『博士号のとり方』より 博士論文を書く 何を書くか いつ書くか どう書くか
本腰を入れる
EMPは、科学専攻の学生の多くは論文を執筆する作業より、研究ノートに現在までの進捗状況を記入することを含む実験作業の方を好むことを明らかにした。論文の執筆は夜、週末、休日があてがわれるという。そのような学生は次のようなことを言う。
時間がかかったとしても、実験を繰り返すような無心になってできるものであれば、作業としては好きだ。でも、その作業がイントロダクションや結論を書くように難しいものであれば、好きではない。
決められた時間を実験室でブラブラと過ごす方がいい。その方が精神的に楽だ。
書くことは「本当の仕事」ではなく、常に二番目にしか考えられないため、なかなか求められる時期に開始されない。ある学生は言う。「わずかな時間の隙間があるときに少しずつ書くんだ。でもいつもうまくいかずに書いたものを破棄してしまう」。
「後回し」と「一貫性のなさ」は忙しい現代においてよくあることで、指導教員が学生の執筆を見張るようになるまで、他の援助は期待できない。実際、多くの学生が最終年まで論文の執筆作業に入らない傾向があるが、これは本当に避けた方がよい。
では、あなたの場合はどうだろう。執筆活動を始めることに問題を感じているだろうか。インスピレーションがわくのを待っていたりしていないだろうか。どちらかといえばデータの見直しなど、ほかのことをしたいと感じていないだろうか。もちろんメールやツイッターの確認もしたいと思うだろう。チュートリアルの準備もあったかな。買い物もしなきや。はたまた部屋でも片付けるか。このように考える傾向はすべての新米著者に共通している。しかし、トロロープのように、書く者は書く時間を決めて確固として譲らない。その時間がくれば深呼吸をし、歯を食いしばり、書くのだ。あなたにもできることだ。
このような訓練をしてみるとよい。つまり、アントニー・トロロープは一五分ごとに二五〇語書くようペースを調整した。彼は線引きされた紙を使い、その紙の場合一枚当たり手書きで二五〇語書けることを計算した。パソコンを使う現代の私たちは、文字数などはすぐに分かる。初心者の場合、無理をせず、二〇分で二百語相当〔日本語で五百文字弱くらい〕を目標とし、その文章の冒頭を「この研究の目的は、」とすること。今すぐに書くのではなく、書く時間を今決めること。早朝でなくてもよい。自分の状況と勉学のパターンなど赤ら最適な時間を選ぶこと。ただし、一度決めたその時間は守り、邪魔が入らないようにすること。
さて、結果はどうだっただろうか。時間を決めて、その時間に他の邪魔が入らないようにし、執筆に専念することができたであろうか。もしできたならば、それはトロロープの歩んだ道へと一歩足を踏み入れたことを意味する。多くの人が発見するように、あなたもインスピレーションというものは「書き始めてから」くるものだということを学んだだろうか。書き終わったら、その草稿を数人の同輩に見せ、反応を得るとよい。分かりやすい文章になっていたか。言いたいことをどの程度理解してもらえたであろうか。必要に応じて改善をし、次に指導教員に見せる。
人によっては社会的プレッシャーがある方が、一人マイペースで書くプロセスよりもうまくいくと感じるだろう。例えば、ケント大学の学生は「黙って書け」グループなるものを形成している。会合があるたびにそれぞれが手短かに何を書くかを説明する。これにより公的なコミットメントとなり、実際にそれを書く可能性が高くなるのだ。そして残りの時間をすべて黙って個別に書くことに費やすのである。そのセッションが終わる前にまた数分かけて自分が何を達成できたかをグループで分かちあう。もちろんこれは自分の部屋や図書館でもできる。しかし、決まった時間に決まった場所にいるために、他の人と同じ活動をすることが社会的プレッシャーになり、集中して書くためのモチベーションになる。
リライトの過程としてのライティング
博士論文は審査されるので、論文執筆は何年もかけた研究の結果を単に報告する以上のものでなければならない。書くという作業は書き手に考えさせるので、研究結果を文章化する段になると別の方法が浮かんできて、学生は非常に苦しい思いをする。書くことが発見につながり、そしてよくいわれるように、発見とは単に書きとればよいというものではない。そう考えれば、書くことが論文作成で最も難しい作業であるのは簡単に分かる。
