (捩木)                                              ツツジ科 ネジキ属

                  

 日当たりのよい丘陵から山地の乾燥気味なところに生える落葉低木乃至は小高木で、高さは4メートルから9メートルほどになる。樹皮は褐色のものと灰色がかった黒褐色のものがあり、縦に裂けて薄く剥がれ、成長に従って幹がねじれて来るのでこの名がある。若い枝は赤褐色または黄緑色で、光沢があり、美しく、冬芽をつけた枝は花材にされる。因みに、大和地方にはオジコロシという奇妙で恐ろしい地方名がある。

 葉は長さが5センチから10センチほどの広楕円形乃至広卵形で、先が尖り、基部はやや心形になり、縁には鋸歯がない。葉柄は数ミリから1センチほどで、互生し、秋には黄葉する。花期は5月から7月ごろで、前年枝の葉腋から長さが7センチ前後の総状花序をほぼ水平に出し、白い花を多数下向きにつける。花冠は長さが1センチ弱の壷形で、雄しべは10個。蒴果の実は直径3、4ミリの扁平な球形で、上向きにつく。秋に熟し、褐色になって裂開する。

 本州の山形県、岩手県以南、四国、九州に分布し、国外では台湾と中国に見られるという。大和(奈良県)では全域に分布し、垂直分布の幅も広い。特に二次林下や林縁に多く、普通に見られる。アセビと同じく有毒植物で、ヤギが葉を食べて死に至った例があるという。材は赤褐色を帯び、緻密で、櫛や細工物に利用され、木炭は漆器の研磨に用いられるという。

 写真はネジキ。左から枝木いっぱいに花をつけた個体、ほぼ水平に伸びて花をつけた花序、黄葉の下で上向きにつく実、ねじれた幹(矢田丘陵ほか)。  由来譚何処にもあり或るはその生きゐるものの定めのやうに

<2620> 大和の花 (742) イワナンテン (岩南天)                                ツツジ科 イワナンテン属

               

 日があまり当たらないような山地の岩場などに生える常緑低木で、枝が30センチから1.5メートルほどに垂れ下がる。葉は長さが4センチから10センチほどの狭卵形または広披針形で、先が尾状に鋭く尖り、基部は広いさび形。縁は裏面に巻き、浅い鋸歯がある。質は革質で厚く、表面は濃緑色で光沢がある。

 花期は6月から7月ごろで、葉腋から白い筒形の花が1個から7個下向きに垂れ下がって咲く。花冠は長さが2センチ弱で、先が浅く5裂して反る。雄しべは10個。葯の先には糸状の突起が4個ある。蒴果の実は直径7、8ミリの扁球形で、上向きにつき、先に花柱が残る。

 イワナンテン(岩南天)の名は、岩場に生え、葉の形状がナンテンの葉に似ることによる。別名イワツバキ(岩椿)。この名は白ツバキに擬えたか。本州の関東地方南部(秩父山地など)、中部地方、紀伊半島に分布を限る日本の固有種で、大和(奈良県)では吉野川より南側に片寄って分布し、十津川村の平地に近い辺りから大峰山脈の標高1700メートル付近の岩崖まで見られ、垂直分布の幅は広い。 写真はイワナンテン(十津川村桑畑)。 生きものはこの世に生を与へられ生きゐるそれはさまざまにして

<2621> 大和の花 (743) ハナヒリノキ (嚏木)                                      ツツジ科 イワナンテン属

             

 深山、山岳の疎林内や岩場などに生える落葉低木で、高さは50センチから1.3メートルほどになり、よく分枝して繁る。葉は長さが3センチから10センチの楕円形もしくは卵状長楕円形で、先は尖り、基部はややくさび形。縁には内側に曲がった細かい鋸歯が見られる。質はやや厚い。表面は濃緑色で、脈が裏面に突出する。葉柄はごく短く、互生する。

 花期は6月から7月ごろで、新枝の先に長さが5センチから15センチの総状花序を出し、淡緑色の花を連ねるようにつける。写真の花は変種か、環境による変異の現われかはっきりしない。花冠は長さが数ミリの壷形で先が浅く5裂し、裂片は反る。雄しべは10個。葯は褐色。花は花序の基部から順に開く。蒴果の実は直径数ミリの扁球形で、上向きにつき先に花柱が残り、秋になると褐色に熟し裂開する。

 ハナヒリは嚏(くしゃみ)のことで、クシャミノキの異名でも知られる。これは葉の粉が鼻に入ると激しいくしゃみに襲われるからという。ツツジ科に特徴的な有毒植物で、昔は葉を粉にしてうじ虫を殺したり、家畜の駆虫剤に用いられて来た。北海道、本州(東北地方から近畿地方まで)に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)では大峰山脈や台高山脈の高所においてわずかばかり自生し、大峰山脈の自生地は分布の南限と見られ、奈良県のレッドデータブックには希少種にあげられている。 写真左は花期(花には赤みがある)。右2枚は果期(山上ヶ岳山頂と稲村ヶ岳のレンゲ辻)。  生まれ出でたりけるからは誰もみな死がある人生死までの間

 

 

 


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