shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

Here Comes...El Son

2009-07-01 | Beatles Tribute
 コレクターと言う人種はあるアーティストに惚れ込むと正規に出ている盤だけでは満足出来なくなり、内容は変わらないのに同じ盤を各国盤で揃えたくなってしまうことが多い。そんなコレクター魂をビンビン刺激する存在が王者ビートルズである。私自身は本能の趣くままに猟盤してるだけなので由緒正しいコレクターからは程遠いが、そんな私でも海外オークションにハマッっていた一時期は有名なシェル・カヴァーやバルーン・カヴァーといった高額盤から怪しさ満点の「ヘルプ」インド盤に至るまで色々と目移りし、つい出来心で(笑)ブラジル盤「ハード・デイズ・ナイト」を買ったりしたものだ。まぁジャケットの文字もポルトガル語(OS REIS DO IE, IE, IE!)で珍しい感じだったので面白いといえば面白いのだが、そのまま底無し沼のような深みにハマッていくのが怖かったのでそれで打ち止めにした。私個人としてはビートルズの正規音源としては60'sパーロフォンのモノラル盤、いわゆる “黄パロ” がリファレンスなので、わざわざ変なミックスやマスタリングが施されている可能性のある各国盤を買いたいとは思わない。気持ち悪いくらいにエコーのかかったアメリカ盤なんか絶対にイヤだ!
 LPほど顕著ではないがCDでもこのような音質の違いは確実に存在する。特に私がビックリしたのは “ルディー・ヴァン・ゲルダー・リマスター” と銘打って東芝EMIが大々的に宣伝していたブルーノートの日本盤CDと、US盤の “The Rudy Van Gelder Edition” シリーズでは音の鮮度が全然違っていて、日本盤のあまりにヘタレな音に愕然としたものだ。要するに2,500円出して下らない解説の付いたスカみたいな音の日本盤を買うのか、1,200円で生々しい音のUS盤を買うのかということ。9月のビートルズ・リマスター盤の音質が全世界統一なのか気になるところだ。
 さて、話が大きく逸れてしまったが、そこで登場するのがこの盤である。「我愛被頭四」の文字がいやがおうにも目に飛び込んでくる。Panama Music というレーベルから出ているキューバ盤「Here Comes...El Son」の台湾盤CDだ。裏面には「24 bit 更完美聲音品質」とある。別に偏見があるわけじゃないが、中国、台湾と聞くとどうにも例の偽ディズニー遊園地(ミッキーマウスのパチモンを “耳の大きいネコ” と言い張ったのにはワロタ)とか、段ボール豚まん(結局偽モンやったけど...)とか、毒入りギョーザ(この事件どーなったんでしょーね?)とか、ネガティヴなイメージが強くて引いてしまう。これも元々は原盤を探していてたまたまeBayで台湾盤を見つけ、迷った挙句に安さに負けて買ったものだったが、届いた盤を聴いてみれば看板に偽りなしの抜群な音質で大ラッキーだった。
 内容は “Songs of the Beatles with a Cuban Twist” の謳い文句通りのビートルズ・アフロ・キューバン・カヴァー集で、アッケラカンとしたラテンのノリに日頃のストレスも吹っ飛んでしまう。イメージとしては夕暮れのビーチに面したレストラン、オープンテラスのテーブルで夜風に当たりながら、キューバのバンドの生演奏を楽しむ、といった感じなのだ。まず①「ウィー・キャン・ワーク・イット・アウト」のマリアッチ風トランペットでイスから転げ落ちる。そこへこれでもかとばかりにパーカッションの波状攻撃が炸裂、こちらは早くも戦意喪失状態だ。②「ヘイ・ジュード」でも①同様、その脱力具合が絶妙で、後半の盛り上がりもラテンのノリだ。
 ⑤「ルーシー・イン・ザ・スカイ」もパーカッションが効いており、原曲の湛えていたサイケデリックな佇まいは雲散霧消、LSDよりもコロナビールがよく似合いそうなサウンドだ。パーカッションの乱れ打ちをバックに歌われる⑥「ハロー・グッバイ」はハリー・ベラフォンテも泣いて喜びそうなバナナ・ボート・ソングちっく(?)なサウンドが圧巻で、パーカッションと口ベースを主体にしたセミ・アカペラ・ナンバー⑦「ノーホエア・マン」と共にアフロ・キューバン・スピリットが炸裂するキラー・チューンだ。
 ⑨「エリナー・リグビー」... この曲までラテンにしてしまう強引なノリがめっちゃ楽しい。色んな楽器やコーラスの大量投下によって他ではちょっと味わえないユニークな「エリナー・リグビー」になっている。でもさすがに⑮「ビコーズ」はちょっとやり過ぎの感アリで、騒々しいヒップホップ・アカペラと静謐なこの曲はいくらなんでも合わないと思う。
 ラストの⑯「ゴールデン・スランバーズ~キャリー・ザット・ウエイト~ジ・エンド」、いわゆるアビー・ロード・メドレーは実によく出来ており、特に「ジ・エンド」のアレンジが最高だ。これはお世辞抜きで本当によく出来ている。
 全16曲約56分にわたって繰り広げられる濃密なアフロ・キューバン・カヴァーの数々... 心の広いビートルズ・ファンにオススメしたい、これからの暑い季節にピッタリの1枚だ。

Golden Slumbers / Carry That Weight / The End - Here Comes...El Son