大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2019年06月20日 | 植物

<2723> 大和の花 (825) ハスノハイチゴ (蓮の葉苺)                                        バラ科 キイチゴ属

          

 深山の冷温帯域から寒温帯域の明るい林下に自生する落葉低木で、高さは大きいもので1.5メートルほどになる。枝は粉白色を帯び、無毛で、まばらに刺がある。葉は長さが10センチから25センチほどの5角形で、3から5浅裂し、裂片の先は尖り、縁には不揃いの鋸歯がある。葉柄は8センチから10センチと長く、刺が生え、ハスのように楯状について互生する。ハスノハイチゴ(蓮の葉苺)の名はこのハスに似る葉による。ハスイチゴ(蓮苺)の別名の由来も同様である。托葉は長さが1センチほどの広卵形で、赤味を帯びる。

 花期は6月ごろで、枝先の葉腋に白い5弁花を1花下向きにつける。花弁は円形に近く、ほぼ平開する。集合果の実は長さが3、4センチの円柱形で、8月から9月ごろ白く熟し、一面に褐色の毛が生える。実は垂れ下がり、果期にも残る萼片が笠のように見える。

 本州の中部地方以西、四国、九州に分布し、国外では中国に見られるという。大和では紀伊山地の高所に自生地が限られ、奈良県のレッドデータブックには希少種、環境省でも準絶滅危惧植物としてあげられている。西大台、山上ヶ岳、稲村ヶ岳、八経ヶ岳の高所で見ているが、いずれも個体数が極めて少なく、シカの食害が影響しているのではないかと言われ、保護対策が施されているところも見られる。 写真はハスノハイチゴ。花(八経ヶ岳)と実(稲村ヶ岳)。  個を抱き生はあるなり花もまた はすのはいちごの花は下向き

<2724> 大和の花 (826) コジキイチゴ (乞食苺 )                  バラ科 キイチゴ属 

                                

 山野の日当たりのよいところに生える落葉低木で、高さは1、2メートルになる。幹や枝には腺毛が密生し、刺がまばらにある。葉は花のつかない若い枝では長さが10センチから20センチの奇数羽状複葉で、小葉が3個から9個つく。小葉は長さが4センチから8センチの長卵形乃至広披針形で、先が細く尖り、縁には不揃いの鋸歯が見られる。花のつく枝の葉は小形で、3小葉となる。

 花期は5月から6月ごろで、枝先に直径2センチほどの白い5弁花を横向きに開く。幹や枝と同じく萼や花柄にも長い腺毛が密生する。花弁は細身で萼片が花弁よりも長い。集合果の実は長さが1.5センチほどの弾丸形で、7月ごろに橙赤色に熟し、食べられる。コジキイチゴ(乞食苺)の名は実が甑(こしき)に似て、このこしきがコジキに転訛したとする説があるが、私には幹や枝に長い腺毛が密生するのを乞食が纏うぼろ切れと見立てたのではないかと想像される。

 本州の東海地方以西、四国、九州に分布し、朝鮮半島の南部、中国、台湾に見られるという。大和(奈良県)では北部地域の山野に点在的に見られ、個体数が少なく、案外出会えないキイチゴの仲間である。 写真はコジキイチゴ。花と若い実(左)、朱赤色に熟した実(中)、長い腺毛が密生し、鋭い刺がまばらに見られる茎(右)。  時に身を置く身過ぎ行く日月の間における生の身のほど

<2725> 大和の花 (827) フユイチゴ (冬苺)                                       バラ科 キイチゴ属

                   

 山野の林縁や道端などに生えるつる性の常緑小低木で、地を這うように広がり群落をつくることが多い。茎や枝には褐色の曲がった毛が密生する。ミヤマフユイチゴ(深山冬苺)によく似るが、ミヤマの方は毛がないか、短毛の違いがあり、褐色の毛の多少によって判別出来る。葉は長さ幅とも5センチから10センチほどの心形で、縁には歯牙状の鋸歯が見られ、裏面の脈上や葉柄に茎や枝と同じような短毛が密生し、互生する。

