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元町の夕暮れ ~万年筆店店主のブログ~

Pen and message.店主吉宗史博の日常のこと。思ったことなど。

縁を感じるテーマのペン~アウロラフィレンツェ~

2016-07-19 | モノについて

私はまだ6年前のル・ボナーの松本さん、分度器ドットコムの谷本さんと行った旅の記憶の中にいるのかもしれません。昼頃着いて、翌日午前中に発ったので24時間も滞在していませんでしたが、フィレンツェも思い出深い街のひとつです。

郊外に出ると地元の人の普通の生活が営まれていると思いますが、中心部は赤い屋根の古くからある街並みで、街自体が観光地で、歩いている人皆が旅行者でした。

大聖堂のドームやポンテベッキオ橋などの名所も見て記憶に残っているけれど、行き交う人たちの姿、ここは街並みを楽しむところだと思いました。

何かを観たと言うよりも、仲間たちと他愛もない話をしながら、街をブラブラと歩いたことの方が記憶に残っている。


どうせ限定万年筆を手に入れるのなら、何か自分に縁のあるテーマのものを選びたい。

そう多くはないけれど、たまに思い入れのある土地をテーマにした限定万年筆が発売されたりして、普段頭の奥にしまってある旅の記憶を思い出すきっかけになったりして、時の流れを感じたりします。

アウロラフィレンツェ


オリジナルインク

2016-04-12 | モノについて

当店は創業時よりオリジナルインクを扱ってきました。

他店のように色数は多くないけれど、実用も伴っていながら、味わい深い、良い色が揃っていると自慢に思っている。

オリジナルインクの色、名前、ラベル、扱い方でその店のセンスや考え方がよく表れると以前から思っていましたが、去年、今年の状況はさらにそれぞれの店の方針が分かれたのではないかと思います。

日本中のオリジナルインクが爆買いされて品薄になるという、今まで考えられなかった状況のことです。

インク一瓶買ってもなかなか無くならないねというのが、お客様とのお約束のやり取りでしたが、それが嘘のようにまるで何かの塗料に使っているのかと思うほどインクが売れていく。全色各10個などという売れ方をして、個数制限を設けないと一日もたない。

買っていただけるのは本当に有り難いことだし、買っていただいたモノに対して、その後をその人がそれをどうしようがその人の勝手で、そこにとやかく言うのは私の流儀ではないけれど、そうやって色もちゃんと見ずにインクだけを大量に買って行く行為を私は美しいと思えない。

その行為を私が日本人だから美しくないと思うのかもしれない。

私は商売人である以上、インクも買ってもらいたし、万年筆も買ってもらいたいけれど、それらのモノを買ってもらいながら、どんな行為や心の持ち方が美しいかを示したいと思ってやってきました。

それは日本的な美しさであって、海外の違う文化を持つ人には通じないのかもしれないけれど、いくらたくさんの海外のお客様が来られてもそこを譲るつもりはない。

でも今のオリジナルインクの状況はただのブームであって、近い将来終わりが来ると思っています。お店はオリジナルインクを売上の柱にしたり、メインの商材にするのはとても危険だと思っています。


重ねる思考用のプラス1冊のノート

2015-11-24 | モノについて

 

スケジュールやToDoなど時間が来ると終わったり、物事を処理すると消える要件は綴じノートでいいけれど、分類して記録を重ねるものはページを足したり、移動させることができるシステム手帳のようなバインダー式になり、結局両方使わないといけなくなります。

手帳を2冊も持ち歩けないため、今年はシステム手帳に1日1ページとマンスリーダイアリーを入れて使っていましたが、フォーマットが気に入りませんでした。

今年分は使いきるつもりですが、スケジュールやToDoに関して、正方形のオリジナルダイアリーはよくできているとかなり自信を持つことができましたので、この1年の「ダイアリー浮気期間」は無駄ではなかった。

オリジナルダイアリーも使っていなかったわけではなく、売り上げや仕入れの集計には使っていましたが、少しもったいない使い方でした。

ブログを書いたり、ホームページの文章を書いたりするものの下書きは、入力が済んだ後ビリビリと千切って捨てるのが快感になっているので、残しておくことはありません。
そういう一発勝負というか、賞味期限のあるものではなく、考えを重ねていくようなもの、簡単に答えを出してしまう自分を思いとどまらせて熟慮するべきことなどを書く用途をオリジナルダイアリーに込めたいと思っています。

マンスリーとウィークリーないしデイリーのダイアリーと横罫あるいは方眼のノートが、ダブルのダイアリーカバーには難なく入りますが、それでいいのではないかと思っています。

