カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

イノシシが撥ねられる

2022-11-13 | HORROR

 いつもの散歩道は、おそらく赤道で残されている線路を横断する小径がある。それで線路渡って畔に行こうとすると、どうもなんだか異様な匂いがする。ひどく臭いが、なんの臭いなのか。レバーののような生臭さと、泥と墨が混ざったようなものと、草をこすって苦い汁が飛び散ったような、複雑な臭いが立ち込めている。線路を改めてよく見ると、臙脂色に飛び散った何かの破片跡があり、鉄にも白くこすれて伸びた線が残っている。コンクリートと焦げ茶色の木材の枕木にも激しくこすれて傷つけたような、がさがさとした線がいくつも走っている。ところどころ臙脂色の破片がこびりついている。
 今時の列車が線路に汚物を落としていくとは考えにくいが、何か汚いものをまき散らして捨てていったような、そんな情景とも取れなくもない。そういえばさっきまでカラスが複数羽群れていて、何かをつついていた。よく見ると長く縮れた赤いひも状のものが落ちている。草木のそれとは違って柔らかさがありそうで、これは腸なのではないか。すると、何かの動物? 猫か何か……。4.50m先とさらにみると、黒いずんぐりとした塊が線路に横たわっているのをやっと発見した。ああ、あんなに大きいのはイノシシだ。イノシシが跳ねられたのだ。
 近寄って歩くと、さらに肉塊やちぎれた腸や、他の臓物らしきものが飛び散っているのが分かった。腸もあちこち伸びて千切れている。大きな塊のイノシシ本体の死体は、真横にゴロンと転がった形で、ちょうど線路の真ん中にぴったりと収まる形で横たわっている。触りたくないので動かすつもりになれないが、この体の下側に曲がって隠れている頭があるのか、もしくは頭は千切れてどこかに飛んで転がっているかもしれない。角度かもしれないが、頭の無い丸く黒い塊には傷や穴が開いていて、そういうところから、これまで見てきたような臓物が飛び散っていったのだろう。先ほど僕が見た現場あたりで最初に跳ねられ、そのままゴロゴロと、もしくは引っかかりながら引きずられ、ここまで来て落ち着いたのだろう。ナムアミダ。
 それにしても臭いが凄いが、跳ねられたのはいつ頃のことだろうか。すでに昼になっていて、いくら田舎でも、何本もの列車が行き交ったはずである。運転手はギョッとしただろうが、どうすることもできず、上を通り過ぎて行ったことだろう。最初に跳ねた運転手は当然気づいていたはずで、そうするとその人が会社には連絡したはずだとは思う。それでもすぐに片付けることができなくて、こうして死体が横たわったままになっているのかもしれない。
 その後もカラスの鳴き声がずっとあたりを支配していた。夕方暗くなってからは、もう近づかなかった。
 それで翌日になってみると、驚いたことにちゃんと片付いていた。夜のうちに片づけた人が居たのだろうか。線路のあい中に挟まるくらいだったとはいえ、丸々していたし、100キロ以上は少なくともある個体だったはずである。何か道具を使うにしても、複数人で葛藤したのではなかろうか。どういうお仕事の人が処理されたものか知らないけれど、実際大変だったろうと思う。処理したのちのことは更に知らないが、もう食べるわけにもいかないだろうしね。
 飛び散っていた肉片などもあらかた片付けられていた。多少線路内での引きずられた跡かたは残っていて、やっぱり夢じゃなかったんだな、という程度にきれいになっていた。臭いだけは残っていて、野生というのは、身近にありながら、やっぱりワイルドなんだな、と思った。

※ なお、写真はかなり生々しかったので、やっぱりあげないことに致しました。悪しからずご了承ください。
コメント
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