shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

I Feel A Song Coming On / Joni James

2009-07-21 | Jazz Vocal
 私の “女性ヴォーカル好き” はジャズ仲間内では有名で、インスト・オンリーよりもむしろヴォーカル入りを好む傾向が強い。人間の声こそ最高の楽器だと思うからだ。それと、ポップスやロックを聴いて育った私は1曲3~4分というリズムが身体に染みついており、一部の例外を除いてどうもインスト長尺曲にはなじめない(というか聴いてるこっちの集中力がもたない...)ので、濃い内容を短くビシッとキメてくれる古いの歌モノが大好きなのだ。
 私の好きな女性ヴォーカリストには2つのタイプがある。小さなクラブでスモール・コンボをバックに歌っているような、ハスキー・ヴォイスで “クールに軽やかに粋にスイング” するジャジー系ヴォーカリストと、古き良きアメリカを想わせるノスタルジックな歌声が心の中にス~ッと染み入ってくるような癒し系ヴォーカリストである。前者はクリス・コナーやアニタ・オデイ、ヘレン・メリルといったジャズ・ヴォーカル・レジェンドからジェニー・エヴァンス、クレア・マーティンといった現役シンガーまで、バックの演奏も含めてとにかくスイングしまくる “ジャズ・ヴォーカルの鏡” のようなディーヴァたちだ。後者はペギー・リー、ドリス・デイ、マーサ・ティルトンといった大御所から最近ではジャネット・サイデルに至るまで、そのナチュラルで素直な唱法に癒されるのだが、このジョニ・ジェイムスもそんな正統派ヴォーカリストの一人といえるだろう。
 彼女は1950年代前半には “アメリカの恋人” といわれ、MGMレコードのドル箱スターだったポピュラー・シンガーである。彼女のアルバムには企画モノが多く、ハワイアン、フレンチ、イタリアン、アイルランド民謡といった世界各国のご当地ソング集、ヴィクター・ヤング、フランク・ロサー、ジェローム・カーン、ハリー・ウォーレン、ガーシュウィンといったコンポーザー・シリーズ、カントリー、ジャズ、ボサノヴァ、ストリングス物といった音楽スタイル別コンセプト・アルバムと、実に幅広いジャンルの歌を歌っている。つまりそれだけの人気と実力を兼ね備えたシンガーだったということだ。又、彼女のアルバム・ジャケットには彼女のイラストが描かれたものと彼女の写真を使ったものがあり、どちらも大変魅力的なのだが、特にイラスト・ジャケの方は50年代という時代の薫りを見事に表現した芸術品レベルのものばかりなので、私は彼女を聴く時は必ずLPジャケットを眺めながらノスタルジーに浸るようにしている。
 今日取り上げた「アイ・フィール・ア・ソング・カミング・オン」は「アフター・アワーズ」、「ジョニ・スウィングス・スウィート」、「ザ・ムード・イズ・スウィンギン」といった “ジョニ、ジャズ・スタンダード・ナンバーを歌う” シリーズの中で最もスイング感に溢れており、選曲から伴奏に至るまで、全部で40枚近く出ている彼女の全アルバム中でも一番気に入っている1枚なのだ。
 歯切れよくスイングするイントロからいきなり全開で飛ばしまくるといった感じの①「ディード・アイ・ドゥ」にまずは圧倒される。ジャズはスイング、それを体現するかのようにジョニも軽快なテンポで歌う。この盤はスタジオ・ライブ形式でA、B面それぞれ6曲ずつを続けてワン・テイクで録っているので、ドラム・ソロから切れ目なく②「ユー・ケイム・ア・ロング・ウェイ・フロム・セントルイス」へと続く。ペギー・リーのブルージーな歌唱で有名なこの曲をミディアム・テンポでサラッと歌っており、2分25秒あたりの捨てゼリフ・パートが面白い。③「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」はボサノヴァ化される前のスロー・バラッド的解釈でしっとりと歌う。彼女のしなやかで優しい唱法にピッタリの曲だ。アルバム・タイトル曲の④「アイ・フィール・ア・ソング・カミング・オン」は一転してアップテンポで疾走するように歌う。⑤「ララバイ・オブ・バードランド」は華麗なピアノのイントロに続いてドラムが加わり、そしてブラスが順に入ってくるあたりに強烈にジャズを感じる。大好きなこのアルバムの中でも特に気に入っているナンバーだ。
 クラリネットをフィーチャーしたスイング・スタイルの⑥「ユー・ドゥ」に続く⑦「オン・ザ・サニーサイド・オブ・ザ・ストリート」はトロンボーンを加えたディキシーランド・スタイルで、ジョニは気持ち良さそうに軽やかに歌っている。⑤と並んで私が気に入っているトラックだ。失速寸前といった超スローテンポで歌い込んだ⑧「マイ・メランコリー・ベイビー」は彼女の愛くるしい歌声がたまらない。控えめなリズム・ギターのサポートも絶妙だ。再びディキシーランド・スタイルに戻って⑨「ベイズン・ストリート・ブルース」、甘いソプラノの彼女がちょっと声をひねって歌うブルースもオツなものだ。
 ジョニが淡々と歌い綴る⑩「アイ・ガット・イット・バッド」ではマイルス降臨といった感じのミュート・トランペットのプレイが聴き所。愛らしい歌声で温か味溢れる⑪「バイ・ザ・ウェイ」はベース主導のイントロとピアノのオブリガートが渋いなぁ。⑩⑪のようにメロディーが薄味の曲でも歌声と演奏で楽しめるのがこの盤の良い所だと思う。ラストの⑫「九月の雨」はこのジャジーで楽しいセッションを締めくくるに相応しいノリノリの歌と演奏で、特にドラムス(クレジットはないが、多分シェリー・マン)が大活躍、 “明るく、楽しく、スインギー!” と三拍子揃った名演だ。
 その優しい人柄がにじみ出たようなジョニ・ジェイムスの歌声は、温か味に溢れ、聴く者の心を癒してくれる。そんな彼女の甘~いヴォーカルとバックを務めるバリバリのジャズメンのピリッと辛いプレイが絶妙に溶け合って生まれた旨口ヴォーカル盤がこのアルバムなのだ。

ジョニ・ジェイムス バードランドの子守唄
コメント (4)