shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

Honky Tonkin' The Beatles

2009-07-19 | Beatles Tribute
 “ホンキー・トンク” という言葉を聞いて、私も含め普通のロック/ポップス・ファンが思い浮かべるのは多分ストーンズの「ホンキー・トンク・ウイメン」だろう。しかし“ホンキー・トンク” ってどーゆー意味?って訊かれると答えに詰まるのではないだろうか?私も “ラグタイムやブギウギを崩したようなピアノ奏法” という大雑把なイメージしかなかったので色々調べてみると、元々は20世紀初頭のアメリカ南部にあった、ビヤ樽が設置された安酒場(バレルハウス)のことで、そこは人々がビールを飲んで音楽に合わせて踊るための騒々しい場所だった。それがいつからか、そんな酒場で騒音に負けないようにラウドに演奏されていた音楽の事を指すようになったらしい。当初はカントリー色の濃い演奏スタイルだったが音量を上げるために通電した楽器を使うようになり、今では “ロックンロール色の濃いカントリー・ミュージック” みたいな感じのサウンドを総称して “ホンキートンク” と言うらしい。そう考えると先のストーンズ「ホンキー・トンク・ウイメン」の演奏スタイルも何となくわかるような気がしてくる。
 この「ホンキー・トンキン・ザ・ビートルズ」はUSアマゾンをブラウズしていて偶然見つけた。 “ホンキー・トンク版ビートルズ” って... 本気かいな?試聴してみるとカントリー風あり、サザンロック風ありで面白そうだ。ただしVARIOUS ARTISTS というのは看板に偽りアリで、全10曲をザ・ドランク・カウボーイ・バンドというふざけた、でも“ホンキー・トンク” を見事に言い表した名前のグループが演奏しているのだが、音楽さえ素晴らしければ別に嘘つきでも酔っ払いでも構わない。
 CDの表、裏、中ジャケすべてに描かれているカウボーイ・ハットをかぶったグリ-ン・ペッパー(しかも影つき)のロゴがいかにも南部しているし、見開きで載っている “ドランク・カウボーイ・レコード” の宣伝もめちゃくちゃローカル色豊か。更にレコーディングもマスタリングもすべてテネシー州ナッシュビル、もうそれだけで音が聞こえてきそうな気がする。
 いきなりペダル・スティール・ギターのカントリーちっくなイントロで始まる①「アイ・フィール・ファイン」は、イーグルスのグレン・フライが風邪を引いて鼻声になったようなヴォーカルがバックのテイクイットイージーなサウンドとピッタリ合っていて中々エエ感じ。 “I’m so glad...” でハモるコーラス・ハーモニーもニューキッドインタウンしており、70年代初期のイーグルスがビートルズをカヴァーしていたら恐らくこんなサウンドになってたんやろなぁと思うと中々楽しい(^o^)丿 ②「チケット・トゥ・ライド」は①とは別人のあまり特徴のないヴォーカリストが歌っており、前半はアレンジも平凡で何の面白味もないのだが、“My baby don’t care...” のリフレインが始まる2分45秒あたりからカントリー・フレイヴァー溢れる盛り上がり方で、これでこそホンキー・トンキン・ビートルズだ。③「デイ・トリッパー」、④「ドライヴ・マイ・カー」と②と同じ平凡な歌声のシンガーがヴォーカルを取っているがアレンジにも演奏にも目を見張るような工夫がなく、これならわざわざカヴァーを聴く意味がない。しっかりせえよ(>_<)
 ⑤「エイト・デイズ・ア・ウィーク」は初登場の女性ヴォーカルだ。いかにもテンガロン・ハットにジーンズ姿が似合いそうなこの女性シンガー、声も歌い方も曲想にバッチリ合っていて③④で感じた失望を一気に打ち消してくれる。バックの演奏も適度にレイドバックしたサザンロックでめっちゃ快適だ。⑥「マネー」はストレートなアレンジだが、フィドルが巧く取り入れられていたりとか、いかにもホンキー・トンクという感じのピアノの弾み方とか、他ではあまり聞けないユニークな解釈だ。
 ⑦「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」はアレンジをあまりいじらずに元々この曲が持っているノリの良さを上手く活かしたのが大正解。 “カントリー・ロックで聴くビートルズ” のお手本のような軽快でスピード感溢れる演奏が素晴らしい。⑧「ア・ハード・デイズ・ナイト」は③④と同じく可もなし不可もなしという演奏。⑨「キャント・バイ・ミー・ラヴ」は⑤と同じ女性シンガーが再登場、演奏もノリノリで、1分9秒で聞ける彼女の “No, no!!!” の掛け声とともにギター・ソロが始まるところなんか音楽の楽しさがダイレクトに伝わってくる(^.^) ラストの⑩「ホワイ・ドント・ウィー・ドゥー・イット・イン・ザ・ロード」は意外な選曲だが、気持ちの重心を下げてブルージーに迫るバックの演奏はまさにサザンロックの王道と言えるサウンドだ。例えるなら、リトル・フィートの「ダウン・オン・ザ・ファーム」をストーンズの「イッツ・オンリー・ロックンロール」の精神でなぎ倒し、その顔面にアランナ・マイルズの「ブラック・ベルベット」をまぶしたような感じ。男性ヴォーカルと女性ヴォーカルが交互にリードを取る掛け合い形式の構成もユニークで、そういった要素が混然一体となって生み出されるグルーヴがたまらない(≧▽≦) 
 カントリーありサザンロックありブルースありと手を変え品を変えアメリカン・ル-ツ・ミュージックの粋を凝らしてビートルズの楽曲を料理したこのアルバム、あれこれ難しいことを考えずに気軽に聞けるビートルズ・カヴァー集だ。
 
エイト・デイズ・ア・ウィーク