 花期は9月から10月ごろで、枝先や葉腋に白い5弁花を5個から10個つけて順次咲く。花弁は長さが7、8ミリで、萼片とほぼ同長。萼の外面や花柄には淡褐色の短毛が密生する。雄しべより雌しべの方が長いのでこの点でも判別出来る。集合果の実は直径1センチほどの球形で、11月以降に赤く熟し、食べられる。

 本州の関東地方南部、新潟県以西、四国、九州に分布し、朝鮮半島南部、中国、台湾に見られるという。大和(奈良県)ではほぼ全域で普通。 写真はフユイチゴ。赤く熟した実(矢田丘陵)と萼や葉柄に毛が多い。花は未撮影。

  実は成果艶やかなるは充実の証たとへば冬苺の実 

 

<2726> 大和の花 (828) ミヤマフユイチゴ (深山冬苺)                                  バラ科 キイチゴ属

                     

 山地の林下や林縁に生えるつる性の常緑小低木で、フユイチゴ(冬苺)に酷似し、混生することもあって紛らわしい。その名にミヤマ(深山)とあるが、深山に生えるわけではなく、暖温帯域にやや普通に見られる。葉は卵形または広卵形で、枝や葉柄にフユイチゴほど毛がなく、判別出来る。

 花期は9月から10月ごろで、枝先や葉腋に白い5弁花を数個つける。花弁は長さが数ミリの倒卵形で、萼片より短く、萼の外面にほとんど毛がないので、フユイチゴとの判別点になる。集合果の実は直径7、8ミリで、冬に赤く熟し、食べられる。実もフユイチゴに似るが、全体に小粒で、萼片等に毛がほとんどないので見分けられる。

 本州の関東地方以西、四国、九州に分布し、国外では中国に見られるという。大和(奈良県)では暖温帯域のほぼ全域的に見られるが、フユイチゴほどではないという報告がある。名については、ミヤマフユイチゴ(深山冬苺)よりケナシフユイチゴ(毛無冬苺)とでもした方がその特質から見てよいように思われる。  写真はミヤマフユイチゴ。葉の下に隠れるように花をつける花期の姿(左・金剛山)、花のアップ(中-鳥見山)、果期の姿(右・松尾山)。 生の身は生きるに知恵を働かす冬に色づく冬苺の実

<2727> 大和の花 (829) コバノフユイチゴ (木葉冬苺)                                  バラ科 キイチゴ属

           

 山地の冷温帯域から暖温帯域に生える匍匐性の常緑小低木で、地を這うように広がり群落をつくる。茎や枝には白い毛と上向きの刺が見られる。葉は長さが3センチから8センチほどの円形に近く、縁には鈍鋸歯が見られ、葉質に縮れた感じがあり、先は尖らず、全体的にまるいので、マルバフユイチゴ(丸葉冬苺)の別名を有する。コバノフユイチゴ(小葉冬苺)の名は、フユイチゴやミヤマフユイチゴより葉が小さいことによる。

 花期は5月から7月ごろで、枝先に直径2センチほどの白い5弁の1花を上向きに咲かせる。萼片は狹卵形で先が細く尖り、縁には細かい切れ込みがある。また、萼には外面に刺状の毛がある。集合果の実は直径1センチほどの球形で、8月から9月ごろ赤く熟す。

 本州、四国、九州に分布し、国外では台湾やフィリピンに見られるという。大和(奈良県)では金剛山の山頂付近と紀伊山地で見かける。垂直分布の幅は広いが、自生地は局所的で、フユイチゴやミヤマフユイチゴのように容易には出会えないところがある。 写真はコバノフユイチゴ(金剛山ほか)。花期の姿(左)、花のアップ(中)、赤く熟した集合果(右)。 

  夏至過ぎて思ふあれこれしかすがに歩むは勤め道の中ほど

 

 


最新の画像もっと見る

コメントを投稿