カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

失恋したら、自分が見える   くまちゃん

2022-11-11 | 読書

くまちゃん/角田光代著(新潮文庫)

 NHKで「理想的本棚」という番組があり、それで「ひどい失恋をした時に読む本」というテーマで三冊紹介されていた。本の内容をドラマ仕立てで一部を紹介されていたのを見て、ほんとにこれからどうなるんだよ! と思って、アマゾンの注文をクリックしていたようだ。本が届いて可愛い熊のTシャツか何か来ている女の絵の表紙を見て思い出しはしたが、しかしすぐに読まずにいて、やはりなんだか気になって手に取ると、一気読みしていた。お話は連作短編になっていて、表題のくまちゃんという男からフラれる女の話から始まって、次にくまちゃんというふった男が別の女にフラれる話になる。そんな感じで7編である。
 そういう構成なので、いろんな恋愛が展開されていて、それ自体が面白いのだけど、いづれは終わると分かっている訳で、ちょっとつらいものがあるのだけれど、別段ひどく落ち込むことにはならない。というか、フラれて困るというか、非常に傷ついている人々の心情が語られているにもかかわらず、結構元気になる感じなのだ。それが何故なのかあえて書かないが、嘘ではない。失恋で元気になるなんて、普通ではちょって考えられないことだとは思うのだが、この失恋によって自分に気づくことを経験する人々によって、自分のことにも気づかされることがあるせいだと思う。文章の中にそういうヒントがたくさんあるはずだから、自分で読んで受け止めて欲しい。
 それにしてもだが、この中の人たちは、割合あっさりセックスをするし、本当によく酒を飲む。実にすさまじく飲む人もいる。料理を食べ、料理を作り、そうして大量のアルコールを体内に流し込んでいる。僕も酒飲みだが、酒を飲んで恋愛したことが無かったので、これはとても不思議な感じだった。作者が女性だからかな、とも思うのだが、酒の勢いでそういう流れが作られていくというのが、よく分かる。そういうことってあるんだろうとは思うのだが、なるほど男の目からすると、そういう風に飲んでいる女というのは、居たのかもしれないと改めて思った。もう僕は若くないので、そんなことをいまさら知っても遅いのだが……。
 さてこれで、失恋したときに実際に読んだらどうなるのだろう。本当のところは分からないけれど、あえて活字を読める元気のある人であれば、軽々しく立ち直れないということも理解したうえで、救われる気持ちになれるだろうと、僕は思う。NHKの番組は正しかった。素晴らしいチョイスだと思う。まあ、特に失恋しているわけでもない僕が言っても、説得力はないかもしれないが……。
コメント
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