ある学生は言った。「書く段になるまで何を言うかなんて、もちろん完全に分かるわけではない。実際に書いてみるまで、自分の解釈が完全に誤りであったことに気づかなかった。ポイントになるべきことが表現できていない。だから該当する全部の部分を書き直そうと思ったんだ」。
もし、自分が書いたものをあたかも他人が書いたもののように読むことができれば、自身の不正確で雑な文章を簡単に批判できる。自身と自分の書いたものの間に「距離」を置く方法は、書いたものを二、三日机の脇に置いた後、初めて手に取るような気持ちで読んでみることだ。そうした時間がない場合は、他のやり方をとらなければならない。つまり、友達に電話したり会いに行ったりして、「間」を置いた後に読んでみる。こうした心理的な「スイッチ」の切り替えは「距離」を置くのに役立つ。もう一つのやり方としては、書いたものを声に出して読んでみることだ。書いたものを耳で聞くと「言いたかったこと」と「(実際に)言ったこと」の違いに気づくだろう。コンピュータ科学を学んでいた学生のライナは自分の書いた論文を猫に読み聞かせた。役に立つような学術的なフィードバックを猫がしてくれたかどうかは定かではないが、少なくとも誰もいない部屋で声を出して読む気恥ずかしさからは守ってくれた。同様に、「読み」を録音して、後で間いてみるのも効果的だ。
ラグとピーターは一四かそれ以上の活動項目を含む、博士論文執筆の概観を提示した。書き直しは執筆作業のなかで重要な要素であり、初期の草稿と、意味の定義を精査して書き改めた原稿とを見比べることは良い勉強になる。コンピュータはこの書き直しの作業を何度であれ実に容易にしてくれる。書き直しの最終版は博士論文、あるいはその一部を形成する学術誌の文献となる。この執筆活動のプロセスについてはムレイに詳しく書いてあり、良い参考となる。
執筆者のタイプの違い
誰しもが同じやり方で執筆をするわけではない。論文の書き方を学ぶ方法が少なかとも二種類あるように、執筆者のタイプも同様に二種類に分けられる。学校では最初に構想を練ってから書き始めるよう教えられるが、世の中、計画的な人間ばかりではない。「とにかくやってしまえ」タイプの人も少なからずいる。まず、言いたいことを最も適切な方法で言うことは、そもそも簡単なことではない。よって、段階的なアプローチをとることが賢明である。
連載をもつライター、つまり「シリアリスト」は、ライティングを逐次処理的なものとして捉え、言葉を書きながら訂正を加えていく。そのようなライターは実際に書き始める前に何を書くか綿密な計画を立てる。「シリアリスト」の執筆アプローチを例に挙げる。
今、難しく感じているのは内容をどういう文体、表現で書き、そしてその流れをどうするかということだ。文章を書いているとき、自分の文体は良いと感じるし、書き手としても悪くないと感じる。でも筆の進みがとても遅いんだ。
そのような「シリアリスト」の書き方の一つに、多くの箇条書きと形成中の考えをまとめた書類を作るという方法がある。それらを徐々に肉付けし、文章を書き出していく方法をとるのだ。もしあなたもこのような書き方をするタイプなら、様々なフォントや色を使い分け、原稿のどの部分が完成したか、どこが未完成なのかを強調することが役立つかもしれない。それと比べ、「全体主義者」は書く際に一定の長さの完結した文章を書くことしか考えられない。
私は手書きで完全な最初の草稿を書いた。書きながら少しずつ書き足していき、書き終えたときにはそれがかなりの分量になって、まるで紙の上の「第三次世界大戦」の様相を呈していた。興味がわけば朝は八時半、九時半くらいから夜遅くまで書き続ける。思い立ってから書き終えるまでの時間は短い方がよい物が書ける。
「シリアリスト」は文章を書くことにおいて、「全体主義者」と全く異なる点を強調していることがうかがえる。
執筆の際の実用面について
学生によってはパソコンに直接打ち込みながら書くことを好む者もいる。また他の者は手書きでメモをとったり、かなり綿密な草稿を書いたりする者もいる。最善の方法というものはない。自分にあったやり方は実験的に試していくしかない。
