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キャロル/トッド・ヘインズ監督
デパートで売り子のアルバイトをしているテレーズに、娘へのプレゼントを買いに来た妙齢の女性・キャロルが一目ぼれする(いや、お互いに良い感じだったかも)。売り場に手袋を忘れてしまうが、それがきっかけになって二人で食事に行くことになる。そういうことでつきあいが始まる訳だ。テレーズには同棲している恋人がいるが、結婚はしていない。キャロルは離婚しようとしているが、その時代は同性愛が禁じられていたようで、二人の関係が夫に知れると、ちょっとまずいことになるようだ。そういう危険な状態でありながら、二人の思いは急速に燃え上っていくのだった。
後で知ったが、原作はパトリシア・ハイスミス。あの「太陽がいっぱい」などの原作者だ。当時は別のペンネームでこの作品を発表し、ベストセラーになったそうだ。自身の体験を元にしているという事で、やはり時代として同性愛がはばかられるという背景があったのだろうと思われる。
今の時代は、異性との恋愛劇を描いても、なかなか純愛は描けなくなっているように思う。さらに禁断の愛といっても、そういうハードルを描くことも難しいかもしれない。それほど恋愛に対する人々の認識はずいぶん変わったものだと思う。あとはイスラム文化圏などでは無いと、悲恋のような圧倒的な障害は描きにくいのではないだろうか。さらに恋愛至上主義のようなものがあるようにも感じる。要するに以前の時代には合わなかった恋愛劇が、今の時代性に見事にマッチしていて、この作品を輝かせているという印象をもった。恋愛としては実は普通の筈なんだが、これがどうしようもなく切なく難しいのである。
ほとんどこの主演の二人の世界を描いている訳だが、それ以外の世界は、なんだかとても乾いていて別のもののようにも思える。それが恋の力のようなものであるというのは、観ている側にはよく分かる。別ちがたい感情を引き裂く無常は、あくまでも冷酷にどうにもならないのである。
今ではもうこういう映画はたくさんあるので、僕なりに慣れているというのはある。要するにまだ慣れていない人のためにある映画なのかもしれない。ある意味で実に自然な流れだが、それでは恋愛の衝撃度などは感じられないだろう。もちろん身近にそういうことがあると、それなりに驚くかもしれないが、しかしやはりそう特に取り立てて騒ぐことはしないだろう(当事者でないかぎり)。美しい映画であるが、そういう意味で観る人の感傷の違いは大きいのではないだろうか。