ボトルネック/米澤穂信著(新潮文庫)
パラレルワールドのSFミステリ作品。というか、主に心理劇になっていて、謎解きはもちろんあるけれど、若い世代の人間の心の葛藤を描いている作品といえるだろう。僕なんかは若くないからほとんど忘れてしまったが、こんな葛藤がある人間もいるんだな、という感じだった。
パラレルワールドということで、自分のいる世界から、生まれてこなかった姉が存在する世界に迷い込んでしまう、という展開になる。姉はいるが自分はいない。それだけのことのように見えるが、しかしそのことで、わずかながら違った世界になっていることが徐々にわかっていく。要するにそれは、姉の影響力で変わるところと、自分の影響力で変わっているところということになる。銀杏の木の有る無しや、両親の関係や、恋人の存在などが実に大きく異なっている。パラレルワールドなのだから、それは当たり前のことなんだが、しかしその対比が明らかにされていくにつれて、主人公はどんどん追い込まれていく感じなのだ。謎解きが進むカタルシスがありながら、衝撃のラストの展開に、思わず唸らされるという寸法だ。なるほど、後味はともかく、なかなか面白い話である。
文章は、いわゆるラノベ風で、僕のような人間には、逆に取っ付きにくい感じもあるが、若い人には読みやすいのかもしれない。しかしながら内容的には、構成もしっかりしているし、アイデアもなかなかという感じかもしれない。僕にはちゃんと謎が自分自身で解けなかったところもあるのだが、まあ、細かいところは抜きにすると、だいたいの衝撃はちゃんと受けたように思う。要するに楽しめた訳だ。考えてみると子供の考える社会の事なので、ちょっともどかしく感じられるだけのことで、そういうことも含めて、見事な力量で書かれていることも分かる。普通に大人が読んでも、差しつかえることは、まず無いだろう。