カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

不条理を是正したいアメリカ人は、つまるところ受け入れるしかない   スティルウォーター

2022-11-14 | 映画

スティルウォーター/トム・マッカーシー監督

 アメリカの田舎町に住む父親のトムは、フランスで刑務所に入っている娘の面会に行く。そこでこっそり手紙を渡され、それを彼女の弁護士に渡すが、いまさら判決が下り刑期に服している囚人の証言を取り上げて捜査をやり直すなんてものは現実的ではない、とはねつけられてしまう。実際にはフランス語を解しないトムは、たまたまホテルのお隣の部屋の夫人が英語を話せることを思い出し手紙を読んでもらい、なんとか一人でこの問題を解決できないかと奔走しだす。しかし言葉の壁だけでなく、保守的なフランス・マルセイユの田舎の事情があって、誰しも事件に協力的ではない。さらに徐々に明かされていくが、娘の犯したとされる殺人事件は、フランス国内では相当なゴシップとして騒がれたもののようで、アメリカから来たレズビアンが、同じレズの恋人を嫉妬の上惨殺したとされるものだった。(すでに5年服役している)娘は自分が殺したのではなく、留守中に出入りした共通の知人の男が犯人だという。DNA鑑定をすれば事実は明らかだという。途中、高額で世話をするという元警官である探偵の話だと、特定の男を探すだけでも大変なうえ、DNAの取り出せるものを確保するのも大変だし、それをコネを使ってその部屋に残っていたとされるDNAと照合させるのも時間がかかる、と言われる。それで違った場合も考えられるのだし、娘が無罪だと父親が考えているのなら、それでいいのではないか、ともいうのだ。
 結局弁護士が取り上げて捜査しているものと勝手に娘に思われてしまった父は、そうでなかったことがバレてしまい、絶縁状態になる。そうしてそのままフランスで肉体労働者となり、親切だった母子のところに転がり込んで、ルームシェア生活をしていた。どうしても娘のことを何とかしたいという一念がそうさせているものであるが、フランスでの生活もそれなりに板についたものになっており、その家の娘との関係も非常にいいのだった。そういう中、絶縁状態の娘が一日保釈さることになり、引き取り手となるのだったが……。
 英語圏の人間が、フランスにいてもフランス語が分からないままなんとか英語で何かをやり遂げようとするがうまくいくはずがなく、時折非常に自己中心的にイライラするが、しかし打ちのめされていく。しかし、ひょんなことから大きなチャンスが転がり込んできて、男は大胆な行動に出るのだった。
 エンディングのもの悲しさも含め、なかなかに感慨深い作品になっている。長尺だが、それなりの内容であると言える。最後のサスペンスで成功と消失を同時に味わうことになるが、まあ、そういう上手く行き方というのが、ちょっとした裏切りなどの要素が複雑に絡んだ偶然というのも、なかなかに考えられたものではなかろうか。結局ちょっとした人々が、もう少し慎重に事を運んでくれさえすれば、こんなことにはならなかったのでは無いか。アメリカ人の怒りと諦めは、そんなところからきているということなのだろう。
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