ほとんどの分野ではマイクロソフト社のワードなど市販されているソフトを使って論文が書き上げられる。しかし、理系の特定分野においては LaTeX(ラテックス)システムが標準となっている。それは数学的な表記の多い複雑な文書を作成することが可能だからである。もしこれがあなたの分野における標準である場合、ほとんどの大学において使い方を教えてくれる短いコースがあるため、そのようなコースに登録し、使い方を学ぶよう勧める。きっと役に立つだろう。
私たちはみなパソコンのスペルチェッカーに慣れているはずであるが、文法の校閲機能もある。ただし、文法の校閲機能の性能はまちまちである。グラマーチェッカー(文法校閲機能)は一部の学術的文献をなかなかうまく扱えていないのが実態である。例えば、ある文章を受動態で書き直すようにいってくる場合がある。ただし、科学系の論文の文体としてそれは良くないアドバイスであることが多々ある。そうだとしても、特に英語が母国語でない学生や執筆に慣れていない学生にとっては何らかの基本的なフィードバックとして役に立つことは間違いない。
また、多くの参考書(もしくはそのオンライン版)も有用である。辞書も言葉がもつ微妙な意味の違いを調べることに役立つほか、文脈のなかでそれがどのように使われているのかを見つけることにも役立つ。多くの大学では例えば Oxford English Dictionary のような主要な辞書のオンライン版へのアクセス権を有している。また、他の本(例えば Gowers' Plain Words や Fowler's Modern English Usage )は言葉の細かいニュアンスなどについてガイダンスを与えてくれる。また Roget のシソーラスは言葉の同義語や類義語を集めその状況に妾った適切な言葉を見つける上で役立つ。その他にも質の高いオンライン辞書などもある。
書誌管理ツールでは RefWorks や BibTeX が有用であり、自分の集めた論文や本などのデータベースを構築でき、必要なときに自動的に必要な書式にあわせて参考文献をリスト化できるだけでなく、論文の本文から参考文献の書誌情報に連携できるということもあり、大変実用的である。博士論文など長編の文献を作成する際は、このようなシステムを使うことでかなりの時間と労力の節約になる。
ライティング工程サイクル
「ライティング工程サイクル」とは書く作業に体系的にアプローチする方法である。その工程にはいくつかのステップがある。
・要点を書き出すこと(もし「全体主義者」であるなら順番を問わず書き記すこと。「シリアリスト」の場合は順番を付けて書くこと。あるいはマインドマップのように要点をページ全体に分散するように書いた上で関連した要点などを線でつなげるのもょい)。書き出すときに思い立ったことをすべて書き込み、大まかな計画を立てること。もちろんその計画に常に従う必要はない
・おおまかな構成をし、それができて初めて先に書いた要点を文法と文章のバランスを考慮した段落としてまとめること
・執筆の量とそれを達成する日付に関する目標を立てること
・一週間に二時間から五時間を執筆に費やす計画を立てること。毎週初めにその時間をいつにするのかを決めて、トロロープのようにその時間を守り、邪魔が入らないようにすること
・執筆のための静かな落ち着ける場所を探し、できれば執筆には同じ場所を使うこと
・書いたものを読み直し、校閲すること
・初期の草稿は指導教員に見せる前に同輩や友達にコメントしてもらうこと
・同輩からのフィードバックをもとに「改訂を加える」こと
・「さらなるフィードパック」を指導教員から得ること
・「フィードバックを受け入れ」改訂をするか考え直すこと
フィードバックは執筆する過程において重要な要素である。同期生などの同僚にこのようにフィードバックを求めると、必然的に彼らからも同じことが求められ、フィードバックを返してあげる必要が生じる。よって、どのようにすれば効果的にフィードバックを返せるかを意識するのも重要である。フィードバックを返すときの基本などについては、指導教員向けに書かれている第12章に記載しているが、あなたにも非常に関わる内容でもあるため、役立つだろう。