どうしてもシングルのカバーを使いたければ、付加するノートを大和出版印刷の薄型正方形方眼ノートrectoにすればシングルでも持ち歩くことができる。

手帳の悩みは尽きない、というかいつまでも考えていたい。

ダイアリーの紙グラフィーロはかなりペンの滑りが良いので、極細の万年筆でも気持ちよく書くことができるので、万年筆も極細のものがあればいいなと思っていて、そんな話を皆さんとしたいなと思う今日この頃です。


手帳に惹かれて

2015-10-11 | モノについて

手帳について、私も1年中考えている。

それは仕事において必要な道具だからとか、生活においてなくてはならない羅針盤のようなものだからというキレイごとを言うつもりはなくて、ただ手帳が好きだからということにとっくに気付いている。

以前は手帳が仕事へのモチベーションを高めてくれる役に立つと思っていました。

たしかに私たち手帳好きにとってはそうかもしれないけれど、一般的な話ではない。

私たちは手帳を使わない人、例えばスマートフォンでスケジュール管理などを行っている人について、あまり楽しそうでないと思ってしまうけれど、楽しいかどうかで手帳に書き込んでいる人はあまり一般的ではないのかもしれない。


一般的ではない手帳愛好家同士は、人が使っている手帳に影響を受けるという悪い癖を持っています。

自分で今の手帳のシステムは完璧だと思っていても、人が使っているのを見るとそれも使ってみたくなってしまう。

私は手帳好きの人のその悪い癖を突いて、皆さんも一緒に当店のオリジナルダイアリーを使いましょうと影響を与える方だということを時々忘れてしまうことがありますが、ぜひ当店のオリジナルダイアリーを使っていただきたいと思っています。

正方形ダイアリーには、日付入りのウィークリー、マンスリーの他に日付なしの1日1ページ、横罫や方眼罫があって様々な使い分けができて、クリエイティブな心をくすぐっていると思っています。

手帳を使っていない人を見て、よく仕事しているなあと思うことがありますが、その人も立派に仕事していて、あまり手帳は関係がないかもしれない。

ちなみに本についても、私は好きだから四六時中何か読もうとしていて、荷物の中に活字がないと不安になってしまうけれど、本を全く読まない人もいて、その人も私以上に立派に仕事していることを知っているので、読書の量と仕事もあまり関係がないのではないかと思っている。

話しが反れたような気がしますが、仕事に生きるかどうかは使われる人次第だけど、書くこと、手帳について考えることが楽しくなる手帳なら当店にあります。

現在、オリジナルダイアリーの革カバーもル・ボナーさんが製作して下さっていて、10月末には出来上がる見込みです。

当店のオリジナルダイアリーを使っていただいた結果、皆様の仕事も楽しくなればいいなと思っています。


黒のシュランケンカーフ

2015-08-25 | モノについて

何か月も前から、秋冬に使う鞄が欲しいと色々考えていました。

通勤に使うもので、使用頻度としては一番高いことになると思われるもので、電車の中で何か書いたり、読んだりしやすいように肩から掛けられるか、背負えるものがよかった。

仕事で毎日使っていて、持ち歩いているシステム手帳、水筒、筆入れ、財布、本、時にカメラなどは、一時期に比べるとかなり少なくなったけれど、最近休日用の鞄として気に入って使っているル・ボナーのお散歩バッグオブレにはとても収まらない。
それなりの大きさがなければならない。

当店のお客様方の間ではものすごく普通の選択だと言われるかもしれないけれど、ル・ボナーのパパスショルダーにしました。

色はシュランケンカーフのブラック。

ル・ボナーの鞄で、しかもカラーバリエーション豊富なシュランケンカーフでブラックを選択する人はもしかしたら少ないかもしれないけれど、デニムやそれに合わせて履く革靴とも相性が良いような気がしました。

それにもともと黒のシュランケンカーフを私はとても気に入っていました。

当店のオリジナルペンレスト兼用万年筆ケースやカンダミサコさんに当店オリジナル仕様で製作してもらっているA7メモカバー、A5ノートカバー、ル・ボナーさんが製作している正方形ダイアリーカバーなど、何かあれば必ず黒で作ってもらっています。

