カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

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屈折した人生を強制的に歩まされる人々   将軍様、あなたのために映画を撮ります

2019-04-21 | ドキュメンタリ

将軍様、あなたのために映画を撮ります/ロバート・カンナン ロス・アダム監督

 北朝鮮に拉致された韓国の女優と映画監督の当時のことを追ったドキュメンタリー。特に監督のほうは、当初北朝鮮へ亡命したとされていて、韓国では批判があったようで、すぐにこのような映画は作りにくかったのかもしれない。実際に彼らは北朝鮮で精力的に映画を撮り続け、国際社会へのアピールをしていた。もちろんそれは北朝鮮(特に金正日)の思惑であったためで、北の社会では優遇された身の上ではあったかもしれないが、常に監視され国策に従わされていた現実があった。一時は映画であれば自由に撮れるということもあって、情熱をもって映画を作りつづけていた事実はあるようだが、最終的にはアメリカに再亡命することになる。まさに数奇な運命ともいえる二人の境遇を、関係者や家族、女優本人のインタビューを交えて、衝撃的に紹介している。
 二人はもともと韓国でも第一線で活躍していたばかりか、夫婦でもあり子供もいた。夫である監督の浮気と、別に子供もいたということで離婚はしていたようだ。しかしながら当時は韓国も軍事政権下でもあり、映画を撮るためにはなかなか金が集まらないなどの苦労はしていた。先に女優のほうが拉致され、追って監督も拉致されるが、北で映画を撮るというのは、金正日の意向なのであるから、豊富な資金を与えられて自由に映画を撮り、ヨーロッパの映画祭などに出品するなど、国際世論からは屈折した見方で二人の境遇はみられていた可能性が高い。そういう屈折した事情がドキュメンタリーによって明らかにされることで、北朝鮮の実情のようなものも浮き彫りにされていくのである。独裁国家の、世襲したカリスマ性のない比較的おとなしい男の孤独と、北の民衆のクレイジーにふるまわなければならない残酷さの一端も、見事にとらえられている。
 日本でも拉致問題は深刻なのであるが、当然一番拉致被害者の数が多いのは韓国であろう。様々な思惑で北朝鮮にとらえられ、そうして家族が引き裂かれるだけでなく、その国策のために働かされることになる。一方では裏切り者とされて、亡命先はアメリカにせざるを得なかったのではないか。休戦状態でいまだに戦争の終わらない東アジアの状況は、このような悲劇を再生産させ続けているのかもしれない。
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