本腰を入れる
EMPは、科学専攻の学生の多くは論文を執筆する作業より、研究ノートに現在までの進捗状況を記入することを含む実験作業の方を好むことを明らかにした。論文の執筆は夜、週末、休日があてがわれるという。そのような学生は次のようなことを言う。
時間がかかったとしても、実験を繰り返すような無心になってできるものであれば、作業としては好きだ。でも、その作業がイントロダクションや結論を書くように難しいものであれば、好きではない。
決められた時間を実験室でブラブラと過ごす方がいい。その方が精神的に楽だ。
書くことは「本当の仕事」ではなく、常に二番目にしか考えられないため、なかなか求められる時期に開始されない。ある学生は言う。「わずかな時間の隙間があるときに少しずつ書くんだ。でもいつもうまくいかずに書いたものを破棄してしまう」。
「後回し」と「一貫性のなさ」は忙しい現代においてよくあることで、指導教員が学生の執筆を見張るようになるまで、他の援助は期待できない。実際、多くの学生が最終年まで論文の執筆作業に入らない傾向があるが、これは本当に避けた方がよい。
では、あなたの場合はどうだろう。執筆活動を始めることに問題を感じているだろうか。インスピレーションがわくのを待っていたりしていないだろうか。どちらかといえばデータの見直しなど、ほかのことをしたいと感じていないだろうか。もちろんメールやツイッターの確認もしたいと思うだろう。チュートリアルの準備もあったかな。買い物もしなきや。はたまた部屋でも片付けるか。このように考える傾向はすべての新米著者に共通している。しかし、トロロープのように、書く者は書く時間を決めて確固として譲らない。その時間がくれば深呼吸をし、歯を食いしばり、書くのだ。あなたにもできることだ。
このような訓練をしてみるとよい。つまり、アントニー・トロロープは一五分ごとに二五〇語書くようペースを調整した。彼は線引きされた紙を使い、その紙の場合一枚当たり手書きで二五〇語書けることを計算した。パソコンを使う現代の私たちは、文字数などはすぐに分かる。初心者の場合、無理をせず、二〇分で二百語相当〔日本語で五百文字弱くらい〕を目標とし、その文章の冒頭を「この研究の目的は、」とすること。今すぐに書くのではなく、書く時間を今決めること。早朝でなくてもよい。自分の状況と勉学のパターンなど赤ら最適な時間を選ぶこと。ただし、一度決めたその時間は守り、邪魔が入らないようにすること。
さて、結果はどうだっただろうか。時間を決めて、その時間に他の邪魔が入らないようにし、執筆に専念することができたであろうか。もしできたならば、それはトロロープの歩んだ道へと一歩足を踏み入れたことを意味する。多くの人が発見するように、あなたもインスピレーションというものは「書き始めてから」くるものだということを学んだだろうか。書き終わったら、その草稿を数人の同輩に見せ、反応を得るとよい。分かりやすい文章になっていたか。言いたいことをどの程度理解してもらえたであろうか。必要に応じて改善をし、次に指導教員に見せる。
人によっては社会的プレッシャーがある方が、一人マイペースで書くプロセスよりもうまくいくと感じるだろう。例えば、ケント大学の学生は「黙って書け」グループなるものを形成している。会合があるたびにそれぞれが手短かに何を書くかを説明する。これにより公的なコミットメントとなり、実際にそれを書く可能性が高くなるのだ。そして残りの時間をすべて黙って個別に書くことに費やすのである。そのセッションが終わる前にまた数分かけて自分が何を達成できたかをグループで分かちあう。もちろんこれは自分の部屋や図書館でもできる。しかし、決まった時間に決まった場所にいるために、他の人と同じ活動をすることが社会的プレッシャーになり、集中して書くためのモチベーションになる。
リライトの過程としてのライティング
博士論文は審査されるので、論文執筆は何年もかけた研究の結果を単に報告する以上のものでなければならない。書くという作業は書き手に考えさせるので、研究結果を文章化する段になると別の方法が浮かんできて、学生は非常に苦しい思いをする。書くことが発見につながり、そしてよくいわれるように、発見とは単に書きとればよいというものではない。そう考えれば、書くことが論文作成で最も難しい作業であるのは簡単に分かる。