使いこんで柔らかくなって、少し艶のような光が出てきた時に、あえてブラックにして良かったとよく思います。

私の鞄はまだまだマットな感じで、真新しい革の匂いがして、気恥ずかしいけれど、使いこんでクッタリして、少し艶が出ると完璧だと今から楽しみにしています。


日本的な心に浸る

2015-08-11 | モノについて

お盆には、亡くなったご先祖様が帰ってくると子供の頃から言われていて、今もそうかもしれないと思っています。何てロマンのある話だと思います。

もしかしたら終戦の日がお盆なのも、戦局とか政治的な駆け引きのスケジュール以外にもそんな力が働いて、戦争を終わらせたのかもしれないと思ったりします。

お盆と戦争はどうしても一緒に考えてしまうし、戦争で亡くなったたくさんの人たちについても考えます。

今は平和に見えるこの街にも過去に空襲があって、たくさんの人たちが黒焦げになって亡くなったと、暑い季節に街が見渡せる丘に上がると、どこの街でも思ってしまう。

日本の過去にはそういう目を背けることができない悲惨なものがつきまとうけれど、ご先祖様について考えると日本的なものを大切にしたい気持ちになります。

万年筆の文字というとブルーやブルーブラックがインクらしく、一般的ですが、ペン習字の講師をして下さっている堀谷先生がいつも仰っているけれど、日本の文字はやはり黒が一番美しく見える。

万年筆は欧米で生まれたものだけど、黒インクで書くととても日本的な筆記具に感じられると思っています。

書道を習いだしてより強くそれを思うようになりました。

昔に思いを馳せて、日本的なものに惹かれる今の時期は特に黒インクを使いたくなります。

黒インクにも様々なものがあって、真っ黒に書けるセーラーの黒、濃淡が出るパーカーなどの薄めの黒、最近扱い出したローラアンドクライナーのライプツィヒブラックは藍を煮詰めて黒くしたような色でまた惹かれます。

とてもささやかだけど、過去に思いを馳せて日本的な心に浸ることができる黒インクを見直してみたいと思っています。

 

 

 

 


ニコンの古いレンズ

2015-01-27 | モノについて

私にとってカメラは趣味まで行かない、おもちゃのようなもので自分の解釈でとても楽しんでいます。
カメラでは無邪気に、バカになれると思っています。

正月休み最終日に南京町にある、とてもマニアックなカメラ店を訪れニコンのレンズを手に入れました。

使っているカメラ、マウントアダプターを持って行って、これが使えて、付けると姿が可愛くなるものという、とてもいい加減な要望を伝えました。

私もいつもそうありたいと思うけれど、すぐに私の気持ちを汲み取ってくれて、楽しみたいということでしたら、こういうものはどうですか?といろいろ見せてくれました。

専門的な、真面目な講釈はいらないというふうにすぐに理解してくれたのが、助かりました。

ニコンのスクリューマウントのとても古いレンズで、全く分からないけれど、50年代か60年代のものではないかと思います。5㎝f2.0で書いてあるけれど、開放以外ではとてもくらくなってしまいますので、いつも開放で使っています。

私のカメラでは100㎜のちょっとした望遠のようになってしまうけれど、使っているうちに、S等さんにちょっと教えていただいて、何となくボヤッと分かってきました。

でも、お客様の中にはすごい人がいて、Iさんの写真を見ていると、レンズのサイズ、カメラの性能など関係なく、どこにでもある日常の中に面白い風景を見つけて、絶妙なフレーミングをすることが大事だと教えられました。

どんな写真を撮りたいかとか、何を撮るかということはこれから見つけたいと思っていて、まず何か欲しいと手に入れたレンズでした。

Iさんのとても古い戦前のツアイスイコン。フィルムが大きく、1回装填して7枚しか撮れないとのことよく考えてから、ゆっくり撮るカメラ。


インクとロマン

2014-12-02 | モノについて

少し前までアラスカに凝っていました。

凝っていたと言ってもインターネットでアラスカに関することを調べたり、関連する本を読んだりするくらいです。

でもいつかアラスカを訪れたいと思いましたし、冒険のようなことはなかなかできないけれど、旅してみたいと思っています。

こういう世界中の他所の土地に関するマイブームは常にあって、アラスカの前はウクライナ、その前はスペインで、脈絡なく世界を巡っています。

以前は、歴史や風俗、文化などに興味がありましたが、カメラに興味を持ち出してから美しい風景に興味の対象が移っています。

世界巡りは今、南米の最南端パタゴニアに来ています。

紀行作家のブルース・チャットウインの本を読んだのがきっかけでパタゴニアに惹かれ始めました。

パタゴニアのさらに最南端がティエラ・デ・フエゴ(火の土地)というところで、その土地もいつか訪ねてみたい場所のひとつになっています。

実はパタゴニアに惹かれる前から、エルバンのインクでこの土地をイメージしたインクで、「TERRE DE FEU」というそのままに名前のインクがあって、ずっと気になっていましたが、パタゴニアに凝るようになって使うことにしました。

