カワセミ側溝から

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

尊敬と憎悪は紙一重   笑う故郷

2019-04-13 | 映画

笑う故郷/ガストン・ドゥプラット、マリアノ・コーン監督

 アルゼンチン、スペイン映画らしい。主人公はノーベル文学賞を取って英雄になっている。様々なところから講演依頼が来て引っ張りだこの状態であった。そういう中アルゼンチンの田舎町から名誉市民にしたいという依頼が来る。若いころに町を離れて以来、一度も帰ったことはない故郷なのであった。なんとなく興味を感じたのか、忙しい中にもかかわらず無理にスケジュールを空けて帰省することにした。
 まち出身の作家がノーベル賞を受賞したのだから、田舎町は大騒ぎである。ところが一方で、小説では故郷の町を悪く書きそれを売って金を稼いだと見ている連中もいる。小さい講演会では妨害が入るようになる。また、熱烈に歓迎してベッドまで共にしてしまう若い娘は、以前の友人の娘だったりする。何か大きく歯車が狂ってしまった状況にあって、作家は街の中で孤立し、どんどん顰蹙を買って、身も危険な状況に追い込まれていくのだった。
 妙な田舎のテンポのようなものがあって、スペインから帰ってきた作家にとってみれば、最初からどうもなじめない感じだ。確かに出身の町なんだし、懐かしくないわけではない。しかし自分はどうしてこの街を捨ててしまったのかも、同時に確認しているような状況になっていく。基本的に言われるままスケジュールをこなそうとするが、様々な思惑の中頭が混乱して自分がどうしていいのか見失いそうになってしまう。男女関係や小説と虚構が入れ混じって、自分のやってきた芸術というものが何なのかも、問われることになっていく。そうしてその自分の声が、確実に町全体の反感の的になってしまうのであった。
 なかなかに恐ろしく、傑作である。いったい何という映画だろうと途中あきれてみていたが、シリアスな部分も含め、狂気が徐々に充満していって、どのような形で爆発するのか冷や冷やしてしまう。実際とんでもないことに発展するが、結末も見事だろう。映画の勝利とは、このような作品を指して言うのではないだろうか。
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