ある学生は言った。「書く段になるまで何を言うかなんて、もちろん完全に分かるわけではない。実際に書いてみるまで、自分の解釈が完全に誤りであったことに気づかなかった。ポイントになるべきことが表現できていない。だから該当する全部の部分を書き直そうと思ったんだ」。
もし、自分が書いたものをあたかも他人が書いたもののように読むことができれば、自身の不正確で雑な文章を簡単に批判できる。自身と自分の書いたものの間に「距離」を置く方法は、書いたものを二、三日机の脇に置いた後、初めて手に取るような気持ちで読んでみることだ。そうした時間がない場合は、他のやり方をとらなければならない。つまり、友達に電話したり会いに行ったりして、「間」を置いた後に読んでみる。こうした心理的な「スイッチ」の切り替えは「距離」を置くのに役立つ。もう一つのやり方としては、書いたものを声に出して読んでみることだ。書いたものを耳で聞くと「言いたかったこと」と「(実際に)言ったこと」の違いに気づくだろう。コンピュータ科学を学んでいた学生のライナは自分の書いた論文を猫に読み聞かせた。役に立つような学術的なフィードバックを猫がしてくれたかどうかは定かではないが、少なくとも誰もいない部屋で声を出して読む気恥ずかしさからは守ってくれた。同様に、「読み」を録音して、後で間いてみるのも効果的だ。
ラグとピーターは一四かそれ以上の活動項目を含む、博士論文執筆の概観を提示した。書き直しは執筆作業のなかで重要な要素であり、初期の草稿と、意味の定義を精査して書き改めた原稿とを見比べることは良い勉強になる。コンピュータはこの書き直しの作業を何度であれ実に容易にしてくれる。書き直しの最終版は博士論文、あるいはその一部を形成する学術誌の文献となる。この執筆活動のプロセスについてはムレイに詳しく書いてあり、良い参考となる。
執筆者のタイプの違い
誰しもが同じやり方で執筆をするわけではない。論文の書き方を学ぶ方法が少なかとも二種類あるように、執筆者のタイプも同様に二種類に分けられる。学校では最初に構想を練ってから書き始めるよう教えられるが、世の中、計画的な人間ばかりではない。「とにかくやってしまえ」タイプの人も少なからずいる。まず、言いたいことを最も適切な方法で言うことは、そもそも簡単なことではない。よって、段階的なアプローチをとることが賢明である。
連載をもつライター、つまり「シリアリスト」は、ライティングを逐次処理的なものとして捉え、言葉を書きながら訂正を加えていく。そのようなライターは実際に書き始める前に何を書くか綿密な計画を立てる。「シリアリスト」の執筆アプローチを例に挙げる。
今、難しく感じているのは内容をどういう文体、表現で書き、そしてその流れをどうするかということだ。文章を書いているとき、自分の文体は良いと感じるし、書き手としても悪くないと感じる。でも筆の進みがとても遅いんだ。
そのような「シリアリスト」の書き方の一つに、多くの箇条書きと形成中の考えをまとめた書類を作るという方法がある。それらを徐々に肉付けし、文章を書き出していく方法をとるのだ。もしあなたもこのような書き方をするタイプなら、様々なフォントや色を使い分け、原稿のどの部分が完成したか、どこが未完成なのかを強調することが役立つかもしれない。それと比べ、「全体主義者」は書く際に一定の長さの完結した文章を書くことしか考えられない。
私は手書きで完全な最初の草稿を書いた。書きながら少しずつ書き足していき、書き終えたときにはそれがかなりの分量になって、まるで紙の上の「第三次世界大戦」の様相を呈していた。興味がわけば朝は八時半、九時半くらいから夜遅くまで書き続ける。思い立ってから書き終えるまでの時間は短い方がよい物が書ける。
「シリアリスト」は文章を書くことにおいて、「全体主義者」と全く異なる点を強調していることがうかがえる。
執筆の際の実用面について
学生によってはパソコンに直接打ち込みながら書くことを好む者もいる。また他の者は手書きでメモをとったり、かなり綿密な草稿を書いたりする者もいる。最善の方法というものはない。自分にあったやり方は実験的に試していくしかない。
