カワセミ側溝から

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

一筋縄では理解できない痛快娯楽作   ブラックブック

2019-04-17 | 映画

ブラックブック/ポール・ヴァーホーヴェン監督

 ナチス占領下のオランダで、ユダヤ人家族が船で逃げようとしたところ、どうも裏切りがあったらしく皆殺しにされてしまう。一人だけ川に飛び込んで逃げおうせたエリスは、レジスタンスに加わりナチスの幹部の愛人としてスパイ侵入する。隠しマイクを仕掛けるなど活躍するのだったが…。
 その後物語は二転三転、クライマックスでお話が終わったかと思ったらまだ続きがあって…、という具合で結構長い。しかし、いわゆる飽きさせない演出で、ヒロインは頻繁に服を脱がされ胸を出されてしまう。本当に歌手らしくて歌も上手いし、熱演である。汚い場面も危険を伴う場面もあるし、なかなか大変である。たくさんギャラをもらってたらいいのだが。
 戦争娯楽映画だから、ある程度の残酷さとカタルシスはあるのだが、なんといってもヴァーホーヴェン監督である。なんとなく話はひねってあり、一筋縄ではいかない人間ドラマとなっている。ナチスは確かに憎むべき悪だが、レジスタンス側にも許されない人物はたくさんいる。そういう戦争の悲劇を、なかなかの皮肉で描き切っているのではないか。一番けなげで屈託なく戦争を生き切った人間は、ふつうに頭の悪い娼婦だったりする。むしろ意識が高く正義感の強い人間は、残酷な運命で殺されてしまったりするのだ。
 戦争というものは、どちらかが悪いからだとか、正義として正当だからという理由で勝ち負けが決まったわけではない。基本的に殺し合いだから、どちらも悪いに決まっている。ナチスのユダヤ人の虐殺は、確かに戦争としてひどいものだが、その後戦勝国がドイツ人を虐殺した罪が問われていないのは、結果的にたいへんに不公平だった。それが現代の戦争のすべてである。だからこのような映画が作られたというのは、あんがい非常にまれなケースであったりすると思われる。近年になって少しばかりそういう視点のものを民衆が受け入れるようになってはいるとは思えるが、基本的に娯楽作品でありながら、そのような視点を混ぜている映画というのは希少である。変な監督が映画を撮るという意味はそこのあたりにあって、この監督さんは偏って変な人だからこそ、我々を驚かせることができるのである。慣れていないと妙な感想を持つことにはなるかもしれないが、まあ、それもいい体験である。今に生きているということを考えるうえでも、このような映画は貴重であろう。
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