今は手帳用の万年筆に入れているけれど、そのインクを使いたいために違う用途でも手帳用万年筆を使うほど、気に入っています。

世界中の土地土地に興味があって、そんな世界の中の地名がついたインクにとてもロマンを感じます。

あまりそういうインクは他に目にしないし、あってもサマにならないと思います。

エルバンのこのインクは少し寂しげな、最果ての地を上手く表現したラベルや、少し薄い、でも私にはちょうどいい赤みがかった茶色のインクの色はイメージにピッタリで、旅情をかきたてられるインクだと思っています。

 

いつもセンスの良いモノのチョイスをするIさんの古いコダック


モノの移り変わり

2014-11-25 | モノについて

Y原さんのキャノン。今、昔の機械式のメカメカしたものに魅力を感じて、またあの頃にモノが戻ればいいと思うけれど、全ての物作りがもう戻れないところまできているように思います。

 

コンピューターがどんどん小さくなって、工業製品の、モノの姿は一変しました。

私たち以上の世代はその様子を見届けてきました。

いろんなものがそうですが、カメラはその影響を受けて、大きく変わったものの筆頭に挙げられるものだと思います。

機械式から電子式に、マニュアルからオートに変わっただけでも大きな変化だと思いますが、記録媒体がフィルムからデジタルに変わってしまって、そのモノ自体が違うもののようになっています。

カメラを販売するお店も、カメラ店から、電気屋さんに変わって、一時業界は危機を迎えていたように思いますが、カメラの持つ趣味性のようなものを訴求して、カメラ店もメーカーも盛り返してきているように、最近は思いますが。

カメラの起こったような激震が万年筆に起こったらどうなるのだろうと思っています。

万年筆はすでに60年代にボールペンが出てきて、万年筆にこだわった国産万年筆のあるメーカーは危機を迎えた経験があり、その時に万年筆は仕事での主役は降りているけれど、カメラのように趣味の需要に応えることができているのだろうかと思います。

万年筆は私も文字を書く実用の道具だと思っていますが、それはそれぞれの人の趣味を反映した実用の道具であり、根底にあるのは趣味性だと思っています。

その辺りを勘違いして、趣味性を忘れると生きる道がなくなってしまいます。

ただ書くことができる、気持ちよく書くことができるだけではダメで、面白みのようなものはいつも追及していないと万年筆は廃れてしまうと、思っています。

 

 


靴と万年筆

2013-08-04 | モノについて

良い革靴が欲しいと思って手に入れたのはトリッカーズで、ウイングチップとたくさん入ったメダリオンのゴテゴテしたデザインが単純に気に入ったからでした。

底は雨に降られた時に必死でどこかの軒下に駆け込んで雨宿りしなくてもいいように、ゴム底にして、一番減りが遅い一番厚いコマンドソールにしました。

革底の方が柔らかくて、履き心地、歩き心地がいいことは、後でオールデンを買ったときに理解しましたが、トリッカーズは自分の実情に合った、自分らしい靴だと思っています。

マロンアンティークという色も、毎日使っているル・ボナーのブリーフバッグのブッテーロ革のキャメルに合っていて、この組み合わせが気に入っています。

知名度、扱いやすさ、価格など、万年筆で言えばペリカンのような存在なのかもしれません。

そういえば革底でも、歩いて減ったら交換できる構造のグッドイヤーウェルト製法が、こういった靴の基本になっていて、手間が掛かる分国産でも3万円以上の値段になりますが、万年筆でいうとそれが金のペン先ということになるのかもしれません。

靴は素材や色、デザインを服装や持ちものに合わせて替えますが、万年筆もそうなったら、かっこいいなあと思っています。

今は、かなり万年筆へのこだわりの強い人しか、服装や小物とのコーディネートをしていないように思います。

黒っぽいスーツの時は、銀の金具の黒い万年筆やシルバーの万年筆、茶色の服では金金具の万年筆。

金の時計をしている時には、アウロラ88のような金の部分の大きい万年筆のようなコーディネート。

さすがに靴と万年筆とのコーディネートはないのかもしれないけれど、価格帯やその存在、国柄の違いなど靴と万年筆は非常によく似ていて、靴にも惹かれるのかもしれません。

でも靴や時計はファッションの一部として存在するものなので、その存在が華やか気がしますが、万年筆の世界は華やかさに欠けるような気がします。

それが良いところでもあるのかもしれないけれど、その業界の辺境で仕事をしている身としては、もう少し華やかな世界になって欲しいという願望は持っているのです。