ほとんどの分野ではマイクロソフト社のワードなど市販されているソフトを使って論文が書き上げられる。しかし、理系の特定分野においては LaTeX(ラテックス)システムが標準となっている。それは数学的な表記の多い複雑な文書を作成することが可能だからである。もしこれがあなたの分野における標準である場合、ほとんどの大学において使い方を教えてくれる短いコースがあるため、そのようなコースに登録し、使い方を学ぶよう勧める。きっと役に立つだろう。
私たちはみなパソコンのスペルチェッカーに慣れているはずであるが、文法の校閲機能もある。ただし、文法の校閲機能の性能はまちまちである。グラマーチェッカー(文法校閲機能)は一部の学術的文献をなかなかうまく扱えていないのが実態である。例えば、ある文章を受動態で書き直すようにいってくる場合がある。ただし、科学系の論文の文体としてそれは良くないアドバイスであることが多々ある。そうだとしても、特に英語が母国語でない学生や執筆に慣れていない学生にとっては何らかの基本的なフィードバックとして役に立つことは間違いない。
また、多くの参考書(もしくはそのオンライン版)も有用である。辞書も言葉がもつ微妙な意味の違いを調べることに役立つほか、文脈のなかでそれがどのように使われているのかを見つけることにも役立つ。多くの大学では例えば Oxford English Dictionary のような主要な辞書のオンライン版へのアクセス権を有している。また、他の本(例えば Gowers' Plain Words や Fowler's Modern English Usage )は言葉の細かいニュアンスなどについてガイダンスを与えてくれる。また Roget のシソーラスは言葉の同義語や類義語を集めその状況に妾った適切な言葉を見つける上で役立つ。その他にも質の高いオンライン辞書などもある。
書誌管理ツールでは RefWorks や BibTeX が有用であり、自分の集めた論文や本などのデータベースを構築でき、必要なときに自動的に必要な書式にあわせて参考文献をリスト化できるだけでなく、論文の本文から参考文献の書誌情報に連携できるということもあり、大変実用的である。博士論文など長編の文献を作成する際は、このようなシステムを使うことでかなりの時間と労力の節約になる。
ライティング工程サイクル
「ライティング工程サイクル」とは書く作業に体系的にアプローチする方法である。その工程にはいくつかのステップがある。
・要点を書き出すこと(もし「全体主義者」であるなら順番を問わず書き記すこと。「シリアリスト」の場合は順番を付けて書くこと。あるいはマインドマップのように要点をページ全体に分散するように書いた上で関連した要点などを線でつなげるのもょい)。書き出すときに思い立ったことをすべて書き込み、大まかな計画を立てること。もちろんその計画に常に従う必要はない
・おおまかな構成をし、それができて初めて先に書いた要点を文法と文章のバランスを考慮した段落としてまとめること
・執筆の量とそれを達成する日付に関する目標を立てること
・一週間に二時間から五時間を執筆に費やす計画を立てること。毎週初めにその時間をいつにするのかを決めて、トロロープのようにその時間を守り、邪魔が入らないようにすること
・執筆のための静かな落ち着ける場所を探し、できれば執筆には同じ場所を使うこと
・書いたものを読み直し、校閲すること
・初期の草稿は指導教員に見せる前に同輩や友達にコメントしてもらうこと
・同輩からのフィードバックをもとに「改訂を加える」こと
・「さらなるフィードパック」を指導教員から得ること
・「フィードバックを受け入れ」改訂をするか考え直すこと
フィードバックは執筆する過程において重要な要素である。同期生などの同僚にこのようにフィードバックを求めると、必然的に彼らからも同じことが求められ、フィードバックを返してあげる必要が生じる。よって、どのようにすれば効果的にフィードバックを返せるかを意識するのも重要である。フィードバックを返すときの基本などについては、指導教員向けに書かれている第12章に記載しているが、あなたにも非常に関わる内容でもあるため、役立つだろう。