エルELLE/ポール・バーホーベン監督
冒頭から女性が自宅でレイプされる。これを演じるイザベル・ユペールは当時60は過ぎていたというが、設定上40代後半(か、せめて50くらい)くらいの女性と思われる。それだけでも脅威の作品なのだが、この女性がかなり変なのである。レイプされても警察に通報しようともしない。徐々に明かされていくが、子供のころに父親が虐殺事件を起こしており、その現場にいた影響で、警察やマスコミを毛嫌いしているということのようだ。レイプ犯は当然許せないが、何か防衛や反撃を考えている様子だ。そういう中経営している会社内部に、自分をレイプするゲームの場面が流されたりする。誰か身近な人がレイプ犯としか考えられない。また、誰かに監視、もしくは盗聴されているような気配もある。そういう中にありながら、元夫やセックスフレンドや、おそらくレズ関係や隣人の性欲をそそる男など、欲望に忠実に生活しているように見える。気に食わないことは山ほどあるが、それらに屈しない強い女だったのだ。
映画としては絶賛され、暴力が好きなバーホーベン監督はすっかり復活を遂げた(とはいえご高齢なので、次作があるのか?)。当然主演を演じたユペールは、女優として大絶賛を受ける。フェミニストには面白くない作品とも言われているが、この変態的で不可解な女は、一躍理想の女性像に持ち上げられた格好かもしれない。僕にはほとんど意味が分からなかったものの、とにかく凄い人だなという印象は残る。人間関係のむちゃさはもちろんだが、嫌われていることに自覚がありながら、強がってそうするのではなく、自然でいられるという意味では、確かに理想の人間像かもしれない。とても現実にはなれそうもない人物ではあるけれど。
理解できないまでも面白く観られるのは、展開が予測しにくいからだ。いわゆる常識的に考えるとそういうことはしないはずだが、それが荒唐無稽でシラけるわけではない。なんでそんなことを! と思いながら目が離せなくなるのだ。どう考えてもまずいことをしているし、さらに非常に危険だ。やばいんじゃないかとヒヤヒヤするが、腕力でなくその場を乗り切る力がある。いや現実には激しく男に犯されたりするのだが、それが必ずしも悲劇的なだけではないのである。共感ができないのに、興味が薄れないからこそ、映画として絶賛されたのであろう。まあ、人は選ぶのだろうけど。
これだけ人が傷つき傷つけられるにもかかわらず、そんなに後味が悪いわけではない。もちろん清々しい映画というわけにはいかないが。暴力あふれる世の中で生きていく方法としては、ひょっとすると参考になる人はいるかもしれない。